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“軍事的研究は慎重に” 科学界が新声明

“科学者の国会”とも言われる、日本の科学者の代表機関、「日本学術会議」が、今月14日、軍事的な安全保障の技術研究に慎重な対応を求める、半世紀ぶりの新たな声明を総会の場で示しました。
声明を示すきっかけとなったのは、防衛省がおととし導入した、大学などの研究機関に資金を提供する制度で、新たな声明では、この制度について、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘しています。
この声明を踏まえて、NHKが全国の大学に防衛省の制度への今後の対応をたずねたところ、「応募を認める」が1大学、「応募を認めない」が16大学、「審査を行った上で判断する」が15大学と、対応が分かれていることが分かりました。
(科学文化部・河合哲朗記者 名古屋局・岡山友美記者)

半世紀ぶりの声明

日本の科学者、およそ84万人を代表する国の特別の機関「日本学術会議」。東京・港区にある講堂で、今月14日、全国から集まった研究者を前に、新たな声明「軍事的安全保障研究に関する声明」が読み上げられました。

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声明では、「軍事目的の科学研究を行わない」などとする、日本学術会議が戦後掲げてきた2つの声明を「継承する」としています。そして、防衛省が大学などの研究機関に資金を提供する制度について、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募や審査が行われ、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘しています。
そのうえで、それぞれの大学などに対して、軍事的な安全保障の技術研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を技術的・倫理的に審査する制度を設けるよう求めています。
一方で、声明には、軍事的な安全保障の技術研究を禁止する直接的な文言は盛り込まれていません。

日本学術会議が示した新たな声明について、防衛省は「日本学術会議が独立の立場において決定したものであり、防衛省としてコメントは差し控える」としています。

戦後の2つの声明を継承

新たな声明の冒頭に記された戦後の2つの声明とは、日本学術会議が、昭和25年と昭和42年にそれぞれ発表したものです。
日本学術会議は、昭和25年、太平洋戦争で科学者が兵器の開発などに協力した反省から、「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」とする声明を出しました。しかし、昭和42年に、日本物理学会がアメリカ軍から資金提供を受けていたことが明らかになり、日本学術会議は「軍事目的のための科学研究を行わない」とする声明を改めて出しました。

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この2つの声明を継承するにあたり、今回の声明では「近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学などの研究機関における軍事的安全保障研究が、学問の自由および学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認する」としています。

拡大する防衛省の資金提供制度

今回の声明のきっかけとなった、防衛省が大学などの研究機関に資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」は、おととし導入されました。

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これまでに、大学や研究機関などから153件の応募があり、19件の研究が採択されています。このうち大学と高等専門学校からは81件の応募があり、大学からの9件が採択されています。
制度の背景には、安全保障環境が厳しさを増す中での、政府の方針があります。政府は4年前の平成25年に閣議決定した「防衛計画の大綱」で、防衛力を支える基盤を強化するため、「大学や研究機関との連携の充実などにより、防衛にも応用可能な民生技術の積極的な活用に努める」として、大学などとの連携を強めていく方針を掲げています。
こうした方針のもとで導入された、防衛省が大学などの研究機関に資金を提供する制度は、年々予算が拡大しています。1年目、平成27年度の予算はおよそ3億円で、2年目の昨年度はおよそ6億円でしたが、3年目となる今年度はおよそ110億円に大幅に増額されています。

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研究1件当たりの提供額も、平成27年度と昨年度は最大で年間およそ4000万円でしたが、今年度は最大5年間で20億円規模に広げられました。

大学によって分かれる対応

新たな声明を踏まえて、それぞれの大学は、防衛省の制度にどのように対応しようと考えているのでしょうか。NHKでは、国の科学研究費補助金の配分額が多い、全国の100の国公私立大学を対象に、日本学術会議の新たな声明に関するアンケートを行い、今月11日までに80の大学から回答を得ました。

防衛省による研究資金の提供制度について、今後の対応をたずねたところ、「応募を認める」が東京農工大学の1大学、「応募を認めない」が九州大学や早稲田大学など16大学、「審査を行った上で判断する」が熊本大学や大阪府立大学など15大学と、対応が分かれていることが分かりました。

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また、京都大学や東北大学など47大学は「対応は決まっていない」と回答しています。

「応募を認める」と回答した東京農工大学は、「本学は、研究プロポーザルの段階では明確なルール(方針・内規等)は設けず、研究受入段階における外部資金等受入審査会において、研究内容に応じた必要な審議・審査を行っている。なお、申請段階における審査についても、今後検討する予定である」としています。
「応募を認めない」と回答した九州大学は、日本学術会議の新たな声明について「過去の2つの声明を踏襲することは評価している」としたうえで、研究が適切かどうか審査する制度を設けるべきだとしていることについては、「現実的に極めて困難であると感じている」としています。

アンケート結果を専門家は

アンケートの結果について、科学史が専門で、科学者と軍事的な研究との関わりを調べている東京工業高等専門学校の河村豊教授は「たとえ公的な資金であっても、軍事的な研究に絡めた形で大学に入ってくることに危機感を持つ大学が、国立・私立を問わず、共通して存在していることがわかる」としています。
そのうえで、「今回の声明は、50年ぶりの画期的なことだと思う。それを受けて大学も、今この問題に直面したと言える。ただ、今回の声明は、あくまでひとつの方針にすぎず、これをどのように具体化し、有効なものにしていくかは、各大学の、さらに研究者一人一人の継続的な議論にかかっていると思う」と話しています。

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判断を求められる大学

声明の取りまとめを行った法政大学の杉田敦教授は、日本学術会議の総会で、「今回の声明は終着点ではなく、議論の原点を打ちたてたものであり、大学や学会、そして日本学術会議において、これからも議論を続けなければならない」と述べました。日本学術会議の声明には強制力はありませんが、日本の科学界の意思を表明するものと位置づけられていて、それぞれの大学では、軍事的な研究にどう対応するか、判断を求められることになります。
防衛省による研究資金の提供制度の、今年度の応募の締め切りは、来月31日となっています。現時点で、防衛省の制度への対応を決めていない大学でも、学内の研究者から応募の希望がある場合、来月末の締め切りまでには、応募を認めるかどうか、判断が必要になります。

河合哲朗
科学文化部
河合哲朗 記者
岡山友美
名古屋局
岡山友美 記者