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“死後離婚”を考える

“死後離婚”ということば、最近、耳にすることがあるのではないでしょうか。しかしそもそも、配偶者が亡くなれば、“離婚”はできません。実は“死後離婚”は配偶者の死後、義理の両親やきょうだい、いわゆる“姻族”との関係を断つことを指す造語です。どんな思いで、なぜ、関係を断つ人が出てきているのでしょうか。(報道局記者 中川早織 おはよう日本ディレクター 金武孝幸)

女性から?姻族関係終了届

姻族との関係を断つには役所などに”姻族関係終了届”という書類を出すことなります。姻族側の同意は必要でなくいわば一方的に出すことができます。
法務省によりますと、姻族関係終了届の件数は昨年度は2783件と、この10年で1.5倍に増えています。東京の渋谷区役所を取材すると、これまで年に数件でしたが、最近になって増えていて、今年度はすでに14件。すべて女性が出しているそうです。

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メリットはなし?

姻族関係終了届を出すことで、何か得られる具体的なモノがあるわけではありません。こうした手続きをとらなくても、法律上、基本的には、配偶者に義理の両親を扶養する義務はなく義理の両親から相続を受ける権利もないのです。ではどんな理由で届けを出すのでしょうか?。

“死後離婚”した女性は

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夫の死後、姻族関係終了届を出したという女性に話を聞くことができました。女性は結婚した後、実家の家業を継いだ夫と、その両親と同居して家族を支えてきました。
夫の母親、つまり“しゅうとめ”との関係が変化したのは、夫ががんで亡くなったあとでした。家事や2人の子育てをしながら、家業を継ぐことになった女性は、しゅうとめから、仕事の進め方に度々厳しい指摘を受けるようになったと言います。
女性は、「しゅうとめは、“長男の嫁”だからやるのは当たり前という価値観を押しつけてきた気がしました。頑張っていたのですが、認められない。悲しかったです」と当時の思いを振り返りました。次第に女性は追いつめられ、夫の死についても責められていると感じるようになったと言います。そして2年間、悩んだ末、姻族関係終了届を提出し、義理の親族との法的な関係を断ちました。
女性は「しゅうとめも言いたいことはたくさんあると思いますが、私としては縁を切ることですっきりした気がしました。前向きに生きられるようになったと思います」と話していました。姻族関係終了届を出したのは”縁を切る”という気持ちの面での動機が大きかったようです。

親世代とのギャップに悩み

さらに義理の親との関係に悩み、“死後離婚”を考えているという女性4人に話を聞くことができました。

30年続けた仕事を、義理の両親の介護のために辞めたという女性。女性は親の世代が思い描く“嫁の役割”が、女性の社会進出が進む今も変わらないことに憤りを感じていると言います。
「夫も親も親戚も、介護は“嫁”がやって当たり前と思っている。私が介護をやらないという選択権は議論されなかった」と話していました。

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結婚当初から義理の両親と同居しているという女性は、「しゅうとが“この家では俺が1番”というタイプ。二言目には、“嫁のくせに”とこれまでずっと見下されてきた」と言います。

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また別の女性は離れて住む義理の両親の過干渉が困ると話していました。
「子どもをいつ産めとか男の子がいいとか口を出されます。お宮参りのような子どものイベントも一方的に日にちなどを決められてしまいます。夫と結婚したのであり、夫の両親がすてきだからと思って、結婚したわけではない。夫が亡くなった後まで、関係が続くと思うと耐えられません」と話していました。

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さらに別の女性は、「娘には将来、自由にさせてあげたいのに、しゅうとが“家を継ぐんだからな”と娘に言い聞かせ、“家”に縛ろうとしている」と不満を漏らしていました。
4人の女性の話から、“家”に対する考え方に親の世代との間でギャップがあり、関係に亀裂を生んでいることが見えてきました。

“死後離婚”に厳しい声も

姻族関係終了届を出すことをどう思うのか、街で聞いてみると出すことに疑問を感じるという意見が多く聞かれました。「わからないこともないけど、失礼だと思います。死んだからはい、さようならじゃあ本当に失礼じゃないかな」。「相手に対して情がなさ過ぎる気がします」。「いままでずっと一緒にいた家族なのにそんな届けを出すなんて寂しいです」などなど。総じて厳しい意見でした。

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”家”への意識差が背景

“死後離婚”がいま話題になるのは、戦前の“家制度”への意識が残っている世代とそうでない世代の差があるからではないかと指摘する専門家もいます。家族問題に詳しい早稲田大学の棚村政行教授です。
棚村教授は「法的には戦前は、父を戸主として、子どもやその配偶者がつながる縦の関係が家族。ところが戦後は夫婦という単位が家族となった。しかしいまも高齢の世代を中心に、従来の家制度の考えが根強く残っていて、妻は“家に入った嫁”という意識がある。そうした”家に入った嫁”という考え方に我慢できなくなったり意味を感じなかったりする人が増えているのだと思う」と分析しています。

“死後離婚”回避するには?

夫婦問題カウンセラーの高原彩規子さんに“死後離婚”について聞いてみました。高原さんは「姻族関係終了届は”最後の手段”。配偶者の両親との関係に悩んだらまず夫婦で悩みを話し合うべきです。それも夫婦が元気なうちに、問題に向き合うことです。それで解決することもあります。 姻族関係終了届というのは努力をしてそれでもダメだった時のものだと思う」と話していて配偶者の両親との関係に悩む人たちにもそうアドバイスをしているそうです。

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向き合った夫婦は

紹介したいのが“死後離婚”を知ったことで、妻が抱える不安と向き合った夫のケースです。64歳の夫は長男で母親はいまは介護施設で暮らしています。もし自分が妻より先に死んだとき、母親の世話はどうするのか。妻の負担になるのではないかと感じていたそうです。

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男性は初めて妻に「無理して母と過ごさなくていいよ」と告げ、妻の気持ちを確かめたそうです。妻は、結論を出しませんでしたが、「自分の人生を、夫が真剣に考えてくれたことがうれしかった」と言い、不安だった気持ちが楽になったと話してくれました。

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“死後離婚”が突きつけるものは

もちろん“死後離婚”という選択をせず、互いの両親ともよい関係を作っていければと思います。一方で家に対する考え方の違いが世代間で大きく違うのも事実でその考え方のずれが、さまざま問題を生み出している側面もあります。
この問題、単に“嫁・しゅうとめ”という問題だけではなく、社会が変化する中で、親と子、夫婦、それに家族とはどうあるべきなのか、ということを突きつけているように感じました。

中川早織
報道局
中川早織 記者
金武孝幸
おはよう日本
金武孝幸 ディレクター