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空港の検査員大量離職 背景は?

ハイジャックやテロを防ぐため、旅客機に乗る前に空港で必ず行うのが、手荷物などを確認する「保安検査」です。この検査を担当するのが保安検査員ですが、成田空港では、この検査員が大勢辞めてしまう事態が起きています。時間帯によっては人員が限られ、保安検査場のレーンが開けられず、混雑が起きるケースも出ています。なぜ大量離職が起きているのか、千葉放送局・成田支局の地曳創陽記者が取材しました。

離職率30%の衝撃

空港の保安検査は民間の検査会社などが行っています。成田空港の検査員は平成27年度当初は900人ほどが働いていました。しかし、検査会社などによりますと、このうちおよそ290人、率にして30%余りが1年間に辞めていることがわかりました。おおむね3人に1人が辞めている計算になります。こうした検査員の高い離職率はここ数年続いているといいます。

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離職の背景には何が

多くの検査員が離職する背景には、勤務時間や給与などの待遇面に課題があるといわれています。検査員の石川美柚さん(19)の勤務に密着しました。
空港での仕事に憧れて、去年入社した石川さんは、保安検査場で乗客のボディーチェックや荷物の中身を確認する仕事を担当しています。取材した日は、朝7時からの勤務でした。財布から小銭を取り出して小型のナイフなどが隠されていないか、水筒の中のにおいをかいでガソリンなどの危険な液体が入っていないかなど、細かく荷物を調べていました。見逃しは許されない気の抜けない作業です。

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検査場での作業は、出発する便の数に応じて、1日に4回から5回ほど小刻みに組まれています。その間は休憩時間となり、勤務時間には含まれません。立ちっぱなしの仕事を終えて帰宅したのは、寮を出てから15時間後の午後9時でした。不規則な勤務で、ほとんど自分の時間がとれないという石川さんですが、給料は手取りで月15万円ほどです。

高い技能も求められる

さらに、検査員は専門的な技能が求められます。現場の責任者に就ける「国家資格」や複数の社内の試験があり、日々の勉強が欠かせないといいます。石川さんも、X線モニターで危険物を見分ける技能を身につけるため、部屋に戻ったあとすぐに机に向かって勉強をしていました。

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物をX線に通すと、モニターには金属の部分だけが黒く映ります。そのため元の形とは違った画像が映し出されます。刃物や特殊なライターなど、持ち込めないさまざまな物がどのような形に映るか覚えるとともに、それを瞬時に見分ける判断力を鍛えなくてはいけません。
この検査会社では、訓練をした検査員が1人前になるのに、少なくとも3年はかかるとしています。石川さんは「テロやハイジャックを絶対に起こさないためにしっかり勉強して、知識を身につけて防ぎたい」と仕事への思いを語ったうえで「拘束時間が長く、給料も低いので続けられるのか不安です」と話していました。

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航空会社との契約関係

こうした待遇の背景には何があるのでしょうか。実は、保安検査は航空会社が民間の検査会社などに委託して行っています。この契約料が検査会社の主な収入になっていて、検査員に給料が支払われています。規模の大きな空港では検査会社との契約は、空港に乗り入れている航空会社で作る協議会が入札を行って決めているため、契約料の引き上げには各航空会社のそろった理解が必要になります。そのため、検査会社だけで待遇を改善するのは難しいのが実情です。

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ある検査会社では、社員寮を新築して生活環境の改善を進めたり、技能が高い検査員を表彰したりして、人材の定着を図ってきましたが、離職を食い止められていないといいます。検査会社の担当者は「空の安全を守るという検査員の使命感で何とかもっています。環境を変えたいと力を入れていますが、われわれだけでは見直すことができません」と話していました。

退職する熟練の検査員

待遇の改善が望めないとして、辞める熟練の検査員もいます。去年、退職した神井裕二さん(30)に話を聞きました。神井さんは最も難しい国家資格を取得し、現場の責任者も務めていました。神井さんは妻と3歳の子どもと3人で暮らしています。退職前の給料は、手取りで月およそ22万円でしたが、8年半働いて上がった基本給はわずかで、さらなる昇給も望めなかったということです。また不規則な勤務では、子どもと過ごす時間もとれないのではと考え、心残りもありましたが、転職を決意したといいます。神井さんは「拘束時間と給与が見合っていないので、仕事を続けるのは厳しかった。将来を考えるのはまず無理でした」と話していました。

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全国の空港の状況把握は

こうした検査員の高い離職率は、決して成田空港だけの問題ではないといえます。羽田空港や関西空港は、24時間の運用で勤務環境は厳しく、離職率が高いケースもあると話す関係者もいます。ただ、全国の空港の状況はまだ正確に分かっていないのが現状です。国も調査をしていますが、航空会社と検査会社の契約に関わるため、完全な把握は難しいと話しています。

空の安全の人材確保

日本では、保安検査の責任は航空会社が負うことが、法律で定められています。しかし、例えばアメリカでは公務員が保安検査を行っていて、国が責任を持って行っているところもあります。安全に対するコストへの考え方を見直し、より国が関与すべきだとする専門家もいます。
大妻女子大学の戸崎肇教授は「日本は根本的な危機を体験したことがないので、安全というのは保障するけどそこにお金をかけるということがない」と指摘したうえで「東京オリンピック・パラリンピックに向けて、保安検査の重要性を国としてもしっかり認識して、待遇改善、そして人材育成により努めていくべきだ」と話していました。

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成田空港では、検査員の大量離職でノウハウの継承が進まず、検査の質が低下してしまうのではないかという懸念の声も聞こえます。全国の実態も把握しながら、空の安全を守る人材をどう確保していくのか、関係者で考えていく必要があると感じました。

地曳創陽
千葉放送局
地曳創陽 記者