防衛費増額とその使途

防衛費は、防衛力を5年以内に抜本的に強化する初年度の予算として、2022年度より1兆4000億円余り上積みされ、過去最大の6兆8000億円余りとなりました。分野ごとに詳しくみていきます。


防衛力抜本的強化の元年予算

政府は新たな「防衛力整備計画」で2023年度から5年間の防衛力整備の水準を今の計画の1.6倍にあたる43兆円程度としていて、防衛省は計画の初年度にあたる2023年度予算を「防衛力抜本的強化の元年予算」と名付けて公表しました。

それによりますと2023年度予算の防衛費は過去最大の6兆8219億円で2022年度の当初予算と比べて1兆4000億円余り多く、およそ1.3倍と大幅な増額となりました。防衛費の増額は11年連続です。

重点的に増額が図られた分野では、装備品の維持整備費に2022年度の1.8倍となる2兆355億円、弾薬の取得に3.3倍となる8283億円、自衛隊施設の整備費に3.3倍となる5049億円が計上されています。

また、装備品の研究開発に3.1倍となる8968億円、自衛隊員の生活や勤務環境の改善費に2.5倍となる2693億円も盛り込んでいます。

このうち「反撃能力」を行使するために敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」として、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得に2113億円、国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良開発・量産に1277億円を計上するなど重点的に予算を盛り込んでいます。

防衛省は防衛力を抜本的に強化するために重視する7つの分野を挙げ、必要な経費を積み上げたとしていて、分野ごとに詳しくみていきます。

1 スタンド・オフ防衛能力

▽「反撃能力」を行使するために敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」を早期に整備するとしています。

▽アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得に2113億円を計上しています。2026年度からイージス艦に配備する方針で、射程はおよそ1600キロとされています。

▽また、国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良開発・量産に1277億円、▽「島しょ防衛用高速滑空弾」の研究・量産に505億円を計上し、いずれも、2026年度から配備を始める方針です。

▽このほか、音速の5倍以上の速さで飛行する「極超音速誘導弾」の研究に585億円、戦闘機に搭載するノルウェー製の「JSM」の取得に347億円、アメリカ製の「JASSM」の取得に127億円を計上しています。

2 統合防空ミサイル防衛能力

▽配備を断念した「イージス・アショア」の代替策として建造する「イージス・システム搭載艦」の整備に2208億円を計上しています。

当初の想定より小型化する方針で、迎撃がより難しいとされる極超音速滑空兵器にも対応できるよう能力を拡張するとしています。

3 無人アセット防衛能力

▽攻撃型の無人機として、ミサイルを積めるドローンや自爆型のドローンの取得に99億円を計上しています。

4 領域横断作戦能力

「宇宙・サイバー・電磁波」の新たな領域での能力を強化するとしています。

▽宇宙領域でほかの国の衛星の動向などを把握する「SDA衛星」を製造するため595億円を計上し、2026年度に1号機を打ち上げたいとしています。

▽また、衛星を使って極超音速滑空兵器を宇宙から探知・追尾する技術の実証に46億円を計上しています。

▽サイバー領域では人材育成のため陸上自衛隊の通信学校を改編する費用として2億円を計上しています。

▽電磁波領域では、相手の電磁波の影響を受けにくいステルス戦闘機「F35」の取得に2504億円を計上しています。

5 指揮統制・情報関連機能

▽ロシアによるウクライナ侵攻で見られたような「情報戦」にも対応できるよう、情報収集や分析の体制を強化するほか、AIで意思決定を支援する研究に43億円を計上しています。

6 機動展開能力・国民保護

▽南西地域で部隊を迅速に展開するため、陸上自衛隊の物資の保管施設を新たに沖縄県に設けるため、2億円を計上しています。

7 持続性・強じん性

▽部品不足を解消するため装備品の維持整備費に2022年度の1.8倍となる2兆355億円、弾薬の取得に3.3倍となる8283億円を計上しています。

▽また、「反撃能力」に使われる「スタンド・オフ・ミサイル」などの弾薬の確保に必要な企業の製造ラインの強化に1618億円、火薬庫の確保に58億円を計上しています。

▽老朽化した自衛隊の施設の建て替えや強化のため、868億円を計上しています。

▽このほかの分野では、防衛産業がサイバーセキュリティの強化などを行う際の費用を支援する事業に363億円、▽防衛装備品の海外移転を支援する基金をつくる費用に400億円を計上しています。

自衛隊施設なども「建設国債」対象に

政府は、2023年度予算で公共事業に使われる「建設国債」の対象を拡大し、新たに自衛隊施設の整備費や艦船、潜水艦の建造費として4343億円を発行することにしています。

「建設国債」はこれまで海上保安庁の巡視船の建造費などの財源に充てられた例はある一方、防衛費に充てることは認められておらず、国債発行の在り方を転換することになります。

政府は建設国債の対象を拡大する理由について「防衛予算を議論する中で、海上保安庁との連携を強化する方針となり、国債発行のあり方も海上保安庁の巡視船と同じ考え方を適用することにした。公共インフラ整備も含めて安全保障にかかる経費全体について総合的な考え方をとることにした」と説明しています。