油井秀樹がトランプ政治を斬る

3つの反動~トランプ人気の秘密②

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「トランプ大統領とともに壁を造る!」

中間選挙に立候補している共和党の候補者たちのテレビコマーシャルには、トランプ大統領の主張、「国境の壁の建設」をそのまま訴える内容が目立つ。

2年前の大統領選挙でトランプ氏が不法移民の流入を止めるとして壁の建設を掲げた時には、国の内外から批判が続出し、共和党内でも反発の声があった。その状況は大きく様変わりした。

世論調査によれば、移民問題への関心は高い。とりわけ共和党支持者には移民問題を最大の関心事と答える人が多い。
背景には、アメリカの人種構成の変化に対する反動、白人の危機感があると見られている。

多様性への反動 白人至上主義が活発に

およそ60年前の1960年、アメリカでは白人が圧倒的多数の85%を占めたが、今は60%あまりにとどまる。

2050年にはヒスパニック系やアジア系が大幅に増え、白人の比率は全人口の半分以下の47%に減少するとみられている。多数派から転落するという白人の危機感、これがトランプ氏の掲げる強硬な移民政策を後押ししている。

トランプ大統領の登場で勢いづいたのが、白人至上主義者の活動だ。

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デービッド・デューク氏

「『アメリカを再び偉大な国にする』。トランプ氏が掲げるこの言葉の意味がわかりますか? それは『アメリカを再び白人の国にする』ということです」

そう解説したのは、かつて白人の秘密結社KKK=クー・クラックス・クランを率いたデービッド・デューク氏だ。2年前、私は彼のもとを訪ね、取材した。大統領選挙でトランプ氏を熱狂的に支持し、みずからも上院議員の選挙に立候補したからだ。

デューク氏はこう主張した。

「日本は日本人の国です。同じようにアメリカはアメリカ人の国です。ではアメリカ人とは誰なのか。建国の父を見てください。アメリカの憲法を誰が起草しましたか。みな白人です。アメリカという国の基盤は欧州から移った白人が築いた。つまりアメリカは白人の国なのです」

トランプ大統領は、デューク氏からの支持がメディアで騒がれると、一線を画す姿勢をみせた。しかし、白人至上主義者たちを自分から明確に非難することもしない。

その一方で移民、特に不法移民がアメリカ人の雇用を奪い、アメリカ社会の安全を脅かしていると強調している。

反移民主義の台頭

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アメリカでは不法移民は経済を支える貴重な労働力ともみなされ、1000万人以上が社会に溶け込んでいるとされる。仕事を見つけ、子どもを学校に通わせ、普通に暮らしているのだ。

これに対し共和党支持者の間には「なぜ不法移民のために私たちの税金が使われるのか」という反発が根強い。その不法移民が事件や事故を起こせば、なぜそれを防げないのかという強烈な怒りを巻き起こす。この反発や怒りをトランプ大統領は共和党、そしてみずからへの支持の原動力に変えている。

トランプ大統領が中間選挙の応援演説で必ず言及する「MS13」。エルサルバドルなど中南米出身の不法移民を中心とするギャング集団だ。

不法移民の危険性を強調することで、壁の建設や強硬な移民政策を正当化しているのだ。最近は人々の反発や怒りの矛先を野党・民主党に向けようとしている。

移民問題で民主党を“口撃”

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移民救済を求める民主党下院ペロシ院内総務

「共和党は不法移民を取締り、安全を守る政党。民主党は不法移民を支持し、犯罪を助長する政党だ」

こう訴えて民主党に「犯罪の政党」というレッテルを貼る。不法移民の中には貧困に苦しみ母国での犯罪と隣り合わせの危険な生活から命からがら逃れ、「アメリカンドリーム」を胸に抱いて真面目に働いている人も少なくない。

だが、トランプ大統領は「不法移民は悪。民主党はその悪をかばっている」と強硬な姿勢を崩さない。

トランプ政権が強化しているのは、不法移民の取締りだけではない。法的な手続きをきちんと踏んだ合法の移民の入国も制限している。

結果、アメリカのIT企業などで働いてきた外国人がビザを延長できずに帰国を強いられる事態も起きている。さらにトランプ政権は行き場のない難民に対しても受け入れ数を4万5000人から3万人に減らす方針を決めた。1980年以降で最も少ない人数だ。

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人権団体は「トランプ大統領は白人中心のアメリカを守りたいのではないか」と指摘する。

強硬な移民政策で白人の支持を得ようとするトランプ大統領の手法を多くの候補者がまねた結果、共和党は「白人の政党」だという印象を強めている。それは同時に人種間の分断を深めている。

多くの移民や難民を受け入れてきた多様な国、アメリカが崩れようとしている。それが人々の望む社会の姿なのか。

今回の選挙でアメリカの人々に投げかけられた大きな問いの1つである。

油井
ワシントン支局長
油井秀樹
1994年に入局。2003年のイラク戦争では、アメリカ陸軍に従軍し現地から戦況を伝えた。
ワシントン支局、中国総局、イスラマバード支局などを経て、2016年から再びワシントン支局で勤務。
ことし6月から支局長に。

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