河野憲治がトランプのアメリカを行く

第2のオカシオコルテス?

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シアトルといえば、かつてイチローが活躍した大リーグ「シアトル・マリナーズ」の名前で覚えている人が多いかもしれません。アメリカ北西部ワシントン州にある都市です。いまアメリカで最も勢いのある街の1つです。なにしろ、いまや世界を代表するアマゾンやマイクロソフト、スターバックス、ボーイングといった大企業が本社を構えているのです。
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先日、久しぶりにシアトルに行ってきました。市内は高層ビルが増え、建設ラッシュになっていました。

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全米で最も歴史がある市場として有名なパイク・プレイス・マーケットは観光客でにぎわい、名所のスターバックス1号店には長い列ができていました。好景気を絵でかいたような景色でした。

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ところが、そこから10分ほど歩くと、いきなり雰囲気ががらっと変わります。路上生活者のテントが歩道の上に並んでいるのです。街はずれではありません。市役所や裁判所がある市の中心部です。シアトルはいま全米有数のホームレスの街ともなっていました。

アマゾンなどの国際的な企業が高い給料で人を雇うことで、周辺地域の家賃が上がり、ぎりぎりの生活をしていた人たちがアパートから追い出される形になっていると言われています。成長を続ける国際的大企業と、その足元のホームレス。資本主義がもたらす格差の象徴的な姿がそこにありました。

民主VS民主

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そんなシアトルの近郊で下院選挙に野党・民主党から立候補しているのが、ミレニアル世代の女性候補、サラ・スミス氏(30)です。

ワシントン州では、政党の区別なく予備選挙が行われ、上位2人が本選挙に進出する仕組みです。スミス候補は、予備選挙で予想外の2位に入り、同じ民主党の現職ベテラン議員に挑むことになったのです。

地元紙の見出しは「新たなオカシオコルテスになるか」

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オカシオコルテス氏といえば、コラム初回で紹介したように、ニューヨークの予備選挙で民主党の有力議員を破って全米の注目を浴びた“時の人”です。同じように若い女性ミレニアル候補(※)が、ベテランの現職男性議員を引きずり下ろせるか、関心を集めているのです。

「何が起きるかわからないでしょ」

スミス候補もオカシオコルテス氏同様、おととしの大統領選挙のときにバーニー・サンダース氏の選挙運動に関わって政治に目覚めたといいます。

選挙公約もサンダース氏に似て、「国民皆保険」「教育の無償化」など、社会的に弱い立場の人たちを手厚く支えようというものです。

とはいえ、相手候補は強力です。10期連続20年間、下院議員を務め、地元での知名度は抜群。経済界の支援を受けて選挙資金も豊富です。

かたやスミス候補は「企業献金を受けない」ことを公約しているだけに、資金集めは大変です。

「まさか予備選挙で勝つと思ってなかったので、ちゃんと準備していなかったの」と本人が打ち明けるように、選挙キャンペーンの態勢作りも遅れました。

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でもいまは、ようやく若者を中心に選挙ボランティアが増えてきました。相手候補が軍需企業などから献金を受けていることを攻撃材料に、「私たち市民よりも企業の論理を重視している」と批判を強めています。

経済成長の恩恵を受けられない人たちや、既存の政治家に不満を抱きクリーンな政治を求める人たちの間で少しずつ支持が広がっています。

「自分が勝てる確率が低いのはわかっている。でも何が起きるかわからないでしょ」

また番狂わせで新たなスター誕生となるでしょうか。投票まであと3週間。格差の現実を直視し、政治を変えたいと願うミレニアル世代の熱い戦いが続いています。

※ミレニアル世代=1981年から1996年の間に生まれた、22歳から37歳の人たち

河野総
アメリカ総局長
河野憲治
1986年に入局。ニュースウオッチ9前キャスター。
ワシントン支局長などを歴任し、いまニューヨーク駐在。
アメリカでの特派員歴は通算13年。

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