河野憲治がトランプのアメリカを行く

タトゥーを入れた「JFK」

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いまだにこんなに遅れた地域があるとは…。

およそ10年ぶりにウェストバージニア州を訪れました。空港から州の南部に向けてしばらく車を走らせていると、携帯電話に「no signal」のマーク。ひとけのない山岳部や砂漠ならともかく、道路沿いに民家が並んでいるところです。まさかと思いましたが、いまも携帯電話が通じない地域が広範囲に残されているのです。

ウェストバージニア州は、全米で最も貧しい州のひとつです。

かつては石炭産業で栄えましたが、いまは衰退。炭鉱が多い州の南部は、人口も減少し廃れていくばかり。 その選挙区からユニークな人物が立候補していると聞いて、来てみました。

戦友の犠牲に報いるアメリカにしたい

民主党のリチャード・オジェダ候補。
人呼んで「タトゥーをしたJFK」。

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ケネディ元大統領は、この地域の民主党支持者の間で伝説のヒーローです。そんなヒーローになぞらえられるほど注目の人物は、選挙集会で、スピーカーの音が割れるほどの大声で話していました。

「自分の背中には、戦闘で失った軍の仲間の名前が彫り込んでいる。彼らの犠牲に報いるアメリカにしたい。故郷のウェストバージニアをよみがえらせたい」

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軍人生活24年。空挺部隊を率いて、イラクやアフガニスタンにも派遣されたオジェダ氏は、退役して戻った故郷で、産業の衰退と政治の退廃ぶりに驚き、政治の世界に身を投じたといいます。

代々民主党支持ながら、2年前の大統領選挙ではトランプ大統領に投票しました。

前のオバマ政権時代に環境規制が強化され、衰退が進んだ石炭産業を復活させると、トランプ大統領が約束したからでした。

しかし、いまはそれを強く後悔しています。

「石炭産業への支援はたいした成果を上げていない。外交面でも同盟国をないがしろにするトランプ大統領の姿勢は間違っている」

タブーを恐れず 共和党の牙城に切り込む

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オジェダ氏は、石炭は地元の重要な産業だが、思い切って産業の多角化に乗り出さないかぎり、ウェストバージニア州はますます取り残されてしまうと危機感をあらわにしています。

こうしたタブーともいえる主張を大胆に言い放つ姿は、若い世代にも支持を広げています。

ウェストバージニア州の南部は、前回の大統領選挙でトランプ氏が70%以上得票し、クリントン氏に50%もの大差をつけた地域ですが、オジェダ氏は、資金の豊富な共和党候補に対して、世論調査で接戦に持ち込んでいます。

オジェダ氏は2年前、州議会の選挙に立候補したときは暴漢に襲われて大けがを負いました。そんな経験をものともしない元軍人が、トランプ大統領に反旗を翻し、タトゥーを入れた下院議員となってワシントンに乗り込むことができるでしょうか。 注目したい選挙区のひとつです。

長引く戦争 退役軍人支援も争点

ところで、今回の選挙は、退役軍人の立候補が多いのも特徴です。

アメリカが、同時多発テロのあとアフガニスタンで始めた戦いは17年になり、まもなくアメリカの歴史で最も長い戦争となります。

退役軍人への補償などの支援は、国家財政に重くのしかかる負担となっていますが、軍事基地を抱える地域では、無視できない選挙公約になっています。

河野総
アメリカ総局長
河野憲治
1986年に入局。ニュースウオッチ9前キャスター。
ワシントン支局長などを歴任し、いまニューヨーク駐在。
アメリカでの特派員歴は通算13年。

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