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月面着陸 チーム代表 袴田武史さん語る 月ビジネスとは

民間で成功すれば世界初となる月面着陸に挑戦する日本のベンチャー企業「ispace」。2022年11月、ロケットの打ち上げを前に、チームの代表を務める「ispace」CEOの袴田武史さんがNHKのインタビューに答えました。その時のインタビューの全文です。

“「月の水」が非常に重要”

Q.月着陸船の打ち上げを前にした意気込みは?

A.こつこつとミッションに向けて進めてきたんですけれども、なぜか多くのミッションが非常に近いタイミングで打ち上げを迎えておりまして、やはりこれは1つの時代の潮流なのかなと感じています。 先日、SLSでアルテミスⅠの打ち上げが無事できまして、これが今後の月をめぐるミッションにとって大きな号砲になると思います。その次のミッションとしてわれわれが民間としてすぐに打ち上げられるというのは、非常にいいタイミングだなというふうに感じております。

Q.月を目指す国や民間が増えてきた背景は?

A.これから宇宙開発の中で大きな潮流になっていくのが、やはり月の開発だというふうに考えています。 NASAがアルテミス計画で宇宙飛行士を長期滞在していきたいという計画を持っているのがひとつの動きです。それとともに宇宙を継続的に活用していくという時代になっていくと、宇宙で資源を活用していくことが重要になっていくと考えます。
全てのものを地球から打ち上げると高コストになっていきますので、宇宙で得られる資源を途中で取って活用していくという時代になっていきます。そのためにはまず必要だと考えられるのが月の水になっています。月の水は人間が長期滞在するための飲み水ですとか生活のための水としても重要ですけれども、水素と酸素にわけることで、ロケットの燃料になっていく、またエネルギー資源になる。ここが非常に重要だというふうに考えておりまして。このような資源を開発していくとなるとやはり国の事業というより民間の事業としてビジネスとして進めていく。これから発展性、継続性があると考えていますんで、そこに多くのプレーヤーが関心を持ち始めていると思います。

成立する?「月ビジネス」

Q.月を舞台にしたビジネスは、本当にもうかるのか?

A.そうですね。もうかるような仕組みになっていくと思いますし、しっかりと事業として利益を作りながら、成長する産業として構築していくことをリードしていくことが重要だと思っています。
今、これから宇宙の重要性というのはさらに大きくなっていきます。アポロのころは米ソ冷戦の構造的な側面が非常に強かったわけでわすが、これからは地球の持続可能性をどうやって持続していくか考えたときに、やはり宇宙というのは非常に重要なフィールドになっていくと思います。ですから考え方が変わっておりまして一時的な競争ではなくて中長期的なサステナブルな世界を構築するためにも宇宙が必要になっていきます。そうなると、やはり事業で継続性のある仕組みをつくることができれば十分需要がある世界になると思います。

Q.ミッション1(4月末の月着陸計画)の売り上げの内訳は?

A.ミッション1は技術検証の場であるとともにビジネスモデルの検証プロジェクトでもあります。 われわれとしてはミッション1をとおして売り上げもあげさせていただいておりまして、1つはHAKUTO-Rのパートナーとしてご参加いただいている企業からの協賛金。そしてより重要なのはこれから輸送サービスの事業を確立したうえでペイロード(荷物)としての顧客、MBRSC(UAE=アラブ首長国連邦の宇宙機関)のような機関ですとか、日本特殊陶業さんのような民間企業から契約をさせていただいて、売り上げをあげていることが非常に特徴的なことです。

Q.荷物の搭載費用は総額でいくら?

A.このミッションのコストや搭載費用は非公開にしていますが、一般的には1キロ当たり月面に運ぶのに数億円かかります。

Q.現時点で計画中のミッションすべての売り上げ総額は?

A.ispaceとしては100億円を超える売り上げを上げられる契約をさせていただいております。 それにはパートナーシップのプログラム、ミッション1、ミッション2(2024年の月着陸計画)のHAKUTO-Rでの金額もありますし、ペイロードの輸送サービスとしてミッション1、ミッション2、そしてミッション3(2025年の月着陸計画)で今回NASAのCLPS(商業月面輸送サービス)というプログラムからも受注を得ましたし、その先にあるデータサービスというところでも売り上げをあげさせていただいています。

宇宙資源 その可能性は

Q.2021年に成立した「宇宙資源法」について。今回のミッションで、月面で取得した画像をNASAに提供できれば、民間としては世界で初めての宇宙資源の商業取引となる?

A.そうですね。 われわれ宇宙資源法を日本で制定いただいて、取得した画像を提供できれば世界初となりますけれども、資源探査の許可をいただくということで非常にうれしく思っております。
この宇宙資源開発を進めていく上で所有権の取り扱い、そして民間が売買できるかというところが大きな論点になっていまして、ここに道筋をつくっていただけるというのは非常に大きかったと思います。この法律だけで何かが起こるわけじゃないですし1回だけで何かが起こるわけじゃないと思っています。ただこういったことが現実になっていくことで、「月ビジネス」を実行するための新たな課題が浮かびあがって、それをしっかり解決する、これを繰り返すことで実際に宇宙での資源、そして市場ができるというふうに考えております。

Q.宇宙ビジネスや「月ビジネス」を進める上で何を課題として感じている?

A.まだまだ月の産業は立ち上がったばかりで、これからさまざまな課題があります。
一番大きな個人的に考えている課題っていうところは、やはり多くの人たちの考え方に差があることだと考えています。 月、宇宙というとまだまだ遠い先の世界であって、自分たちが関わるところではない、事業としてもなかなか成立しないっていう印象がどうしても根深く残っています。実際はいろんなことが起き始めていて、確かにまだ、不確定要素は非常に大きいんですけども、ただこの方向に進んでいくのはたしかだと思いますので、その不確実性が高い中でどうやって物事を組み立てて、1つずつステップアップしていくかのほか、ここにチャレンジできる人を増やしていくことが重要だと思います。

“宇宙産業は変革期 国から民間へ”

Q.NASAのように国家予算を使って民間の宇宙開発を後押しする仕組みは必要と感じている?

A.今は宇宙開発、宇宙産業の変革期で、国の宇宙機関から民間産業に移りつつあるなかで、産業界だけで立ち上がらないところもあります。そういったところは政府が主顧客としてついていく、政府調達をしていくことが重要だと思います。
なぜ重要かというと、1つは立ち上がりのところに非常に大きな不確定要素があるためしっかりと顧客とともに成長していくストーリーである必要があります。
そこでお客さんと接することで、どうやってサービスを向上させていくか、使いやすいサービス、インフラやプロダクト、サービスとして提供できていくか、真剣に取り組むことができると思います。

Q.海外の研究機関の技術などを月着陸船に取り入れた理由は?

A.月に行くこと自体はアポロ時代にやっていますので、不可能なことでも何か新しく発明をしなきゃいけないものでもないと考えています。
世の中にすでにある技術を組み合わせる事で、それを実現することができる。ただわれわれのような小さな組織ですべての技術を1から作ることはできません。今、月に行くということは競争になっておりますので、なるべく早く月面に行くことが第1歩としてまず重要だと思っています。
そのため、われわれとしてはシステムインテグレーターという立ち位置として部品類は他社から既存のものを買ってきて組み合わせてなるべく早く月に行くことを目指しています。これを国だと1国の中ででしかできないですけれど、われわれは民間企業ということで世界中から一番すぐれたものを集めてできるという強みを最大限活用できているのではないかと考えています。

Q.会社の組織や人材もグローバル化している?

A.われわれとしてはこの宇宙産業をやっていくときに、やはり1つの国だけで成り立つ産業ではないと考えております。事業としても日本だけじゃなくてアメリカ、ヨーロッパなどとグローバルで取り組んでいかなければいけない。
そういったグローバルな市場で競争していくと、やはり一番グローバルですぐれた人材でチームをつくっていく必要があると考えています。そうすると日本人もすぐれた人材ですけれども、それ以外にアメリカ、ヨーロッパ、それ以外からも人材を集めてやっていくということがやはりどうしても重要だと思います。

“非常にワクワクしている”

Q.「月はもうかる(稼げる)」とわかってからビジネスに乗り出すのは遅い?

A.通常のビジネスと同じだと思いますが、もうかるとわかり切ってから、やり方がわかり切ってから参入しても、競争優位性は出ません。
特に宇宙開発はわれわれでも着陸船をつくるのに5年かかりました。それくらいの長期的な視点で考えていく必要があると思います。何よりも自分にとっても面白いなと感じるのは、確かではないけど、それをわれわれ自身が作りあげることができる、大きな不確実性はあるけど、1歩1歩進んでいくことで、何が確実になるか、自分たちで検証して一歩ずつ踏み出すことができる、このプロセスに携われるということが非常にワクワクすることではないかと思います。

Q.独自の月着陸船を開発するようになったのはどういう経緯?

A.そうですね。私自身も宇宙産業には関心があって、宇宙をより民営化できるような世界になっていくとは常に思っていました。その中で2017年にGoogle Lunar X Prize(世界初の民間による月面探査レース。以後GLXP)に関わるということで月が1つ大きなテーマになっていきました。取り組む中で、GLXPじゃなくて、どうやって中長期的に商業化をしていくかを考えたときに、非常に大きな枠組みで考えると、やはり月の資源、宇宙の資源を活用していくことが重要になっていくという考えに至りました。そうすると資源を開発していくためには、その場所に行ける能力を持つことが一番重要で、そのためは輸送しないといけない。そのためにわれわれとしてはGLXPはローバー(月面探査車)しか開発しませんでしたが、ispaceの事業では着陸船も手がけるという判断をしました。

Q.GLXPではローバーを載せる予定の別のチームの着陸船が使えなくなるというトラブルもあったが。

A.我々はGLXPのときは月面着陸したあとのローバー(月面探査車)のみ開発していたので、月面に着陸するまでは他社に頼っていました。いろんな月面着陸船の開発企業と話していたのですが、途中で契約を変えなきゃいけないようなことがあって、やはり輸送インフラを抑えておくことがビジネスとしての不確実性を大きく削減できて、しかも競争優位を確保することに改めて気付いて、そこをやはり取り組むべきだというふうな方針になりました。

“パイオニアとして一番手に”

Q.ispace以外にもアメリカの民間企業などがも月を目指しているが、ライバル意識はある?

A.われわれはGLXPの時から月の開発を目指して進めておりまして、 NASAのCLPSのようなプログラムも出てきて、特にアメリカでも競合他社が出てきました。彼らとは事業としてはもちろん競い合うところはあるんですけれども、自分自身としてはいろんなプレーヤーが関わってきてエコシステムとして強靱性を作っていくことが重要だと思っています。そのために輸送も一社である必要はなくて常に競争がある環境の方が逆に強いエコシステムになっていくと思っていますので、ぜひ彼らとも月の産業を作っていくという大きなビジョンと同じ気持ちを持ちながら事業としては互いに切磋琢磨しながら成長していければと思っています。

Q.を目指す民間企業の先頭集団であればいいと考えている?

A.われわれとしては、やはり地球と月の「シスルナ経済圏(シスルナ=地球と月の間の空間)」をつくっていく、これをクローバルにリードをしていくことがわれわれのミッションっていうふうに思っておりますんで、そうなるとやはりパイオニアとして一番手にいることが重要だと思っています。必ずしもすべてにおいて一番になる必要はないと思っておりますが、常に一番手として存在するようなポジションにいることが重要だと思っています。他社がいるからこそ、われわれが1番手になれるので、一緒に切磋琢磨しながら、産業をつくっていきたいなと思っています。