NHK地域ミーティング #みんなで助かるために 個別避難計画づくりを後押し 開催マニュアル

「地域ミーティング」を実施しませんか?水害や地震など災害が相次ぐ中、特に災害時に避難が難しい高齢者や障害者に対して、個別避難計画を策定することが市町村の努力義務となりました。この計画には行政や福祉サービスの事業者だけではなく地域の住民たちの協力がどうしても必要となります。地域の住民、福祉や介護の専門職、障害当事者、そして行政をつなぐ場を設定し、きっかけとなる動画をもとにみなで話し合い、理解を深めるための取り組みを企画しました。第1回と第2回 福岡県久留米市及び東京都国立市で行ったミーティングを参考に、皆さんの地域でも実施してみてください。

参加者は地域住民、当事者、自治体担当者 など

・地域住民(久留米市では、校区社会福祉協議会の代表者37名)
・地域に住む障害当事者や家族、介護担当者
・自治体の防災担当 福祉担当
・社会福祉協議会    など

 

・00分~ オープニング・趣旨説明

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災害時、高齢者や障害者は多くの困難を抱えます。2018年の西日本豪雨では犠牲者の約7割、2020年7月の豪雨災害では約8割が高齢者。東日本大震災では、障害者の死亡率は住民全体の死亡率の2倍でした。聴覚障害者が大津波警報に気づかず車で流されたり、足の不自由な人が逃げ遅れたり。助かったひとも「何かできたことがあったかもしれない・・・」と後悔が残ります。避難に支援が必要な方に対して、できることはないか?地域みんなで、一緒に考えるミーティングです。

千曲川水害 名簿があっても出た犠牲者

コラム1「障害者の死亡率2倍」の衝撃 

 この数字は、東日本大震災の際、NHK福祉番組班で死亡者10人以上の被災自治体にアンケートをして明らかになりました。障害者手帳をもっているひとで犠牲になったひとを問い合わせた結果です。住民全体の死亡率と比較しました。
 自治体によっても障害種別によっても差があります。身体障害のひとで割合が高くなっています。宮城県で犠牲者が多いのは地域で暮らす障害者が多かったからと考えられています。グループホーム、特養など海岸近くにあった施設では津波による犠牲者が報告されています。

 

・5分~ この地域での災害予測について

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初めに、市の防災担当者が、現地の災害リスクや実際に起きた災害について説明。

ハザードマップなどでリスクを知り、身近でリアルな情報を共有しましょう。

<久留米市ミーティングでは>
(市防災対策課より)毎年のように家屋の浸水被害を伴う水害が起きています。市内を流れる筑後川に複数の支流が流れ込み、低地が広がっているため、市内どこでも内水氾濫の危険が。一日の降水量と被害の度合いは比例せず、上流の降雨量や降雨時間の長さによって氾濫の程度が変わるので、その時々に応じた対応が必要です。

 

・10分~ 体験を語ろう①

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次に、住民や障害当事者から災害時の体験や備えを聞く。
※同じ地域の人の経験を聞くことで、より災害を「自分のこと」として受け止めてもらえます。事前にどんなお話を頂けるか聞いておくといいですね。
※障害当事者のお話が何よりの説得力に。困っていること、不安なこと、自分で工夫していることをお話しいただきます。本人が話すのが難しければ、家族や介護者でも。全員の前でが難しければ、グループワークの中でも構いません。

<久留米市ミーティングでは>
(災害体験者より)自宅が4回、床上浸水に。ショックで落ち込んだけれど、なんとか受け入れて同じ家に住み続けています。去年はテーブルの上に畳を上げてから避難しました。街づくり協議会の校区代表として、避難所運営や避難訓練を進めるなど、地域の人のためにも頑張っており、「高齢者を誰が車で連れて逃げるか」などの計画も立てています。

(車いすユーザー)マンションの3階に在住。地震など避難が必要な時が不安です。「迷惑になる」と防災訓練も遠慮していましたが、数年前、意を決してマンションの総会で、住人の皆さんにお願いしました。「ご自身と家族の安全を確保してからでいい、私のことを思い出してほしい」と。すると、翌年から防災訓練に、「私の家のドアをノックすること(安否確認)」が組み込まれました。ありがたいことです。

コラム2「要支援者」という言葉

 正確には「避難行動要支援者」と言います。2021年5月の災害対策基本法改正で市町村に対し、避難行動要支援者の個別避難計画作成の努力義務が課せられました。東日本大震災以前は、「災害時要援護者」という言葉を使っていました。今でも自治体によっては要援護者とよんでいるところもあります。意味はほとんど変わりませんが、名簿を作成する際など「避難行動」とすることでより明確になりました。もう一つ「要配慮者」という言葉もあります。外国人、乳幼児、女性など避難生活や情報取得なども含め、さまざまな面で配慮が必要なひとすべてを指します。
 なお、災害弱者という言葉も使われますが、“強い”“弱い”という言葉には価値観が含まれることもあり、福祉の現場ではあまり用いません。

・20分~ ほかの地域はどうしている?

VTR 一緒に、避難訓練を

地域の課題を知った上で、一歩進んだ取り組みを紹介  
<久留米市ミーティングの場合>
VTR中で、要支援者の支援に先進的な取り組みを行っていた村野淳子さん(別府市危機管理課)

私は東日本大震災などで被災者支援をしてきました。事前の準備があったら救えた命があった、避難所でもせっかく助かった命が失われていった・・・・・・。自治会役員に何度も訪れてそうした話をし、支援の大切さを伝えました。要支援者名簿がありますが、それだけではどうサポートすればいいかわからない。大事なのは、一緒に避難訓練をすること。自治会の人たちも、これは自分のことなんだ、10年後は自分や家族も支援される側になるかもしれない、と考えてくれるようになりました。

コラム3「インクルーシブ防災」という考え方

 東日本大震災後の2015年、仙台で開かれた国連の防災世界会議で提唱されました。障害者も当事者として一緒に防災を考えるという取り組みで、ちょうど国連の持続開発目標SDGsが始まる年でもあり“誰一人取り残さない”という考えが主流になるときでした。
 2013年に障害者差別禁止条例を制定した大分県別府市では、インクルーシブ防災事業として障害当事者と市民、行政が一緒になって防災の取り組みをすすめています。別府市には1964年の東京パラリンピックで選手団長を務めた中村裕医師が創立した、障害者の働く場である「太陽の家」があり、多くの車いすユーザーが地域生活をおくっています。それでも地域のひとたちとは挨拶程度。この取り組みをきっかけに、地域でともに暮らすことの本来の意味が伝わり始めています。

 

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「個別避難計画」について考えていきます

VTR 個別避難計画を作ろう

VTRを見て、感想を話し合う:(専門家がいない場合でも、問題を共有し、参加者どうしで考えてみましょう)

<久留米市ミーティングの場合>
心を打たれたという感想の一方、支援の難しさを率直に訴えるものもありました。

(参加者の感想)私も高齢者、地域の力は大きい。事前にコミュニケーションをとっておく大切さを改めて感じました。

(参加者の感想)実際に計画をたてようと、図上訓練を行った。その結果を要支援者当人に伝えたら、「自分の支援は不要です」と言われてしまったんです。

(村野淳子さん)自治会や住民とのつながりがないことも多く、いきなり支援を、と言われても抵抗がある人もいます。そうした場合は、相談支援専門員やケアマネージャー、そしてご家族など、「間に立つ人」の存在が大事です。信頼できる方を通して、例えば夜間など福祉のサービスが入っていない時のサポートについて具体的に計画を立てていくのがいいと思います。実際に一緒に避難訓練をすることで自治会からも良いアイデアが出たり、障害者について学ぶ意欲が出たり、地域全体が生き生きとしていきます。

 

・45分~ 参加者とディスカッション①

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災害時の不安や心配ごとを聞く:ネガティブな意見も言いやすい雰囲気作りが大切。地域の「本音」が、実現への第一歩です。

<久留米市のミーティングの場合>
(参加者)要支援者名簿は個人情報。どこまで開示していいか、扱いに悩んでいる。
(村野さん)災害時に命を助けるためであれば、名簿の情報開示に問題はありません。平時の情報共有についても、要支援者名簿については、地域で情報共有するという方向で法整備が進んでいます。当事者から同意があれば問題はないわけですから、名簿に掲載する時点で確認するという自治体もあります。

ディスカッションに使えるVTR
※事前の対策によって命が救われることを実感し、次の議論に向けて自分たちにできることのヒントを考えましょう。

事例①避難誘導の班長を決めていた・岡山県総社市(2018年 西日本豪雨)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/suigai/videos/5989/

事例②避難のときのペアを/避難場所を決めていた・長野市(2019年 千曲川水害)  
https://www3.nhk.or.jp/news/special/suigai/videos/5991/

事例③災害避難カードが命を救った・愛媛県大洲市(2018年西日本豪雨)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/suigai/videos/5996/

 

・60分~ 参加者とディスカッション②

「自分なら何ができるか」を話し合う:困りごとや心配事・不明点を共有したうえで、「自分なら何ができるか」を話し合います。言葉にして発言することが、今後の地域づくりの中での実際の行動につながります。

<久留米市ミーティングの場合>
(参加者)自分がリーダーとなっている「校区」は規模が大きく、一人一人の個別の対応を考えるのは難しい。もう少し小規模、自治会やその班単位でやるべきでは?
(村野淳子さん)地区単位では比較的障害の軽い人を対象に声をかける、一緒に逃げるなどを考え、自治会や班など小さい単位では、避難が困難な方について具体的に考える等、役割分担をしたらどうでしょうか。
(市役所地域福祉課)市では相談支援専門員などと情報共有して、準備作業を進めています。個人情報の壁を乗り越えるのは、地域の繋がりしかありません。こうした企画などをきっかけに土壌づくりを進めて、個別避難計画を作っていきます。

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このコーナーをワークショップ形式で行うのもよいでしょう。国立市でのミーティングでは、障害当事者や家族、行政担当者などもグループに入って話し合いを行いました。

  ・障害当事者 不安なこと 困りごと
  ・避難するとき/避難生活では
  ・避難や避難生活が大変そうなひとはまわりにいる?
  ・自分はなにができそうか?
  →など、「お題」を決めてグループで話し合い、最後に発表

※いい答えを出すより、みんなが考え、発言してグループ内でやり取りができることが大切です。

 

・80分~ 感想・まとめ

<久留米市ミーティングの場合>
(参加者の代表から)私たちは見守り活動を進めるなど、地区の福祉を担う立場。でも、時間帯などによっては障害者に支援が必要ということは認識していませんでした。「できるのにやらなかった」悔いを残さないためにも、大変だけど、頑張っていこうと思います。

(村野淳子さん)多様な立場の人が同じテーブルにつくことが第一歩。だんだん積み重なって、形になっていきます。みんなで、がんばりましょう!

ミーティング後、初対面の参加者同士、さまざまな立場の人たちで会話ができていれば大成功!次の会合、次の行動につなげていきましょう。

 

コラム4 地域ミーティングにかける思い

 助かったかもしれない命が失われた。災害の取材をするたびに突きつけられます。
 もしあのときひと声かけていたら、ちょっと手助けしたら、ご近所のあのひとは助かっていたかもしれないと後悔の念を口にするひとにも出会います。認知症で判断できないとは知らなかった、子育てを一所懸命していたので知的障害があるとはわからなかった・・・。一方、これまで自分の障害のことはあまり言いたくなかったけれど、災害を経験して周囲にわかってもらうことが大切だと考える障害当事者も増えてきました。
 災害が起きたとき、事前に知っていればできることはたくさんあります。障害、高齢、と一口に言っても人によってみな違います。お互いに聞きあって何ができるか、何をしてほしいかを理解すること~地域ミーティングはそうした場を提供します。そのうえで、みながあと半歩前へ出ることで状況は劇的に変わってきます。
 それは今暮らしている地域をよりよくすることにもつながります。誰一人取り残さない、という発想こそが、強靭な地域、レジリエンスな社会をつくっていくのだと思います。

コラム執筆:迫田朋子
元NHK福祉番組ディレクター。災害時の医療・福祉の取材多数。NHK地域ミーティングの構成協力/司会進行。

 

 

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