「よく戦ってくれたゲームだった」
Q.日本のクロアチア戦の率直な感想はいかがですか?
A.日本はドイツとスペイン含む1次リーグを首位通過したという自信がすごくあったと思います。今まで3回、ベスト16でチャレンジしてかなわなかった。
その決勝トーナメントに入って、自信にみなぎって戦ってくれたと思いますし、いいチャレンジをしてくれたと思います。
勝ち上がりを決めるための手段であるPK戦(ペナルティーキック戦)での敗退ということなので、90分プラス30分の120分、本当にタフにチャレンジをして、勝ち切れなかったのは非常に残念に思いますけれど、よく戦ってくれたゲームだったと思います。
「今までにない前半戦だった」
Q.クロアチア戦は最初からスリーバックで挑みましたがどうでしたか?
A.初戦のドイツ戦の前半で圧倒的に支配され、通用しないという感じがあったと思います。
あの前半で思い切ってスリーバックに切り替えた。
そのプランが、戦略と選手たちのパフォーマンスが合致した中で、スリーバックで得点に結び付ける手応えができたと感じて、その後も自信を持って戦っていたと思います。
この試合も入りやシステムには間違いがなかったと思います。
スタートからハイプレス、いままで日本が積み上げてきた相手に早く圧力をかけていく、ボールを奪取してクイックネスにボールに仕掛けていくという、1次リーグではあまり見られなかった戦い方やシステムで、キックオフからかなりクロアチアに圧力をかけることができた。
スリーバックと選手の意識、戦い方が合致してスタートできたので、今までにない前半戦だったと思います。
先制シーン「采配をあたためてきた戦術」
Q.先制のシーンをどのように見ましたか?
A.アジアの予選でも、今大会の1次リーグでも、なかなかリスタートから得点を取ることができなかったんですね。
かつて森保監督と話して『練習ではかなりやっているんですよ。時間がない中で準備は結構やっているんですよね』って話を聞いていました。
それでも1次リーグは相変わらずノーマルにやっているなと感じていたんですけど、やっぱりここだというところで、変化をもたらして出してきた得点だった思います。
トリッキーな戦術ではなかったですけれど、クロアチアの高さに対して変化させ、直接入れるのではなく、ボールを動かしながら、ゴール前に供給して崩した。
「あー、こういうときに出すんだ」と、采配をあたためてきた戦術だったと思います。
まず動いたのはクロアチア
Q.そして今大会で初めて先行する展開になりました。
A.先行したのは大きいと思ったんですが、今大会、4試合で初めて先行してゲームをプランをしなければいけないという状況に追いやられて、後半をどう戦っていくか、プランが選手たちと合致していくのかが大事なところだったと思います。
前回大会でも、2点先行して、その後どう戦っていくのかが詰め切れずに、ああいう形になってしまったんですけれど、森保監督も当時、現場にいて、この展開でどうチームをコントロールして、統一的な戦い方をさせるのか、メッセージを送っていくか前回の経験もあったと思うんです。
そういう中、まず動いたのはクロアチアだったと思います。
前半とはテンポ、リズムも少し変えながら圧力を日本にかけてきたという感じがしました。
日本チームは、自分たちのディフェンス力に相当自信を持っているので、自分たちの最終ラインの後ろにはスペースを与えない、コンパクトにしてカウンターアタックを少し長いカウンターになりますけれども、それをねらって戦っていこうという統一感があったと思います。
相手に決められたシーンは?
Q.相手に決められたシーンをどう見ていましたか?
A.あまり深いところまで切れ込んだ中のクロスではなくて、アーリー的に入れられた。
ニアサイドとかセンターに入るクロスであれば、それは谷口や吉田、冨安あたりは対応できやすいが、少しファー気味に入ってきて、あのときは伊東純也が対応する形になったんです。
両サイドの選手が対応しなければならないクロスボールはあるんですが、そこが日本のウイークポイントだと思います。
長友や伊東純也がクロスボールに対応しなければいけない状況になると、相手もそこをねらってくる。
少しファー気味に入れると両サイドが対応しなければいけない。それが伊東純也の少し一瞬遅れたっていうところもあると思いますし、相手のねらい所だったのかもしれないです。
相手もよく分析しているのかなと感じました。
見えてきた課題は?
Q.日本の攻撃陣はなかなか持ち味を出させてもらえませんでした。
A.延長に入ってビックチャンスがありましたけれども、相当、三笘へ対応し、なかなか縦に入れさせない、1対1で対じしても、1人サポートに入ってくる。
クロアチアもよく対応しているなと思ったし、堂安の左足を振らせないとか、浅野や前田のスピードも警戒されて、予測のあるポジショニングを取られ、かなり日本の前線の選手の特徴をよく分析して対応して、なかなか特徴を出させてもらえなかった。
それでもグループでどう打開していくか、個の力を発揮するには、個だけではなくて周りの選手たちのサポート、グループ戦術がもっと必要になってくる。
それができれば1対1で崩せないところでも、2対1で崩していくという状況ができると思うので、そういうところを追求していく。
そういう中で個がさらに輝いていく。
そういう課題が見えたと思います。
PK戦 4年前も感じたこと
Q.PK戦で勝てない現状をどう感じましたか?
A.決勝トーナメントでやむをえないと思いますけれども、これはむごい手段だと思いますよ。
あれだけの死闘を両チームが尽くして、ハードワークした。
今回も誰が決めて誰が外したってことではなくて、素直に、あのPK戦に関しては、クロアチアのゴールキーパーを称賛しなければならないと思います。
あれだけの緊張した中で、スーパープレーを出されてしまったということに尽きると思うんです。
決して日本選手が失敗したことを責める必要は全くないと思います。
ただやはり、今回のPK戦も、4年前の2点差をひっくり返されたときも、何か足りないものがそこにあるんだと思います。
4年前も感じました。
「個の力をもっと上げていかないと」
Q.足りない部分はどう詰める必要がありますか?
A.選手たちは、今ヨーロッパリーグでもまれている選手が多いですね。
自分が生き残るため、自分の成長を感じたいと思う中で鍛えられていますし、研ぎ澄まされた力を日常の中で感じていると思います。
そして代表に召集されて、そこで自分が輝けるスタイルが日本サッカーにはあると思います。
今回、それを感じたと思います。
ただ残念ながらやはり個々の部分でも世界のトップレベルで安定してパフォーマンスを出していくことに関してはまだ足りないと思います。
選手たちも個の力をもっと上げていかないといけないとこういう大会だからこそ、強く感じだと思います。
そういう積み上げがやはり今後も必要だと思いますし、それを結束させる、総合力で戦うための指導者たちも、こういう大会を通じて、スタンダードを変えていく、変えなきゃいけないというところは感じたと思います。
「足りない部分が縮まった」
Q.今大会のチームをどう総括しますか?
A.今回もPK戦で敗退しましたけれども、違う景色のベスト16のステージだったと思います。
今までは何とか勝ち上がったチームが、そこにありましたけれども、今回のチームは、明確にベスト8というものがフォーカスされた中で、ベスト16に行っているチームだと感じていました。
それは、ドイツ、スペインに勝ったということもありますし、4年半監督がチームを作り上げてきて、選手の成長過程もあって、競争力もあり、変わってきました。
4年前も何か足りなかったと思いましたけれども、今回はまたその足りない部分が、縮まったように思います。
本当にチームの戦略、プランを実践した選手たち、これに尽きると思うので、個の成長というものがさらに求められると思うんですけども、日本の強みがしっかり積み上げられた4年半だったと思います。
「成長曲線が高まるんじゃないか」
Q.今大会が日本サッカーに持つ意味についてはどう考えますか?
A.ドイツ、スペインに逆転勝ちした結果については、誇れることですし、大いに自信を持っていいと思います。
ボールはコントロールされたけれども、ゲームはコントロールさせなかったというゲームだったと思うんですね。
ただ、日本のサッカーがすべて出せたかというと、そういうゲームではなかったということも受け止めなければならないですし、内容を突き詰めたうえで、今後考えなければいけないと思います。
今回、改めてできる部分、通用しない部分がはっきりわかったので、また成長曲線が高まるんじゃないかという期待をしています。
忘れてはいけない原点
Q.カタールで開催された今大会を通じて「ドーハの悲劇」の印象は変えることはできましたか?
A.森保監督も、スペイン戦の終盤は、あのドーハの悲劇のイラク戦がよぎってしまったと、本人がそれだけ思っていますし、私自身もあの現場にいて、よぎりましたよね。
それぐらい強いインパクトがあった。
あそこに、あのピッチに日本の今の原点があると思っていますし、どうしても拭えないところがありました。
スペイン戦は乗り切れましたが、あの原点は忘れてはいけないと思いますし、あの瞬間があって日本のサッカーは歩んできたわけなので、まだまだ歩みを止めてはいけません。
いろいろな課題を越えていかなければいけないなと思わせる大会だったと思いますし、それがドーハということもあり、また再出発していく地でもあるのかなという感じがします。
「強化の底上げをしていかなければならない」
Q.2030年にワールドカップでベスト4、50年に優勝という目標を掲げる中、日本サッカーの現在地をどう考えていますか?
A.30年にベスト4に持っていくのであれば、ロシア大会、カタール大会で少なくともベスト8に入っていく。
それに近い段階に入っていく。
当然、1次リーグは安定して突破していく。
そういうロードマップを作った中で、自分は協会にもいましたし、A代表の監督もやらせていただいて感じていました。
この4年半というのは、1人の監督が着実に作ってきた段階だったと思いますし、このベスト16は限りなくベスト8に近い状況にまで持って来られました。
30年のベスト4という目標を修正することはないと思いますし、目指さなければならないと思います。
ただ、日本代表、国内リーグが成長していくだけでは、これは可能にならないことだと思っています。
オリンピック世代、アンダー20、アンダー17の世代の下のカテゴリーも世界のトップになっていなければならず、A代表の強化はもちろんですけども、それ以上に、育成世代の成長、強化の底上げをしていかなければならない4年だと思います。
「新たな歩みを始めてほしい」
Q.4年後の展望、日本のサッカー界の発展に今後に必要なことは何でしょうか?
A.自分が4年前に携わった世界から、今回また成長した、本当に強いたくましい日本代表チームを見せてもらえました。
また違う景色のベスト16の戦いだったと思いますし、同じように成長すれば、また4年後、間違いなく悲願であるベスト8の世界を見せてもらえると確信できました。
その成長に、期待したいと思いますし、選手たちまた新たな歩みを始めてほしいなと思います。