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2014年ブラジル大会 今野泰幸選手 ハメス・ロドリゲス選手に感じた世界との圧倒的な差

ワールドカップの記憶に残るワンシーン。元日本代表で活躍した4人が、そのプレーや知られざるエピソードを明かしてくれました。日本代表へのエールも届いています。

4回目は2014年ブラジル大会のディフェンダー 今野泰幸選手。

日本は過去最高のベスト8以上を目指しましたが1次リーグで敗退しました。日本代表として、90試合以上に出場した今野選手が、コロンビアとの一戦で、初めて思い知らされた“世界との圧倒的な差”について明かしてくれました。

目次

    磨きあげてきた攻撃の形

    今野選手は南アフリカ大会に続いて日本代表に選ばれました。
    イタリア出身のザッケローニ監督から求められたのは、前回大会のボランチではなく、ディフェンダー、それもセンターバックでした。監督が掲げたサッカーは、高いテクニックと献身的な日本選手の特性を生かしたものでした。選手どうしが連動して、前線から相手にプレッシャーをかけ、ボールを奪ったあとは素早いパス回しでゴールに迫る攻撃的なスタイル。また、ディフェンダーに求めたのは組織的な守りに加えて攻撃の起点にもなるパスの精度など、足元の技術でした。

    今野泰幸選手

    「イタリアって守備のイメージが強かったので、体が強くてヘディングではね返せる人が選ばれるのかなと思っていたら、就任直後から背も大きくない僕を代表に選んでセンターバックで使ってくれたんです。ザッケローニ監督のセンターバック像は、攻撃の起点になるという考えがすごく新鮮だった。これはとても面白いサッカーができると期待が高まりました」

    2011年のアジアカップで優勝し、2013年に行われた強化試合では当時、世界ランキング5位のベルギーから白星を挙げるなど、結果も出てきました。選手たちも監督が目指すサッカーに自信を深めていきました。

    今野泰幸選手

    「ようやく、日本人の特性を生かしたサッカーの形ができたなと。パス回しをしながら徐々に攻撃の形を作っていくという芯ができたことは大きかったです。それに当時は、前線に香川慎司選手や本田圭佑選手など、個の力が強い選手も多かったので、個の力で何とかしてくれるという期待感があった。ピッチの後ろから見ていて面白かったです」

    初戦、相手エースの途中出場で雰囲気が一変

    迎えた1次リーグの初戦は、コートジボワールとの対戦で、今野選手は先発メンバーから外れベンチから見つめていました。日本は前半16分に本田選手のシュートで先制し、1点リードして前半を終えました。選手の表情は明るく士気も高かったといいます。

    ところが後半17分、コートジボワールのエースのドログバ選手がピッチに入ると、ピッチ上の空気が一変しました。

    今野泰幸選手

    「ドログバ選手がピッチに入ってきたときにベンチから見てても『うわー嫌だな』と感じました。英雄的な選手が負けている状況で入ってくるのは、何かをやってきそうという意識がチームによぎったんです。場内もすごい雰囲気で神様がピッチに入ってきたみたいな感じで、ディフェンス陣からしたら恐怖です」

    ドログバ選手の投入から、わずか2分後に失点した日本は、勢いの増す相手を止められませんでした。さらに2点目を失い逆転され、初戦を落としました。ロッカールームに戻ってきた仲間の顔には、焦りの表情が浮かんでいました。

    今野泰幸選手

    「実は1次リーグを戦う上で、3戦目のコロンビアは本当に強いと事前情報があったので、最初の2試合でどこまで勝ち点を積み上げるかが鍵になると話し合ってきました。だから初戦のコートジボワールは最低でも勝ち点1が必要だったのですが、一気にたたき落とされたようなそんな雰囲気になってしまいました。1試合でこれだけ変わるかというぐらい焦りというか、“やばいぞ”という雰囲気が大きくなっていました」

    開始直後に感じた “最強”コロンビア

    2戦目のギリシャ戦は引き分けとなり、勝たなければ1次リーグ敗退が決まる日本の3戦目は、強豪 コロンビアとの対戦。センターバックで先発出場した今野選手は試合開始後、最初のプレーで強さを肌で感じました。

    今野泰幸選手

    「まずボール回しからまったく違いました。いつもはパスのボールを目で追うのですが、スピードが速すぎて首を振って確認しないと追いつかないくらい1つ1つのパスの速さのレベルが違いました。インサイドキックで、相手の足元に正確に、『ピシッ、ピシッ』と決まる。そんな速いボールをピタッと止めるトラップの技術。基本的な技術の高さが群を抜いていました」

    今野泰幸選手

    「さらに相手の動き出しの速さと、ドリブルのキレを見て、これは大変な試合になると覚悟しました。チームの完成度と脅威で言えばこれまで戦ってきた中で、最強でした」

    予想をはるかに超える桁違いの強さを目の当たりにした今野選手は前半16分、ペナルティーエリア内でボールを追っていた相手選手をスライディングで倒してしまいました。これが反則となってペナルティーキックを与えて、先制されました。しかし、この反則。今野選手にとっては想定外でした。

    今野泰幸選手

    「絶対に先にボールを触れると自信があったからスライディングをしましたが、コロンビアの選手のスピードがものすごく速くて足に当たってしまいました。僕のタイミングでは、絶対ボールに触れられる感覚だった。笛が鳴った瞬間に『いや、ボールにいっている!』て思ったのですが、後で映像を見たら完全に足に入っていました」

    “王様”ハメス・ロドリゲス

    それでも前半のアディショナルタイムに岡崎慎司選手のヘディングシュートで追いつきました。

    同点で迎えた後半、日本に立ちはだかったのがコロンビアの10番、ミッドフィルダーのハメス・ロドリゲス選手でした。後半開始から出場したロドリゲス選手は、今野選手がそれまで感じたことのない雰囲気を醸し出していました。

    今野泰幸選手

    「まずコロンビアの選手全員がロドリゲス選手を見るんです。日本の空いているスペースや、ディフェンス陣の裏を常に狙うパスを仕掛けてくる。それまでも質の高かったコロンビアの攻撃に創造性が加わり、いよいよ手が付けられなくなる感じでした。まさにピッチに君臨する“王様”でした」

    後半だけでロドリゲス選手に1ゴール、2アシストを決められた日本は1対4で敗れ、1次リーグで敗退。今野選手はチームの雰囲気を一変させたロドリゲス選手のパスセンスや決定力など攻撃面に強烈な個性を感じていました。

    今野泰幸選手

    「ボールと人が絶えず動き続ける現代サッカーでは、ハメスのようなプレースタイルは絶滅危惧種になっていて、彼はそういう意味でも最後の10番タイプの選手、その輝きを最も見せつけたのが日本戦だと感じています」

    今野選手が、いまだにきのうのことのように覚えているのが、終了間際の4点目です。サイドに出たロドリゲス選手が吉田麻也選手をかわし、1対1となったキーパーを前に、あっさりループシュートを決めたシーンでした。

    今野泰幸選手

    「パスだけでなくドリブルで吉田選手を一瞬で抜くキレもある。ゴール前でも冷静で決定力も段違いでした。本当にすごいのひと言。これが世界で活躍するトップレベルの選手なんだと、世界との差を思い知らされました」

    39歳になった今野選手は、Jリーグで活躍したあと、今シーズンから将来のJリーグ入りを目指す東京・葛飾区にある社会人サッカークラブ「南葛SC」に所属しています。

    今野泰幸選手

    「まだ僕はプレーヤーなので若い選手に自分の経験を積極的に話すとかはないし、監督というタイプでもないかなと思っています。それでも、いつか子どもたちには、ワールドカップにはすごい選手がたくさんいることを話してみたいなと思います」

    最後に日本代表にエールを送ってくれました。

    今野泰幸選手

    「チームは生き物だし、良い時は良いけど、崩れるときはあっという間に崩れます。だから仮に負けても、自分たちのプレーに確固たる自信を持ち100%信じきることが大切だと、ブラジル大会を通じて学びました。仮に負けた場合にそこからどう持ち直すか、自分たちの力を信じ切れるかがカギになると思う。日本代表の底力を期待したいです」

    日程・結果(日本時間)

    日本代表