10年を超えて 東日本大震災11年 被災地アンケート

東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故から、まもなく11年です。
震災10年を境に復興予算は大きく減り、新型コロナによる影響が被災地でも長期化しています。被災地の人たちにとってこの1年で何が変わったのか?今何が必要なのか?1000人のアンケートを、震災直後から分析を続ける社会心理学の専門家とともに読み解きます。(社会部記者 齋藤恵二郎)

今回のアンケートは

2月1日から3日にかけてWEB上で実施し、1000人から回答を得ました。

対象は岩手・宮城・福島の沿岸と原発事故による避難指示が出された地域に住み、インターネットの調査会社に登録している人たちです。

NHKはこれまで郵送や手渡しで毎年アンケートを行ってきましたが、今回WEB形式に変更しました。
被災地のこれからを担う若い世代など幅広い声を反映させようと考えた結果です。

回答者の平均年齢はこれまでは70歳前後でしたが、今回は51歳でした。

震災10年を超えて この1年の変化は?

国が集中して支援する10年間の「復興期間」が去年3月で終わってから1年。

被災地に暮らす人たち自身はこの1年間の変化をどう感じているのでしょうか。

まず、行政や民間からの支援に対しての受け止めです。

去年と今を比べて【行政の支援】
・減った 36.9%
・変わらない 33.1%
・増えた 3.4%
・わからない 13.5%

去年と今を比べて【民間の支援】
・減った 31.8%
・変わらない 30.2%
・増えた 2.3%
・わからない 19.5%

震災から11年目の国の復興予算の規模は約6200億円。前の年度の半分以下になりました。

予算は減ったものの、11年目も続く事業があったためか、「変わらない」と答えた人が3割を超えました。

一方で、最も多かったのは「減った」と感じた人で、「変わらない」をわずかに上回りました。

支援の縮小は、被災地の実感として少しずつ広がっているようです。

また新型コロナウイルスの影響の長期化が、この1年で地域の集まりや地域経済の復興に影を落としていました。

新型コロナウイルスの影響があったか【地域の集まりなどの交流】
・大いにあった/ややあった 39.9%
・どちらでもない 29.5%
・あまりない/全くない 23.3%

新型コロナウイルスの影響があったか【地域経済の復興】
・大いにあった/ややあった 30.3%
・どちらでもない 43.8%
・あまりない/全くない 16.6%

そしてひときわ目を引いたのは、10年をすぎて、地元の人たち自身が震災の話題から遠ざかっているという実情でした。

アンケートには、前を向きたい思い、風化を心配する声、さまざまな感情が記されていました。

去年と今を比べて【震災の話題】
・減った 45.4%
・変わらない 38.3%
・増えた 6.5%
・わからない 6.0%

震災の記憶や教訓が風化している
・そう思う/ややそう思う 62.7%
・どちらでもない 21.9%
・あまりそう思わない/そう思わない 11.8%
・わからない 3.6%

自由記述に記された声です。

「いつまでも被災者ではいられない」(岩手県 男性 36歳)

「忘れてはいけないけれども、今とこれからが大きくなっている」(福島県 男性 60歳)

「風化させまいとは思っていても、どうしても忘れてしまう」(宮城県 女性 47歳)

「被災者の記憶には鮮明に残っているが、被災者以外の方たちはコロナウイルスの影響もあり、忘れかけている」(岩手県 女性 51歳)

「現在でもこれだけ風化しているのに、本当に100年後、それ以降まで震災の被害や経験を伝承できるのか」(宮城県 女性 37歳)

「津波に対する危機感が薄くなってきている」(岩手県 男性 38歳)

「いつまでも被災地とは言っていられないとは思うが、震災後に生まれた子どもたちも多くなっている…震災を忘れないよう、教訓として残せる取り組みは必要だと思う」(福島県 女性 57歳)

震災直後から毎年、NHKのアンケートの分析にあたっている専門家に、震災11年の住民の心理について分析を依頼しました。

社会心理学が専門の兵庫県立大学の木村玲欧教授です。

兵庫県立大学 木村玲欧教授

兵庫県立大学 木村玲欧教授
「震災10年を1つの区切りとして、この1年間でなかなか震災の話題が上がりにくくなっている。さらに新型コロナの影響もあって人々が集まって何か話をする、そういう機会自体もなくなり、震災の風化が一段と加速している。その中でも、震災を知らない世代にも記憶と教訓をどうつないでいくのか、被災地の課題として人々の中に現れている」

復興は完了したのか 福島に遅れ

三陸沿岸道路

この1年間、被災地のインフラの復興はさらに進みました。

去年12月には仙台市と青森県の八戸市を結ぶ「三陸沿岸道路」がすべての区間で開通。

震災のあとに進められた総延長570キロの復興道路と復興支援道路の整備がすべて終了しました。

一方、福島第一原発周辺の帰還困難区域の大半では、いつ避難指示が解除できるか具体的なめどはたっていません。

各県別の復興状況の認識には現状が反映される形になっていました。

復興状況は【岩手県】
・完了した 19.7%
・思ったよりも進んでいる 30.5%
・わからない 21.3%
・思ったよりも遅れている 23.7%
・全く進んでいない 4.8%

復興状況は【宮城県】
・完了した 15.4%
・思ったよりも進んでいる 29.3%
・わからない 22.6%
・思ったよりも遅れている 29.0%
・全く進んでいない 3.7%

復興状況は【福島県】
・完了した 9.3%
・思ったよりも進んでいる 28.0%
・わからない 19.7%
・思ったよりも遅れている 32.8%
・全く進んでいない 10.1%

岩手、宮城では「完了した」「思ったよりも進んでいる」と答えた人の割合が、「思ったよりも遅れている」「全く進んでいない」と答えた人の割合を上回りました。

一方福島では、その割合が逆転していました。

大半で復興の見通しが立っていない帰還困難区域では、ことし、一部で避難指示の解除が予定されています。

今後、国がこの区域全体の将来の見通しをどう示すのか、注目されます。

復興は完了したのか インフラ充実も 暮らし向きや経済に課題

分野別で復興の実感を尋ねた質問では、顕著な差が出ていました。

復興実感【道路や鉄道等の交通インフラ】
・実感がある/やや実感がある 68.8%
・どちらでもない 21.2%
・あまり実感がない/実感がない 10.0%

復興実感【暮らし向き】
・実感がある/やや実感がある 19.0%
・どちらでもない 49.3%
・あまり実感がない/実感がない 31.7%

復興実感【住民同士のつながり】
・実感がある/やや実感がある 20.4%
・どちらでもない 50.2%
・あまり実感がない/実感がない 29.4%

復興実感【地域経済】
・実感がある/やや実感がある 28.9%
・どちらでもない 42.0%
・あまり実感がない/実感がない 29.1%

暮らし向きや住民同士のつながり、地域経済の復興に実感があると答えたのは2~3割程度。

インフラの比べる比べると、40~50ポイント低い数字でした。

道路や建物などの復興は進んだ一方で、暮らしを立て直せていない人たちが少なくない実態が浮き彫りになっています。

自由記述に記された声です。

「とにかく働き口、仕事先。魅力的な職場環境。定住して生活が継続維持できる環境がないと、長くその場所に留まることができない」(岩手県 女性 52歳)

「仕事が減り、収入も減った。住宅ローンの返済は貯金を崩してぎりぎり」(福島県 女性 41歳)

「収入が減ったのに、燃料や食品などの物価が上がり家計を圧迫している」(岩手県 男性 53歳)

「多くの世帯が被災から立ち直れず厳しい生活を強いられています。経済的な支援が必要です」(宮城県 女性 61歳)

「仕事が無くなり除染など復興の仕事していたが、仕事減により収入も減。住民が戻らない土地などを活用し、福島県の求人を増えるようにして欲しい」(福島県 女性 53歳)

「仕事がなくては住人は戻らない。10年の間に移転先で仕事に就いた若い人はなおさら戻らない。そのような現実を直視しないで復興地を整備しても…金の無駄使いにならないか」(福島県 男性 70歳)

木村教授は、復興の状況は地域や住民それぞれによって異なり、実情に応じた支援がより重要だと話しています。

兵庫県立大学 木村玲欧教授
「経済の回復とつながりの再生によって地域を活性化していくことが長期的な復興の1つのポイントだが、新型コロナの影響もあり、復興がなかなか加速していない現状が浮き彫りになった。三陸沿岸道路の全線開通などでハード面の復興はひと段落ついたと考える人も増えた一方、経済やソフト面の復興が遅れている。これからソフト面の対策を中心に地域の実情に合った施策が必要となってくる」

これからの復興に何が必要か

それでは、被災地の人たちはこれからどのような支援を求めているのでしょうか。

さまざまな支援策について、「大いに必要」か「全く必要ではない」まで5段階で評価してもらいました。

「大いに必要」、「やや必要」と答えた人の割合をまとめました。

・「風評被害の払拭」※福島県在住者のみ回答 66.4%
・「人材登用や企業誘致など外部パワーの活用」55.2%
・「心のケア」54.2%
・「地域の企業や産業への経済的な支援」54.1%
・「個人や世帯への経済的な支援」47.2%
・「移住者の呼び込み」46.1%
・「行政やNPOによる見守り活動などの人的支援」43.9%

外部の人材、企業に期待する声や被災地の外の協力が欠かせない、風評被害対策を求める声が大きい結果となりました。

被災地では人的、経済的な支援が必要で、かつ被災地だけでの課題の解決に限界を感じていると言えそうです。

その一方で自由記述を見ると、心のケアの必要性を訴える声の大きさが特に印象に残りました。

「何年たっても、震災の記憶は消えない。震災の事を思い出すと涙が出る。苦しみ、悲しみがずっと続くと思う」(宮城県 女性 53歳)

「原発の廃炉作業がまだまだ終わらず、過程で様々な問題が明らかになるたびに暗い気持ちになる」(福島県 女性 57歳)

「PTSDに苦しむ知人も多い。自死を選んだ人たちも複数知っている。心のケア、見守り等の漠然としたものではなく、カウンセラーの派遣など具体的なプランが欲しい」(岩手県 女性 35歳)

木村教授は次のように話しています。

兵庫県立大学 木村玲欧教授
「震災を話題にすることも少なくなっていく一方、心の中で震災のことを考えたり意識したりすることは変わっていない。道路や建物などの目に見える復興がひと段落しても、心のケアや経済、交流などの問題はまだまだ残っている。より一層それぞれの実情にあった支援をしていく必要がある」

また、外部からの力に期待する声が大きいことについては。

兵庫県立大学 木村玲欧教授
「もう一歩、新しい地域を作っていくための力として外部のパワーが必要となっている。外部の知恵も借りながら地域住民の意見を集約して、いかに被災地で新たな暮らしを作っていくか、震災10年を超えた新たなステージでの課題となっている」

10年の節目から1年。

アンケートの回答やそこにつづられた言葉からは、震災を知らない人たちに教訓を伝えることの課題や、今も心の不調を訴える人が多くいることが浮き彫りになりました。

そして、被災地だけではこれからの復興を成し遂げることは難しいと訴える今回の結果に対し、継続して被災地に関心を寄せる必要があると強く感じました。

顔写真:齋藤恵二郎

社会部記者

齋藤恵二郎

2010年入局
データ分析、災害、子育て、教育などを取材