チョークで描く“東北の未来”
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26歳の画家が今月、“東北の未来”の風景を黒板にチョークだけで描きました。
「何もできない…」
高校生だった10年前、東日本大震災の被災地を前にこう感じたという女性は今、アートの力を支援に役立てられるよう挑戦を続けています。
震災の報道が続く今、「自分も何かできないか」と思う人に知ってほしい、ひとりの若者の話です。(首都圏局 記者 石川由季)
「黒板アート」 被災地で描く
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すずきらなさん(26)は、新たな表現に挑戦することで注目される気鋭の画家です。
得意とする表現の一つが「黒板アート」。学校にある長さ3.6メートルの黒板にチョークの色だけでカラフルに彩っていきます。
2年前、東日本大震災の被災地・宮城県東松島市で描いた、すずきさんの作品です。
設置されたのは被害を受けた小学校の跡地でした。
天女が犠牲になった子どもたちを天に導く様子をイメージして描きました。すずきさんは、この数年、アートを通じて被災地との関わりを深めています。
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その原点は、10年前に感じた思いにありました。
「何もできなかった…」
「何もできなかったのが悔しかった」
高校生だった当時のことをそう振り返るすずきさんは千葉県旭市に暮らしています。東日本大震災の関東最大の被災地の一つです。
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旭市では、津波によって4000棟近い住宅が被害を受けました。
すずきさんの自宅は断水や停電で済みましたが、友人の中には自宅が被害を受けた人もいました。
後片付けのボランティアに参加する友人もいました。しかし、自分の身の心配をしてくれる家族のことを考えると行動に移せません。そんな自分の思いを語ることもはばかられ、心の負担になっていたと言います。
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高校時代の転機
すずきさんの転機になったのが、その夏に美術部で参加した福島での作品展示です。
制作したのは「創造と復興」がテーマの作品。地震で壊れた石こう像を再生していく様子を表現しました。
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作り直される過程の石こう像と復興に向かう被災地を重ね合わせ、街や社会が未来に向けて再生してほしいという願いをこめました。
期待と不安で臨んだ作品の展示でしたが、作品を見た人が声をかけてくれ、中には「こういう風に考えてくれてありがとう」と言ってくれる人もいました。
この経験が、すずきさんの“心のもや”を少しだけ晴らします。
「自分にやれることを精いっぱいすることで、できることがありそうだって気がつけた。アートの力で人の命が直接救われるようなことはないのかもしれないけど、暗い気持ちをケアしたり誰かがアクションをする、一歩踏み出すきっかけになるのではと感じました」
画家の道へ 地元でも復興に関わる
すずきさんは高校そして大学を卒業し、画家の道を進みます。
その後も震災と向き合い続け東北の被災地で作品を制作するなど、被災者との関わりを深めていきました。
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地元の千葉県旭市でも復興に関わることができました。海岸に新たに作られた防潮堤に描いた作品です。
地元の子どもたちと一緒に描いたのは「守り神の竜」。
まちを守ってほしいという思いを込め、震災で変わってしまった風景にアートで彩りを加えました。
震災10年 何を描く?
そしてことし、すずきさんは岩手県に関わる「黒板アート」を制作することになりました。舞台は3月に東京で開かれる岩手県の物産展です。
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岩手に住む人から直接今の思いを聞いて、作品に込めるメッセージを考えました。
緊急事態宣言のため岩手に行く予定はキャンセルしましたが、2月、オンラインで観光協会の人たちに話を聞きました。
すずきさんが震災発生から10年の岩手の状況、そして今の思いを尋ねます。
「当時からの被災地の支援に対する感謝の気持ちがとても強いです。本当に『ありがとうございました』という思いが強い。そして、これからも岩手の物産を食べて応援してほしいし、コロナが落ち着いたらぜひ岩手のほうにも足を運んでほしい」
この「感謝」の思いをどう作品に生かすのか、すずきさんは考え始めます。
“未来の春の風景”
黒板アートの制作は物産展が始まる前日の3月2日に始まりました。
その様子です。
すずきさんはまっすぐなまなざしで黒板に向かい、6時間ほどかけて一気に作品を描き進めていきます。
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描いたのは岩手山や一本桜、それに菜の花でした。
津波が起きた海ではなく、あえて色鮮やかな「春の風景」に仕立てた理由。それは“明るい未来“への思いを込めた作品を届け、岩手を訪れるきっかけになってほしいと考えたからです。
訪れた人たちが黒板の前で足を止めると、すずきさんは一人ひとりに声をかけ直接、作品に込めた思いを語りかけます。1人の女性は「見たことがある景色、本物みたい」と話し、毎年のように岩手県を訪れているというエピソードを教えてくれました。
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「私が絵を描いたことで『見て、この絵』って会話が弾んだり、コミュニケーションが生まれているのを見ると、やってよかったなと思います。震災があったことはなかったことにはできなくて、これからも同じことがもしかしたら起こるかもしれない。だからこそ、アートを通じて過去から得た学びを未来に伝えていく活動ができたらいいなと思います」
「何もできなかった…」 それでも、きっと
10年前、関西で学生だった私(記者)も、テレビで流れる被害の映像をただただ眺めることしかできず「何もできなかった」という無力さを持ち続けていました。
そんな中で、すずきさんの話を聞くたびに「あなたにもできることがある」と背中を押されているような気持ちになりました。
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あの日を振り返って誰かと語り合うこと。
物産を買って応援すること。
自分が得意な何かで震災を伝えること…。
それぞれの立場でできることがきっとあるはずだと、すずきさんの作品は教えてくれているのだと思います。
![顔写真:石川由季](/news/special/shinsai-portal/10/special-articles/article/still/article-reporter-19-01.jpg)
首都圏局 記者
石川由季
2012年入局
大津局 宇都宮局を経て現所属
最近、4歳の息子と初めて震災の話をしました
「人が足りないから助けてとか、あんまり行くと邪魔になるから来ないほうがいいとか、当時は情報も錯そうしていました。何かして迷惑をかけたくないという気持ちもあって、何が正解なのか分からないまま何もできなかったのが悔しかった」