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AI・メタバースLabo ~未来探検隊~

なぜ?地方が注目!メタバース美術館

なぜ?地方が注目!メタバース美術館

2023.08.07

インターネット上の仮想空間、メタバースを活用する美術館が近年増えてきた。

 

国内にはデジタルデータの伝統工芸や浮世絵をメタバース内で展示するメタバース美術館があるが、山梨県甲府市にある山梨県立美術館もメタバースの活用に乗り出したという。

 

1978年の開館にあわせてジャン=フランソワ・ミレーの「種をまく人」を収蔵し、核となる名画のコレクションを作ることに成功した山梨県立美術館は、まさに”公立美術館のお手本”とも言える美術館だ。

 

そんな”一見お堅い”美術館がなぜメタバースを取り入れるのか-

地方の美術館が思い描く未来図に迫った。

ミレーの美術館

山梨県立美術館

山梨県立美術館は、19世紀フランスの画家、ジャン=フランソワ・ミレーをはじめとしたバルビゾン派の作品を中心に、自然豊かな山梨県を象徴するコレクションを抱える。

収蔵する作品は1万1000点余りで、1978年の開館以来「ミレーの美術館」として親しまれてきた。

常設展「ミレー館」

2年前、私が甲府放送局へ赴任することになり、引っ越し先を決める前に「山梨に面白い美術館がある」と先輩に教わった時、胸が高鳴ったことを思い出す。

私が甲府に赴任してからの2年間だけでも「種をまく人」を活用して、デジタル技術で精巧に複製したクローン文化財を公開したり、触って楽しめるよう種をまく農夫の輪郭の裏側まで彫り込むなどした立体作品を展示したりと、コレクションを生かした挑戦を続けている。

メタバースで広がる表現

その美術館が、今度はメタバースを活用した企画展を行うというから、取材しないわけにはいかない。

さっそく話を聞いてみると、"甲府盆地の実験室"と位置づけた新しい取り組みを行うらしい。


しかも強力な武器「種をまく人」は活用しない。

館内ギャラリーの企画展

インターネット上に構成される3次元の「仮想空間」=メタバース。

企画展では、山梨県市川三郷町出身の現代美術作家たかくらかずきさんの作品を、現実の美術館とネットからアクセスできるメタバースの2通りの空間で展示する。

たかくらさんは、AIによる画像生成、VR(=仮想現実)、3Dプリントといったデジタル技術を用いて表現する作家。

現実の館内ギャラリーの壁にかかったキャンバスには、作品がレイヤー(=層)状に印刷され、凹凸が立体的に表現されていた。

メタバース内の企画展、県立美術館HPから当面アクセス可能

一方のメタバースでは、現実作品と同じレイヤーが使われているものの、展示方法が全く異なっていた。

メタバースの展示空間全体をたかくらさん自身がデザイン。

空間内では作品の1つが巨大化して展示されていたり、別の作品は宙に浮いていたりと、デジタルだからこそ可能な"現実ではあり得ない自由な表現と発想"で満ちあふれていた。

現代美術家 たかくらかずきさん

「バーチャルがリアルの代わりになるとか、そういう考え方もあると思うんですけど、僕はリアルとバーチャルは全く別のものだと思っていて、全く別々の表現が可能な領域なので、別の空間として楽しんでもらえたら」

大人も子どもも表現者

ワークショップ中の参加者

メタバースの活用は、作家が描いた作品の展示だけにとどまらない。

ことし3月には、一般の親子がそれぞれ作品づくりに参加するワークショップも開かれた。

参加者に与えられたテーマは「身近なものに宿るカミサマを描く」というもの。

美術館の中や屋外の庭園を散策してモチーフを探し、画材道具ではなくタブレット端末を使ってドット絵で描く。

その手軽さからか、1時間足らずで10作品以上を仕上げる子どももいた。

参加した親子の作品、県立美術館HPから当面アクセス可能

「傘」「電気」「森」など個性豊かなカミサマのデジタル作品は、拡大されてメタバース内の展示室に飾られる。

VRゴーグルやスマートフォンを使って、全員の作品を一緒に鑑賞。

参加者は「子どもが傘を差している様子を見て、雨の時に守ってくれるカミサマを描きました」などと自分の作品に込めた思いを語ったり、「周りの空気というか目に見えないものを描いているところがいい」「このままTシャツに印刷して着たいくらい、かわいい」などと感想を話したりして、互いに意見も交わした。

ワークショップでは親と子がそれぞれ自分の作品に取り組んでいたため、親から子どもへの一方的な口出しがなく、1人の表現者として親子が対等に意見を交わす姿が印象的で、参加者からの反応も上々だった。

子どもと参加した女性

「メタバースとかアートは取っつきにくいと思っていましたが、いい入口になりました。おじいちゃんが遠くに住んでいるので、インターネットで作品を見てもらって感想をもらいたいです」

子どもと参加した男性

「美術ってちょっと分かりづらいですが、作者の思いをみんなで解きほぐしていく場だと思うので、このワークショップがもっといっぱいあってもいいし、次回は他人の作品をプレゼンしても面白いと思います」

入館者の低迷

6月、山梨県が美術館をとりまく現状とこれからのビジョンを発表した。

数字は厳しい現実を物語っていた。

県立美術館の入館者数は、開館直後から大きく伸びたものの、59万人余りを記録した1985年をピークに減少に転じる。

2003年度以降は20万人前後で推移するようになり、最近では新型コロナの影響で大きく落ち込み、2022年度で14万6000人余りとピーク時のおよそ25%となっている。

美術館が従来どおりの活動だけでは存在意義を果たせなくなってきているようにも見える。

全国を見ても1992年度以降、入館者数が減少。

美術館の増加に合わせてここしばらくは増加傾向にあったが、コロナ後は美術館の数にかかわらず入館者数が激減している。

山梨県立美術館の青柳正規館長によると、メタバースの取り組みはコロナ禍のつらい時期に生まれたアイデアだったという。

山梨県立美術館・青柳正規館長

「リモートで美術館の中をみてもらう取り組みをやってきた延長線上で、どう現実味を出すか、リモートで見られる展示にどういうものがあるか勉強していると、メタバースに行き着いて、いち早く取り入れようと思いました」

ただし、メタバースの導入は単なる思いつきではないという。

県立美術館のビジョンにもそれは表れていた。

「共に成長し、新たな価値を生み出し、地域活力の向上に寄与する、社会に求められ続ける美術館」を目指すとして「コレクションの成長」「価値創出の強化」など5つの重点項目を掲げていて、メタバースの取り組みはこれを実現する手段の一つというわけだ。

さらに、これからの美術館の活動で生まれるデジタル作品や、これまで蓄積してきた情報や知見をまとめた資料などを、ふるさと納税の返礼品に活用することも盛り込まれていて、県はふるさと納税による寄付金の一部を作者に還元したり、芸術家の支援事業にあてたりすることも検討しているという。

改正博物館法

近年、美術館に求められる業務は広がっているように思える。

資料の収集、保存、調査研究、展示、教育普及に加えて、SNSなどを使った情報発信やデジタルアーカイブ、観光やまちづくりへの貢献など、さまざまな活動が加わってきた。

調べていくと、この内容はことし4月に施行された「改正博物館法」にも明記されていた。

この法律は美術館も対象になり、学校などと連携し、地域の活力の向上に寄与することが今後のミッションとなっているのだ。

地方では少子高齢化や人口減少が進んでいて、山梨県でもことし2月に推計人口が80万人を下回り、6月に知事が県独自の「人口減少危機突破宣言」を発出したばかりだ。

こうした課題に向き合ったり、観光の拠点としての役割を果たしたりといった機能強化が美術館に期待されているようだ。

美術館が地域を支える

少子高齢化や人口減少で全国の地方都市が縮小の危機にさらされる中、国も地方自治体も、美術館や博物館を地域の拠点にするべく動き出している。

今回のメタバースの取り組みは、県立美術館が「新しい価値を生み出さなければならない」という"長期的な戦略に基づく使命"のもと、未来の山梨県を支えるべく始めたものだったのだ。

美術館や博物館の取り組みに詳しい城西大学の土屋正臣准教授も、この取り組みをイノベーションを促す良い事例として評価している。

城西大学・土屋正臣准教授

「地方は新しい何かを生み出すイノベーションの衰退という問題を抱えていると思っています。今回の取り組みはメタバースという先進的な技術を取り入れつつ、ミュージアムのあり方そのものを来館者とともに作っている点で、地方での新しいイノベーションを促すような取り組みとして、ほかの地方のミュージアムが参照すべき事例になっています。ただし、メタバースを使うこと自体が目的になると非常にまずいので、新たな技術を取り入れる際は、どんな問題にどう取り組んで、どんな地域社会を描くのか、目的を明確にする作業を並行することが大切です」

「芸術っていうのは、人間が持っている無限の可能性を証明する一種のメディアなんです。厳しい時代ですが、美術館に構えて行くのではなくカジュアルにさらっと入り込めて、今までにはなかったような新しいものを見たり、あるいはそこからアイデアをもらったり、そういうことのできる美術館にしていきたい」

青柳館長は、美術館をより身近で訪れた人に活力を与える施設にしたいと語る。

山梨県立美術館が、地域に根ざす存在として山梨の未来をこれからどう描くのか、取材を続けたい。

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