話題の対話型AI「ChatGPT」を裁判官にした模擬裁判のイベントが、東京大学で開かれた。
機械が人を裁く未来を受け入れられるのか。
司法の未来のあり方について問題提起しようと、学生たちが企画した。
"AI法廷"に多くの傍聴者
前代未聞の「AI裁判官による模擬裁判」を傍聴するためだ。

裁判官は対話型AI「ChatGPT」


AI裁判官の判決に注目集まる

被告女性の弁護士役
「殺害を依頼したり、殺害計画を共有したりしたことはなく、共謀して被害者を殺害したとの検察の主張は全くの誤り」
「元交際相手の殺害を企図し、交際相手と共謀して、これをなそうとしたことは明らか」

検察官役

ChatGPT
「殺害について具体的な計画や手段を提案しているところを聞いたことはありますか」
AI裁判官が判決を言い渡した。

「主文。被告人は殺人罪の共犯とは認められないため無罪とする。被告が憎悪の感情を持っていたことは事実であるが、具体的な殺害計画や共謀が確定的に立証されたわけではない」
判決が言い渡される直前には、傍聴した人たちに対して「有罪か、無罪か」を尋ねるアンケートも実施された。
傍聴者はどう見たか

「AI裁判官の途中の質問は人間だったら、もう少し違うことを尋ねていたのではないかと思いました。AIだと公平というか、見た目など、人間なら考慮してしまう、影響されてしまうところが、影響されないという利点もあるのかなと思いました」
「結果は無罪でしたが人間の裁判官だったら有罪だったのではと思いました。機械にはブラックボックスなところがあると思うので、判断を納得させるという点では人間に委ねたほうがいいと思います。そうでないと、いつか自分が被告になった時に最後まで納得できないまま疑問が残ると思います」


「人の判決と機械の判決を両方比較できたらおもしろいと思いました。公平性なら機械のほうが人間よりも上になると思いますが、刑事裁判には心情的なものが強いため、現時点では刑事裁判は人間のほうが適切にできると思いました」
法律の専門家はどう見たか


「AIが裁判官そのものを担うのは難しいと思いますが、補助ツールとしての利用、例えば論点を整理させるような使い方は現実的なところまで来ているのではと感じました。AIで人が気付かない論点をあぶり出したり違った視点を入れたりと、全く感情を入れずにアウトプットを出してくれる機械は非常に有用だと思います」

「倫理的な観点からの課題はあると思います。例えば仮に有罪の判決となった際に、人間ではなく機械に『あなたが罪を犯しましたよ』と言われたときに被告人がどういう心理になるか。人として納得できるのか、感情として受け入れることができるかという問題です。また、判決に至った過程がブラックボックスとなっている点も課題だと思います。どういう仕組みで、その判決に至ったのか。過程の中に人間が入ってチェックすることが大事です」
AIによる判決が出るまでの過程は

人間が作った裁判のシナリオ、証拠や証言のデータを入力し、それにもとづいて最終的に判決を下した。

「順番」で「全部無罪」に
この順番が、公正さを保つ大きな壁になったというのだ。
検察官が「有罪」、弁護人が「無罪」という順番で主張すると何が起きるか。

「GPT(=AI)の特性上、後ろのほうで入力された言葉にかなり引きずられるっていう性質があって、何が起きたかというと全部「無罪」になってしまったんです」

現在の「ChatGPT」のアルゴリズムのくせのようなものだと考えられる。
すると、今度は「有罪」の判決が出た。

このままではいけないと、学生たちはAIが公正な判決を出すための新しい裁判の仕組みを考える必要があった。
AI用の裁判を新たに設計
どういうことか。
AIに3つの人格を持たせた裁判官を作らせ「合議制」を取らせたのだ。
B裁判官は、弁護人寄りの意見を述べる役割を与える。
そしてC裁判官は、AとBの意見をまとめる裁判官にした。
こうすることで、検察・弁護側、どちらの意見にも影響を受けない判決を出そうとしたのだ。

具体的な条件を繰り返し与えて考えさせると精度が高まるというChatGPTの特性をいかしたのだ。

すると最終的には、全員が一致した意見にまとまった。
岡本さんたちは、ChatGPTとのやりとりは、およそ3か月の間に少なくとも700回以上行っただろうと振り返った。

企画した学生たちもAIとの向き合い方に気付きがあったようだ


中島さん
「AIの実力を正しく認識して、ここまでは問題ないな、ここ超えるとやっぱり人間社会に悪影響あるかなという点でAIの限界を正しく知ることの重要性をやっぱり実感しました」
「AIを手足って言うとAIさんに悪いな、二人三脚としていろんなことをやっていきたいなと思います」

岡本さん
専門家「価値ある挑戦だった」

模擬裁判終了後にプロンプトを公開
「AI裁判官の公正性を確認してもらうこと」が主な目的だ。
この「プロンプトの公開」について佐藤教授は「参考になる」と評価した。
今後ますます利用が広がっていくAI。
このスマートな相棒と、私たちはどう共存していくべきか。
多くのことを考えさせられた。
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