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サイカル研究室

天文学の新時代が幕を開ける~最新宇宙望遠鏡が運用開始~

2022.07.23 :

「宇宙の窓」とも言われ、はるか遠くの宇宙まで観測することができる、新しい「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の本格運用が始まりました。
アメリカのバイデン大統領が記者会見を開くなどして公開されたその画像には、これまで人類が見たことのない鮮やかな宇宙の姿が捉えられていました。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡 Image credit: NASA/Desiree Stover

はるか遠方の銀河団「SMACS 0723」

銀河団「SMACS 0723」を中心に数千もの銀河が写し出されている。  IMAGE: NASA, ESA, CSA, STScI
最初に公開されたのは、およそ40億光年離れた「SMACS 0723」と呼ばれる銀河団を中心に撮影した画像です。

遠方の天体を観測するのに適した領域を長時間にわたって撮影していて、数千もの銀河が写し出されています。

銀河団の重力によって空間がゆがみ、奥にある銀河の光が曲がって伸びたように見える「重力レンズ効果」も確認することができます。

画像を拡大すると、さらに細かい銀河が見えていて、専門家からは、望遠鏡の性能の高さを感じることができるという声が上がっています。

“星の死”を捉えた「南のリング星雲」

南のリング星雲 近赤外線で撮影(左)と中間赤外線で撮影(右)  IMAGE: NASA, ESA, CSA, STScI
続いて公開されたのは「南のリング星雲」とも呼ばれ、鮮やかな色が印象的な美しい画像なのですが、実は“星の死”を捉えています。

右と左はいずれも観測する光の波長を少し変えて撮影した「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の画像です。

向かって右の画像では「南のリング星雲」の中心に2つの星があるのがはっきりと見えています。そのうち、赤みを帯びた星が、もともと太陽に特徴が似た星で、その星が一生を終える間際に放出したガスやちりが輝きリング状に見えているということです。

残りの寿命がおよそ50億年とされる太陽でも同じような現象が起きると考えられていて、詳しく観測することで太陽の将来の姿についても新たな発見があるかもしれません。

“星の誕生”の場である「カリーナ星雲」

カリーナ星雲   IMAGE: NASA, ESA, CSA, STScI
一方、こちらは夜空に浮かぶ「山脈」のように見え、「宇宙の崖」とも呼ばれる「カリーナ星雲」の画像です。

「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」のカメラだからこそ撮影できる、濃いガスやちりの詳細な姿とともに、その中で生まれた若い星がいくつも輝いている様子を捉えていて、“星の誕生”の様子を鮮やかに写し出しています。

ハッブル宇宙望遠鏡よりも鮮明に

左側はハッブル宇宙望遠鏡で撮影した画像 Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)   右側はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影した画像  IMAGE: NASA, ESA, CSA, STScI
2枚の画像はほぼ同じ位置を撮影していますが、左が「ハッブル宇宙望遠鏡」の画像で、右が「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の画像です。

「ハッブル宇宙望遠鏡」の画像も、当時としては驚くほど鮮明な画像として一般の人にもインパクトを与えましたが、「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の画像はそれを上回る鮮明なものになっています。

あたかも「霧が晴れたよう」に輪郭や形状が鮮明に見えているほか、ちりの中でも「ハッブル宇宙望遠鏡」では見えなかった誕生したばかりの星がいくつも見えています。

進化する銀河「ステファンの5つ子」

ステファンの5つ子    IMAGE: NASA, ESA, CSA, STScI
またこちらは、近接して見える5つの銀河の画像で「ステファンの5つ子」と呼ばれています。

銀河どうしがお互いの重力によって引き合い、合体しようとする姿をガスの動きまで克明に捉えています。

銀河は合体を繰り返して、巨大な銀河に進化することがわかってきていて、こうした天体の研究が進めば、天の川銀河の成り立ちの理解にもつながると期待されています。

“生命が存在できる惑星”の探索

惑星「WASP-96b」の大気の観測データ    ILLUSTRATION: NASA, ESA, CSA, STScI
5つ目の画像は天体の画像ではなく、太陽のように輝く星の周りにある惑星の大気を観測したデータです。「WASP-96b」と呼ばれる太陽系の外にある惑星で、大気中に水の存在を示すシグナルを捉えたとしています。

このような分析を通して、生命が存在できる惑星を探すこともこの宇宙望遠鏡の大きな役割だということです。

新たな発見は?

今は本格的な観測を始めたばかりなので、これから研究や分析がスタートするため「発見」はこれからになりますが、NASAはすでに“大発見の兆し”があるとして追加の観測結果を公表しています。
「SMACS 0723」の画像に写った131億年前の銀河の観測データ  IMAGE: NASA, ESA, CSA, STScI
「SMACS 0723」の画像には、小さな赤い天体が写っていました。

これは宇宙誕生から7億年後のおよそ131億年前に発せられた銀河の光で、この光を詳しく解析すると、酸素や水素、それにネオンの存在を示すシグナルを捉えることができたということです。

専門家はこうした観測をさらに進めることで、宇宙初期の銀河がどのような元素でできていたのか解明できる可能性があるとしています。
「ステファンの5つ子」の銀河の1つの解析結果としてNASAが公開した画像 IMAGE: NASA, ESA, CSA, STScI
また「ステファンの5つ子」の画像でも“大発見の兆し”がありました。

「ステファンの5つ子」の画像の向かって右上に写っている銀河について詳しく調べたところ、明るく輝く銀河の中心部にある超巨大ブラックホールが、ケイ酸塩と呼ばれる物質でできた細かいちりに包まれていることが分かったということです。

最初の観測で、すでに貴重なデータがとれていることについて、専門家からは大発見につながる予感がするとして、今後に期待する声があがっているのです。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とは

ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡のイメージ図  Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez
「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、天文学の大きな功績を残した「ハッブル宇宙望遠鏡」の後継機としてNASAが中心となって開発したもので、20年以上の歳月と1兆円を超える費用をかけた巨大科学プロジェクトです。

NASAの2代目の長官で、アポロ計画などを主導したジェームズ・ウェッブ氏にちなんで名付けられています。

去年、宇宙に打ち上げられて、観測にむけた準備が進められていました。
2021年12月25日、フランス領ギアナから打ち上げられた。  Credit: NASA/Bill Ingalls
「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」には直径がおよそ6.5メートルの大きな反射鏡があり、「サンシールド」と呼ばれる、太陽や地球の光や熱をさえぎる5層の大きな銀色の幕も備えています。
地球と月、ハッブル宇宙望遠鏡、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の位置関係   NASAのHPより
地球から150万キロ離れた軌道で、太陽と反対方向に望遠鏡を常に向けることで遠くの天体を観測します。
望遠鏡の感度はハッブル宇宙望遠鏡よりも高く、遠く暗い天体を観測できるとされます。

宇宙で遠くの天体を観測することは、過去に発せられた光を観測することになることから、宇宙の昔の姿を捉えることになり、宇宙のより初期の姿を知ることにつながります。

なぜ遠くの宇宙を観測できるのか

ウェッブに搭載された赤外線カメラNIRCamの心臓部 Credit: K. W. Don, University of Arizona
遠くの宇宙の観測を支えているのは、搭載されている赤外線カメラです。

宇宙は膨張しているため、遠くの銀河から放たれた光は地球に届くまでに波長が引き延ばされて、多くが赤外線になります。こうしたことから、宇宙の始まりからまもなく誕生した星や銀河の光は、赤外線で観測することが重要になるのです。

「ハッブル宇宙望遠鏡」は主に可視光での観測のため遠方の宇宙の観測には限界があります。「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、「ハッブル宇宙望遠鏡」の限界を超えた135億年前の天体から発せられた光も観測できるとされています。

それは宇宙誕生からわずか3億年後という、人類がまだ見たことがない宇宙初期の姿になるはずです。

狙うは“ファーストスター”

「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が狙う最大の成果は宇宙の始まりからまもなく誕生した第一世代の星、「ファーストスター」の発見です。宇宙が誕生して最初の星はどのようなものだったのかという問いは、宇宙誕生にも関わる大きな謎です。

どのような元素でできているのかや、どのような大きさなのか、観測することができれば人類が宇宙を理解するうえで大きな手がかりになることから、天文学史上の大発見になるとも言われています。

また、「ファーストスター」までいかなくても、初期の銀河や星を観測できれば重要な発見になります。

プロジェクトに貢献する日本人

アリゾナ大学 江上英一教授
赤外線カメラの開発チームには日本人研究者が重要な役割を果たしています。

アメリカのアリゾナ大学の江上英一教授は、「NIRCam」(ニアカム)と呼ばれる赤外線カメラを開発したチームに参加しています。

江上教授はおよそ10年間、プロジェクトに関わり、打ち上げまでは観測装置の地上試験を重ね、打ち上げ後も装置が宇宙空間で正しく作動しているかどうか確認にあたってきたということです。

(江上教授)
「公開された最初の画像を見たとき、ひとつの歴史的瞬間に立ち会っているような感覚でした。特に遠くの銀河に関するデータのクオリティーの高さには度肝を抜かれました。赤外線の光を捉えることで全く新しいものが見えるようになり、天文学のあり方や人間の宇宙に対する理解を大きく変える発見が相次ぐのではないかと期待しています」
また、今後の観測で関係する研究者も数多くいます。

「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は公募で選ばれた研究プログラムの観測が行われることになっていて、日本の研究者たちが提案した観測プログラムが採択されています。
東京大学宇宙線研究所 播金優一助教
このうち、東京大学宇宙線研究所の播金優一助教は、地上にある望遠鏡などを駆使して見つけた、134.8億年前に銀河から発せられた可能性のある光を捉えていて、これが本当にその年代の光なのか確認することにしています。確認できれば、現時点での最も昔の銀河の光を捉えたことになります。
(播金助教)
「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は暗い天体を精度よく鮮明に見ることができ、すでに期待以上のパフォーマンスを発揮していて、天文学の新しい時代が幕を開けたと感じています。この望遠鏡を存分に活用して宇宙が誕生してから最も初期に出来た銀河を見つけ出し、宇宙で銀河がどのように誕生してどう進化したのか、そして、わたしたちの天の川銀河を含む現在の宇宙へとつながっていったのかに迫っていきたいです」
「宇宙の窓」とも言われる「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」からは、想像もできないような大発見が生みだされるのではないかと期待されているのです。

2022年7月24日 おはよう日本「サイカル研究室」で放送

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国際部記者

添徹太郎

平成17年入局。甲府局・神戸局を経て、平成23年から科学文化部で、文芸・歴史・ポップカルチャー・ロボット・AI・感染症・再生医療など幅広い分野を取材。平成30年から国際部で相変わらず幅広い分野を取材中。

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科学文化部記者

山内洋平

平成23年入局。初任地の佐賀局を振り出しに雪国の青森局、札幌局を経て科学文化部。主に基礎研究分野を担当。縄文や民俗風習にも興味があります。

 

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