STORY

“保護犬や保護猫”と、共に暮らせば

2022.06.08 :

行き場のなくなった犬や猫を保護し、新しい家族を探す。
今、多くのボランティアが、「命」を救うために活動を続けている。

 

だが、なぜ、そこまで熱心になれるのだろう?
私は、東京・西日暮里にあるトリミングサロンを訪ねることにした。

「休日」のはずなのに、猫の引き取り

ケージを車に積み込むWAKAさん
5月中旬のこと。
トリミングサロンの経営者、猪野わかなさん(=WAKAさん)は、車の後部にたくさんのカゴを積み込んでいた。
ある会社の経営者が逮捕され、100匹以上の猫の行き場がなくなったという。
このうち60匹ほどを、ほかの3つの保護団体と協力して引き取ることにしたと話す。
猫の保護現場で (画像提供:WAKAさん)
10年以上前から動物の保護活動に取り組んできたWAKAさん。
保護の当日は貴重な休日のはずだったが、気にするそぶりを見せない。
「だって、ボランティアって、そういうものでしょ」と笑った。

ペットショップで目の当たりにした“現実”

専門学校でトリミングを学んだWAKAさん。
動物たちを扱う現場を知るために、ペットショップでアルバイトをすることにした。
子どものころから動物好きだったWAKAさんにとって、ペットショップは夢の世界。
願ってもない仕事のはずだった。

しかし、業界の裏側は、自分の想像とは違っていたという。
子犬たちは繁殖場で増やされ、競りを通じて流通のルートに乗った。
店頭では狭いケージに入れられ、夜中まで客の目にさらされていた。
WAKAさん(猪野わかなさん)
(WAKAさん)
犬や猫の子どもが生まれると大切に扱われ、やがて新しい家族のもとに届けられるのだと思っていました。
でも流通の現場では、「まとめて購入したほうが安い」とか、「この子は高く売れそう」とか、そういうことばが飛び交っていました。

仕入れてきた犬や猫に障害や病気が見つかると、「この子は業者に返そう」という話になります。
返された先でどうなってしまうのかを聞くと、「障害があっても、子どもを産めるなら産む。どうにもならなければ処分される」と教えられました。

なるべく早く犬や猫を売り、家族を作ってあげることが、その子たちの幸せにつながると思ったこともありました。
しかし、店を訪れる客の中には酔ったいきおいで犬や猫を買っていく人もいました。
次の日、その子が道ばたに捨てられているのを見つけたこともありました。
WAKAさんは、もうペットショップにはいられないと思った。
だから2008年、26歳のときに自分のトリミングサロンを立ち上げることにした。
トリミングの仕事で店の経営基盤を確立しながら、個人的に、捨てられた犬や猫などの保護活動にも取り組もうと考えたのだ。

「東日本大震災」が転機に

震災で保護された犬のトリミング (画像提供:WAKAさん)
そんなWAKAさんに転機が訪れたのは、2011年。
東日本大震災で、家族とはぐれた犬たちを各地の動物保護団体がレスキューしていた。
神奈川県の施設にも、被災地で保護された犬が数多く集まっていたという。
ボランティアで訪れたWAKAさんは仮設のテントを持ち込んで、犬たちの毛を刈った。
施設からお湯をもらい、井戸水も使いながら順番にその体を洗った。

やがて志を同じくする仲間が出来た。
一緒に飼い主の行方を捜し、見つからない場合は新しい引き取り手につないでいった。
そうしたことを続けるうちに、WAKAさんの中には、仲間と共に保護活動を続けたいという気持ちが育っていった。

仲間と共に動物保護団体を立ち上げ

動物保護団体の仲間たち (画像提供:WAKAさん)
2013年、WAKAさんたちは、「GOGO groomers(ゴーゴー・グルーマーズ)」という団体を作った。
関東に仕事場のある10人ほどのトリマーが参加した。
当時、東京都動物愛護相談センターに収容される犬や猫などは1年間に2000匹余り。
WAKAさんたちは、センターに出向いて収容された犬や猫のトリミングを行い、可能なかぎり引き取っていった。
処分される動物を少しでも減らしたいというのが、共通の願いだった。

河原に大量の犬の死骸が

このころ、WAKAさんが衝撃を受けた事件があった。
それは2014年の10月から11月にかけてのこと。
栃木県内の河原などで、合わせて70匹を超える犬の死骸が見つかり、ニュースでも報道された。
中には生きている犬もいて、獣医師や保護団体が救い出した。
WAKAさんも13匹を引き取ったという。
ただ、伸びきった毛を刈ってみると、一部は目が飛び出たり、足が壊死したりしていた。

悔しさで涙があふれた。
なんとか命を取り留めた子もいたが、みとらざるをえなかった子もいた。

いったいなぜ、こんなことになったのだろう…

「繁殖屋」と「引き取り屋」

事件の際に保護された犬たち (画像提供:WAKAさん)
WAKAさんは、この事件に関わりがあったとされる業者を次のように呼んだ。

「繁殖屋」と「引き取り屋」。

文字どおり、「繁殖屋」はペットショップなどに販売するために犬を繁殖させるのが仕事だ。
犬は出産を重ね、やがて“役に立たなくなる”。
そこに「引き取り屋」の出番があるのだという。

栃木の事件が起きる前の年、動物愛護法が改正された。
「繁殖屋」が、増えすぎた犬の引き取りを依頼しても、自治体の動物愛護相談センターは拒否できることになった。

この事件で逮捕された「引き取り屋」は、警察の調べに対して「頼まれて大量の犬を100万円で引き取ったが、木箱に入れてトラックで搬送中に死んだ」と話した。
そして、遺棄の理由については、「犬の死骸をきちんと処理しようとすると金がかかるほか、大量に持ち込むと怪しまれると思った」と説明したという。

このころ、各地で同じような犬の遺棄事件が相次いだ。
WAKAさんは、こんなふうに話す。
(WAKAさん)
悪質な「繁殖屋」は、出産を終えた犬から子どもを引き離し、すぐに次の子を妊娠させます。
それを何回も繰り返すと、やがては子どもを産めなくなる時期が来る。
そうした犬を「引き取り屋」が買い取り、処分に困ると、結局、山や川に捨ててしまう。

私は命の重みには違いがあるんだということを、この事件を通じて思い知らされました。
家族として迎えられ、幸せに過ごす犬や猫がいる一方で、何匹も子どもを産んで、最後は「引き取り屋」に連れて行かれる子もいる…

多頭飼育崩壊の現場で

左:保護された犬  右:トリミング後 (画像提供:WAKAさん)
WAKAさんは、「多頭飼育崩壊」と呼ばれる現場も数多く見てきた。
中には「繁殖屋」が無計画に犬や猫の繁殖を続けたり、「引き取り屋」が自分の持つ施設で飼育しきれなくなったりすることで引き起こされたケースがあった。

保護した犬の毛は伸び放題。
ふんが固まって異臭を放っている。
そうした犬たちにトリミングを施し、体を洗う。
少しずつ、少しずつ、本来の姿を取り戻す作業を進めていく。
左:保護された犬  右:トリミング後 (画像提供:WAKAさん)
もちろん、その犬種が好きで、まじめに「繁殖」に取り組むブリーダーはいる。
犬や猫の健康を重視しているペットショップだってあるだろう。

しかし、悪質な「繁殖屋」が大量の犬や猫を生ませ続け、ペットショップなどで販売するという構造が続いていく以上、保護の必要な犬や猫が出てくることは避けられないと、WAKAさんは考えている。

アタシ、バニー。看板犬よ

バニーさん (画像提供・WAKAさん)
みなさ~ん。
ここからはアタシの出番よ。
アタシ、WAKAさんのトリミングサロンの看板犬、バニーです。
ゴールデンレトリーバーの女の子。

とってもまじめにアタシたちのことを考えてくれるWAKAさんだけど、悲壮感を漂わせているわけじゃないのよ。
満面の笑顔になるのは、自分が保護した犬や猫が、新しい家族として迎えられ、幸せに暮らしているのを見たとき。

「だっこ」が嫌いな「やすお」

動物愛護センターに収容されていた「やすお」 (撮影・MIKI YAMATOさん)
この子は「やすお」。
2016年、千葉県内で、1匹だけで放浪していたところを、動物愛護相談センターに収容されたんだって。
WAKAさんがボランティアでトリミングに行ったとき、とても寂しそうな様子だったらしい。
「この子を引き取ります」ってセンターの職員に言ったら、「えっ、この子でいいんですか?」って驚かれたらしいわ。
(撮影・MIKI YAMATOさん)
「やすお」は不安を声に出しちゃうタイプだった。
つまり、すぐに吠えたりしたために、なかなか新しい家族が見つからなかったの。
WAKAさんたちは基本的なしつけをしたり、散歩の楽しさを教えたりしたんだけど、どうしても「だっこ」は嫌がってしまったそうよ。

「やすお」に家族が見つかった!

台車に乗る「やすお」(画像提供:やすおくんの“お父さんとお母さん”)
そんな「やすお」に家族が見つかったのは、1年ほどたった譲渡会でのこと。
都内のマンションに住むご夫婦が「やすお」に一目ぼれしたんだって。
そのマンションは動物の飼育OKだったけれど、共有部分は「だっこ」をして外に出るというルールがあった。
だから、「やすお」のお父さん(=飼い主さん)は、台車に乗せてマンション内を移動させることにしたの。
訓練はうまくいって、マンションの皆さんも理解してくれた。

「やすお」には、「フィラリア」という病気もあった。
寄生虫が心臓にいて、お父さんとお母さんは、とても心配していたの。
でも、しっかりと治療を続けて、今ではすっかり元気になったわ。
(「やすお」のお父さん)
「やすお」には、だっこや留守番など、苦手なことがたくさんありました。
でも、本当は素直な子なんです。
徐々に苦手を克服し、フィラリアも陰性になった。
ようやく「やすお」本来の姿になりました。
(「やすお」のお母さん)
私は、犬を飼うのが初めてでした。
でも「やすお」の存在を通じて、命の大切さや、生き物が共存していくことの大切さを考えるようになりました。
私たちにとって「やすお」は、“わが子”です。
最後まで一緒に暮らし、愛情を注いでいきたい。

“保護活動のモデル犬”も務めた

モデルになった「やすお」 (撮影・MIKI YAMATOさん)
すっかり本来の自分を取り戻した「やすお」は、WAKAさんたちの保護活動を紹介するパンフレットの“モデル犬”も務めたわ。

ニューヨークを拠点に活動し、WAKAさんたちの取り組みを支えている写真家のMIKI YAMATOさんは、「やすお」が保護されて以来、ずっと撮影を続けてくれた。
YAMATOさんも、「今の『やすお』は、まるで、別人(別犬)みたいに幸せそう」だって。

ねぇ、どう?
このさっそうとした姿。

アタシも保護犬だったのよ

左・バニーさん (画像提供:WAKAさん)
実は、アタシも「繁殖屋」から引き取られた元保護犬なの。
最初は、人が苦手だったわ~。
ごはんはくれるけれど、家族と言えるような扱いはされなかった。
アタシがWAKAさんのところに来たときは、床をほふく前進するようにしか動けなかったそうよ。
おしっこをもらしちゃうことも、一度や二度ではなかった。

でも、WAKAさんが飼っていた先代の看板犬、ライズさんが寄り添ってくれた。
WAKAさんも、おやつをくれたりスキンシップをとってくれたりして、人間は怖くないっていうことを徐々に教えてくれた。
1年半ほどたってライズさんは天国に行った。
それでアタシが看板犬の大役を引き継ぐことになったの。
アタシってば、みんなに好かれるのよ (画像提供:WAKAさん)
トリミングサロンで寝そべっていると、繁殖屋にいた子、元は野犬だった子、多頭飼育崩壊の現場から保護された子たちが次々にやってきたわ。

アタシも、もともとの性格はのんびり屋さんでしょ~。
新しく来た子たちが落ち着けるように、「みんな敵じゃないよ、味方だよ」ってことを、少しずつ伝えていったつもり。

うまくいったかしらね。

“新しい心配事”も

ここで、いったんバニーさんから話を引き継ごう。
最近では年間130匹から140匹の犬や猫を引き取り、新しい家族につなぐようになったWAKAさん。
ただ、このところ、新たな心配事もあるという。

去年6月1日から、犬や猫の販売などを行う業者が守るべき省令が、新たに施行された。
飼育のためのケージの大きさは具体的に定められ、運動のためのスペースを確保することなども義務づけられた。
1人当たりの従業員が担当できる犬や猫の数にも数値基準が設けられた。

こうしたなか、WAKAさんのもとには、ブリーダーや、連携する保護団体からの「犬や猫を引き取ってもらえないか」という連絡が増えたという。
それに応じて保護した犬や猫は、この半年で5件・30匹以上。
これまでと同じ広さの敷地では、同じ数の犬や猫を飼育できず、法律の基準を満たせなくなったからだと、WAKAさんは考えている。

これでは保護団体にしわ寄せがいくばかりではないのか。
そう質問すると、次のようにWAKAさんは答えた。
(WAKAさん)
保護団体がすべての受け皿になるのは違うと思うけれど、誰かが受け入れなければ、また、山や川に遺棄される犬や猫が増えてしまうかもしれない。
しっかりと自分たちの受け入れ能力を見極めながら、できる範囲で保護は続けたい。

少なくとも殺されてしまうよりはいいと思っているんです。
悲しい現場もたくさん見てきたから、少しでも動物たちの不幸を、幸せな未来へと変えることができたらと考えています。

WAKAさんの夢

トリミングサロンにて
WAKAさんは、かつて「自分の最終目標は、保護活動をする必要がなくなること」だと考えていたそうだ。
しかし、海外への転勤など、やむをえない理由で犬や猫を手放さざるをえない人はいるし、高齢の飼い主が急に亡くなってしまうことだってある。

こうしたときに、自分たちが関わることで救える命があるのだという。

一方で、WAKAさんには新しい夢もある。
各地のトリミングサロンなどが、地元に住む人たちとの交流の拠点になれば、と考えているそうだ。
(WAKAさん)
自分たちは犬や猫を飼っている人の相談に乗ることができるし、必要があれば、信頼のおける動物病院につなぐこともできます。
いつも定期的にトリミングに来てくれるおじいさんやおばあさんが、突然、お店に来なくなれば、様子を見に行くこともできます。
何よりも、動物たちがいれば、みんなの会話が弾み、地域のつながりができていきます。
私の店では、徐々にそうなりつつあると自負していますが、もっといろいろなところに、そうしたコミュニティーができればいいなと思っているんです。

再びアタシ、バニーです 実は…

左:バニーさん 右:りっちゃん
WAKAさんって、そんなことを考えてたのね。
再び、アタシ。バニーです。

実はアタシ、ことし2月、白血病のために天国に来たの。
6歳でWAKAさんと出会って、12歳だったから6年間。
すっかり食いしん坊になったし、人間のことも大好きになったわ。

天国に旅立つ前には、たくさんの仲間たちが会いに来てくれて、みんなが「ありがと~」って言ってくれた。
あたしこそ「ありがと~」よぉ。

みなさんが、ここまで記事を読んでくれたことにもありがと~。
少しでも多くの人たちが、保護された犬や猫を家族の一員として迎えてくれること。
そして、みんなが幸せになることを、アタシは願っているわ。

あと、WAKAさん。
きっと夢をかなえてね。
そして、きっとまた会おう。

でも、まだ天国には来なくていいわよ。
あなたを頼りにしている子たちが、たくさん、たくさんいるんだからね。

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科学文化部 専任部長

緒方英俊

最近、好きなものは「犬」。

最近、好きになった俳優は「松山ケンイチさん」。

好きな作家は「水上勉さん」。

好きな歌舞伎俳優は「十二代目市川團十郎さん」。

好きな古墳は「箸墓古墳」。

好きなパンダは「結浜」です。

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