STORY

食べられても大丈夫!?~生き物たちの生存戦略~

2022.03.31 :

「世界初の発見 捕食魚のエラの隙間からウナギの稚魚が脱出」

去年12月、私の手元に届いたのが、このタイトルのリリースでした。

「どういうこと?笑」

 

(長崎局 小島萌衣/科学文化部 藤岡信介)

生き物の逃避行動

そんな思いを胸に取材に向かったのが、研究の中心となった長崎大学の水産・環境科学総合研究科です。

出迎えてくれたのは河端雄毅准教授。
生き物の逃避行動という全国でも珍しい“ニッチ”な分野が専門で、学生たちも“ニッチ”な分野を追究しています。
まず目にしたのは、「シミ」と呼ばれる虫。

体長はおよそ1センチで、高温多湿な場所に生息する虫です。
研究しているのは、大学院生の佐藤明生さん。

風を吹きかけて刺激を与えると、どのように逃げるのかを調べています。

研究のため飼育しているシミは100匹以上。

研究室内でもシミの研究は誰もやりたがらなかったそうですが、あえてシミを研究対象に選んだ佐藤さんに聞きました。

「シミのどこに魅力があるのですか?」
佐藤明生さん
佐藤さんは「私がいないと生きていけないところ」と笑いながら即答。

河端准教授も「ニッチな研究室の中でもニッチを極めたような感じかもしれないですね」と、こうした研究を楽しんでいる様子でした。

ウナギ 世界初の発見

そんな研究室で発見されたのが、ウナギの稚魚は魚に食べられてもエラから逃げ出す、という世界初の発見でした。

発見したのは大学院生の長谷川悠波さんです。
  
取材時は700匹あまりのニホンウナギの稚魚を飼育していました。

当初の研究は、ウナギの稚魚が天敵の淡水魚に襲われたときに、どのような行動で逃げて生き残ろうとするのかを調べるというものでした。
その日も、ウナギの稚魚は食べられて、観察を終えました。

しかし、しばらくして水槽を見ると、食べられたはずの稚魚が、再び水槽の中を泳いでいたのです。
撮影:長崎大学 長谷川悠波・河端雄毅
「なんだ、これは!」と思った長谷川さんは、急いで長時間撮影できるカメラを設置。

すると、食べられたウナギの稚魚が、捕食した魚のエラから脱出している様子を撮影できたのです。

イメージ:赤い丸のエラからウナギは逃げていた
「食べられた後からでも生き抜くことができる」という魚では初めての発見をした瞬間でした。
長谷川悠波さん
実験では、54匹中、50%を超える28匹が脱出に成功しました。

抜け出すのにかかった時間は速いものでは6秒、最も時間がかかったもので2分10秒だったということです。

また、脱出したウナギの稚魚は、尾びれの側から出てくるということです。

長谷川さんによりますと、ウナギの稚魚がエラから逃げようとすると、捕食魚も逃すまいとするような動きをし、さらに粘ったウナギの稚魚が抜け出すのだそうです。


長崎大学 河端雄毅 准教授
「とげみたいなものを持って捕食者が吐き出してしまうことは発見されているのですが、自分から能動的に動いて脱出するという行動は非常に珍しい」
ウナギの細長い形と表面の「ぬめり」の意味もあるのかもしれないとしていました。

お尻から脱出!?

さらに調べると、「食べられても大丈夫」な生き物はほかにも。
撮影:神戸大学 杉浦真治 准教授
水田などに生息する体長5ミリほどの「マメガムシ」という小さな昆虫です。

水草などを食べて生息していて、天敵はカエルです。

実験として、マメガムシをトノサマガエルとともにケースに入れると、マメガムシはカエルに一瞬で食べられ、飲み込まれました。
撮影:神戸大学 杉浦真治 准教授
しかし、およそ2時間後。

カエルのお尻の穴(総排出腔)からマメガムシが生きて出てきたのです。

マメガムシは歩き出し、カエルは関心を失っているかのような様子でした。
赤い丸の部分 脱出したマメガムシ
神戸大学の研究では、15匹中、90%以上の14匹が脱出に成功しました。

一般的にカエルは、食べてから排せつするまで平均およそ50時間かかるということですが、

マメガムシの場合には、脱出までに要する時間は、平均でおよそ1時間30分。

最も早かったのは6分という驚異的な記録もあったということです。
マメガムシ脱出のイメージ(神戸大学 杉浦真治准教授の資料を元に作成)
マメガムシはカエルの消化管の中を何らかの方法で刺激して排出を促しながら、消化管の中を駆け抜けていたのです。
発見した神戸大学 杉浦真治准教授
「これはおもしろいと思い、興奮しました。
お尻から積極的に生きて出てくる例は初めてのものだと思っています」
「万事休す」と考えがちな食べられた後でも、まだ生き残る方法を駆使する生物の生存戦略は、人間が思いもつかないような深遠な生物の進化を感じさせるものでした。

今回、ウナギの稚魚の脱出を発見した長崎大学の大学院生の長谷川さんは、就職するか悩んだ末に「まだまだ、わからないことを研究したい」と研究者の道を歩むことを決めたそうです。

次は何を発見するのか、楽しみです。

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    長崎放送局

    小島萌衣

    平成27年入局。初任地・沖縄局で基地問題や沖縄戦について取材したのち、佐世保支局を経て現在は長崎局で原爆・平和関連の取材を担当。

    沖縄時代から動物好きを主張して行政担当の合間にイリオモテヤマネコやハブ、クラゲなどを取材。

    長崎にいる間にツシマヤマネコを取材したい。ただ、動物好きを名乗りながら昆虫は不得意です。ごめんなさい。

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    科学文化部記者

    藤岡信介

    2008年入局。広島県出身。青森局と福井局を経て、2017年から科学文化部に。これまでに原子力規制委員会や電力事業者を担当し、原発の再稼働や廃炉を取材。幼少から父の厳格な教えのもと、そこそこ美味しい“広島風”お好み焼きを作れます。

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