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「ドライブ・マイ・カー」濱口監督 アカデミー賞ノミネート会見で心境語る

2022.02.09 :

アメリカ映画界で最高の栄誉とされるアカデミー賞の候補作品が8日に発表され、国際長編映画賞、脚色賞、監督賞、作品賞の4部門に「ドライブ・マイ・カー」がノミネートされました。

 

このうち、脚色賞と作品賞の候補に日本の映画がなるのは初めてです。

これを受けて、きょう濱口竜介監督がオンラインで会見を開きました。

快挙に喜びながらも、淡々と客観的に自身が置かれた状況について語る濱口監督。

 

会見の要旨をお伝えします。

率直に言って驚き

今回の会見は、濱口監督らしく、出演者やスタッフの貢献をたたえるところから始まりました。
濱口竜介監督
率直に言って大変驚いています。どうしてこういうことが起きたのかは本当に分からないというのが正直なところですが、まずは村上春樹さんの物語の力、そしてそれを体現した俳優さんたちの力、支えたスタッフ、プロデューサーたちの力だと思っています。
濱口監督にとって、アカデミー賞は「夢の舞台」だったといいます。
(濱口監督)
ハリウッドの中心部で行われるセレモニーなので、子どものころから、とても華やかな場所だと感じていました。ノミネートが決まってからも、この夢のような世界と自分がつながっているということが、なかなか信じられませんでした。いろんな映画祭に出ましたが、アカデミー賞の場合は、集まっている面々が、とても“濃い”という印象があります。その舞台と自分たちの映画、日本映画が具体的につながっている。それも国際長編映画賞という外国映画のために用意された部門ではなくて、作品賞、監督賞、脚色賞という部門でノミネートされたというのが、すごいことだなと思います。すごい歴史の中に自分がいるんだなと感じています。

作品賞ノミネートの快挙

日本の映画がアカデミー賞の作品賞にノミネートされるのは、「ドライブ・マイ・カー」が初めて。今回のノミネート作品の中では唯一、英語以外の映画でした。
濱口監督はこの状況について、アカデミー賞に変化が起きているのではないかと冷静に指摘します。
(濱口監督)
作品を選ぶ側が、ふだん見るような映画だけではなくて、何か別の種類の映画にも興味を示していることが、こういう結果につながっていると思います。変化の恩恵というか、そういうものを受けているという感覚があります。おそらく『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞をとったときから、特にアジア映画に対する見方が変わってきていると感じます。おもしろい映画がアジアにもあるんだとアメリカの観客たちが思い始めている。今回の作品が、それまでの映画よりすぐれているかは分かりません。あくまで歴史の中で、選ぶ側の感覚が変わってきているということが、ノミネートのひとつの理由としてはあるかなと思います。
英語以外の映画は、多くの場合、字幕をつけて鑑賞されることになります。
それでも作品が評価されたのは、俳優たちの演技のすばらしさに、ことばを超えて伝わるものがあったからだといいます。
(濱口監督)
字幕を通して映画を見ることが、観客にとってどういう体験になるかは正直に言って分かりません。ただ、字幕を通じてわれわれもたくさん外国の映画を見ているわけで、その中でもちろん捉えきれていない母国語の言語のニュアンスはあると思うんですけれど、それで自分たちの感動が格下げされるとしたら悲しいことだなと思うんです。おそらく、英語の字幕で見ている人たちにとっても、この映画は字幕だから何かが失われるということではなくて、すごく直接的に感じるものがあったのではないかと思う。それはやっぱり、役者の声だと思います。日本語として分からなくても、声に何か感情が宿っていることは、直接的に分かると思うんです。そういう声を聞いたときに、観客としても体が緊張してくるというのは、万国共通のことではないだろうかと思っています。本当にすばらしい演技をしてくれた役者たちの姿、そして声がきちんと通じた結果なのではないだろうかと思っています。
主演を務めた西島秀俊さん
(濱口監督)
村上春樹さんの世界というのは、ちょっと現実から浮いているようなところがある。それを現実的な生々しいものとして表現する俳優たちの負担は限りなく大変だったと思うんです。ずっとカメラの後ろで、俳優の演技を見ながら驚いていました。その感覚が、そのまま世界中の観客に届いているんだなと思っています。あのとき撮影現場で感じていた演技のすばらしさ、すばらしいと感じていた自分たちの感覚は、間違っていなかったんだと実感しています。

作品を語る

村上春樹さんの短編小説「ドライブ・マイ・カー」を原作とした今回の映画。
濱口監督は、改めて作品についても語りました。
村上春樹さんが特に長編小説で書かれているような、何かを失って、それはもう戻ってこないけれども、その状況から自分の人生を組み立て直そうとする物語。その物語の普遍性というものを、この映画にも強く込めたいとすごく思っていました。そのことが受け入れられる結果になったのではないかと思います。アメリカでのコロナ禍は、おそらく大災害ですよね。それまで続くと思っていた人生が急に失われてしまうという体験を多くの人がしたと思います。自分自身がそうだったという人だけではなくて、その空気の中でこの映画を見るということが、なにか特別な共感を呼んだのかもしれない。
この映画で達成できたことは何か。そう尋ねられると、こんなふうに答えました。
(濱口監督)
すばらしい役者たちの演技を収めることができたということに尽きると思っています。どの役者さんにとっても、本当に大事なタイミングでこの役と出会っているんだなという感覚があり、この人にとって今この役を演じることがとても大事なことなんだなと思いながら撮影することができたんです。役と役者の出会いに恵まれたということもあって、本当にかけがえのない演技がありました。もう二度と繰り返すことができないような。同じようなすばらしいことが起きるとしても、少なくともそれは全く違う形だと思うような、1回きりの演技を収められたような気がしています。自分にとっては、もう1回、こんなことができるのかなと思うようなレベルのことではあったと思います。

3月の授賞式に向けて

アカデミー賞の授賞式は、3月27日に開催されます。
濱口監督は、授賞式への思いも語りました。
スティーブン・スピルバーグさんとか、ウィル・スミスさんとか、デンゼル・ワシントンさんとか、自分が映画を見始めたころから仕事をされている人がいる場に自分が行くことになると思うので、本当にその場にいられることを単純に楽しみたい。それに尽きると思います。賞というのはなりゆきでしかないので、授賞式の場に行って、この仕事は自分たちにとって、とても大きな成果になったと喜びたいと思っています。

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科学文化部記者

加川直央

学生時代はバンドに明け暮れ、就職活動で見事に全敗。

あまりに世間知らずだったことに愕然として逆方向に針が振れ、ギターをペンに持ち替えて記者を目指す。

Webメディアやデータジャーナリズムの台頭を目の当たりにする中、動画の可能性を感じて2015年にNHK入局。

初任地の京都では、漫画やアニメの原画、レトロゲームの保存と継承の問題について取材。ファミコンの開発責任者だったレジェンド、上村雅之さんにインタビューしたことが良き思い出。

科学文化部では、主に映画とITを担当。これまでに濱口竜介監督の演出論や、クリエイターを支援する”NFT”の特集などを制作。

ものづくりする人が楽しく暮らせる社会を目指して取材中。

メディアの未来と文化全般に関心があり、好きなものはSF小説とお笑い芸人のラジオとTwitterの炎上ウォッチ。

隙あらばゲームをしています。現在の推しバンドは家主。

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記事の内容は作成当時のものです

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