STORY

バイオハザードシリーズ
開発トップが語る人気の秘密と日本ゲーム業界への危機感

2021.12.15 :

世界で200以上の国と地域で遊ばれているという、人気ホラーゲームシリーズ「バイオハザード」。

 

1996年に発売された初代の作品から25周年。ことし5月に発売された最新作「バイオハザード ヴィレッジ」は、世界最大級のゲームの祭典で最優秀賞を含む4部門を受賞するなど、高く評価されています。

同シリーズの初期から関わってきたエグゼクティブ・プロデューサーを務める竹内潤さんに、なぜこの作品が世界中で愛され続けるのか、進化を続けるゲーム業界は今後どこへ進んでいくのかについて、思いを聞きました。

時代や世代を超えた“怖い”を追求

「ホラーゲーム」というジャンルを一躍人気にした「バイオハザード」シリーズ。
独特な操作性や難易度の高さも話題を呼んだ「バイオハザード」
これまでに、シリーズの累計販売本数は1億2,000万本にものぼります。
さらにハリウッドでは映画化もされて、大ヒットを記録しました。

世界中にあまたのゲームが存在する中、なぜ人気を絶やすことなくシリーズを25年も続けてこられたのか?
その理由を、竹内さんに尋ねました。
「バイオハザード」シリーズ エグゼクティブ・プロデューサー 竹内潤さん
いくつか要因はあると思います。
ひとつめは、バイオハザードシリーズが全体として、初代からストーリーがつながっていることです。さらに親子がどちらも遊んだことがあるという連続性が、1つの大きな特徴だと思います。
ふたつめは、ゲームの中核をなしている「恐怖」に関しては、人間みな共通の感情ですので、時代に左右されない。いつの時代でも、ホラーを楽しみたい、ちょっと非現実的なものを怖がりながらみんなでワイワイ楽しみたい、という思いはあると思います。
この2点が、バイオハザードをシリーズとして牽引してくれている大きな要因だと思います。(竹内さん)

最新作は八つ墓村から!?

シリーズを重ねるごとに、当初の「ゾンビと戦いながら生き残る」という設定やゲーム性も、時代や流行にあわせて大きく変化を続けてきました。

シリーズ作品にはつきものの「マンネリ化」を避けようと、毎回、新たな怖さを追求するためにさまざまなアイデアを取り込んでいるといいます。
最新作「バイオハザード ヴィレッジ」
一体、人間は何を怖がるのかというのは、ホラー映画を見たり、漫画を読んだり、さらには落語を聞いたりと、古今東西ありとあらゆる怖いものをスタッフ全員で毎回学習しています。そのうえで、「今回はこの組み合わせかな」と、飽きないように工夫を凝らしています。「バイオハザード ヴィレッジ」の「ヴィレッジ」は村という意味ですが、実はスタートの着想は、日本の「八つ墓村」なんです。八つ墓村を海外テイストにしたら面白いんじゃない?というところから始まりました。

“月に触れるほどのリアル”を

シリーズの特徴のひとつは、圧倒的な恐怖を生み出す映像のリアリティーです。

2017年に発売された「バイオハザード7」は、さらにリアルな映像を追求しようと「ゲームエンジン」と呼ばれるゲーム開発専用のソフトを自社で用意して制作しました。

いずれ登場する高性能な次世代のゲーム機にも対応できるよう、先を見越して新しい技術を盛り込んだといいます。
ゲームエンジンで画面を制作する様子
ゲームエンジンは撮影スタジオのようなものをイメージするとわかりやすいのですが、カメラと照明があり、舞台装置をゲームの中で作っていくようなプログラムです。これがあることで、グラフィックスに関して非常に高精度なもの、リアリティーのあるものが作りやすい環境になりました。最新作では「リアルタイム レイトレース」という機能を実装しています。照明の光の拡散や反射をシミュレーションして背景などに反映させる機能で、例えば光が水面にあたって揺らめく様子をリアルに表現できるようになりました。
弊社のゲームエンジンは「REエンジン」といいます。「RE」というのは、海外のことわざの「reach for the moon」の頭文字から来ています。「月に触れるようなこと」、「実現不可能なこと」という意味があり、いままで僕らが出来なかったことを、このエンジンで出来るようになっていこうという思いが込められています。
より没入感のある映像表現が可能になったことで、「バイオハザード7」からは、プレーヤーが操作しているキャラクターの目に見えている範囲が画面に映る「一人称視点」を新たに取り入れました。

VR=「バーチャルリアリティー」にも対応し、新たなゲーム体験を提供しようとしています。
「バイオハザード7」の一人称視点では、より臨場感が増した

バイオハザードは“しょうゆ味”

ただ、映像のリアリティーを追求する理由はそれだけではありません。
そこには、いまや20兆円を超える世界のゲームコンテンツ市場で作品を売り込むための戦略があるといいます。
バイオハザードシリーズは200以上の国と地域で遊ばれていますが、それぞれの国で文化や風土、好みが異なります。イラストやアニメのような表現だと、どうしても絵柄によって受け入れられる地域もあれば、好まない地域も出てきます。ゲームもCGを使って架空のものをつくっていくので、そのデザインは地域性をどうしても帯びてしまう。一方で、実写の作品にも当然地域性はあるのですが、実際に存在する人やものが出てくるので、受け入れやすいと思っています。そこで、どこの国でもなるべく違和感がなく遊んでもらうためには、ゲームの映像をなるべく実写に近づけていく、リアリティーを高めていくことが必要だと考えています。そのためにも、映像のクオリティーを高めることを重要視しています。
一方で、世界で遊んでもらえるゲームを作るために、日本ならではの考え方も大事にしているといいます。
バイオハザードは、いろんな国の人から「自分の国が作ったゲームみたいだ」と言われるんです。そのうえで、「ただ、遊んでいくと、やっぱりうちの国のゲームじゃない」と言われます。あるクリエーターからは、「このゲームはやっぱり“しょうゆ味”だ」と言われました。それが特徴であり、ほかのメーカーがまねできないことだと。
「バイオハザード ヴィレッジ」の着想は八つ墓村とお話ししましたが、日本人の発想はなんて豊かなのだろうと思うことが多いです。日本のメーカーが海外で戦っていくために、海外の趣向に合わせてつくるのもいい。しかし、日本だからこそ生まれる発想、テイストが必ずあると思います。それを潰さずに隠さずに、ちゃんと芯に据えてゲーム作りをしていくことが実は大事なのではないかと思っています。

ヒントはいつも“若い世代”に

「バイオハザード」シリーズを開発しているカプコンは、ことしで創業38年。
ほかにも多くの人気シリーズを生み出し、変化がめまぐるしいゲーム業界を牽引し続けてきました。

常に新しいものを生み出す秘けつは、新鮮な発想をもった若手に仕事を積極的に任せることだといいます。
初代のバイオハザードを作ったとき、私は入社4年目、プログラマーたちは入社1年目や2年目ばかりでした。この会社はよく、若造たちがつくるゲームを支えてくれたと思っています(笑)
同じ人間がずっとゲームを作っていると、やっぱりどこかで同じ匂いになってきてしまうと思います。SNSやスマホが当たり前の「デジタルネイティブ世代」では、彼らの中でコミュニティーのありようや、コミュニケーションの取り方が、大きく変化してきていると感じています。彼らが面白いと感じるコンテンツが僕らの世代と違うのであれば、彼らが生み出すエンターテイメントも変わらなければおかしいはず。新しいお客さんたちには、新しい人たちの感性が必要になってくる。若い人にもチャンスを与えないと、マーケットのチャンスも一緒に失っているのだと考えなきゃいけない。
いま制作中の新タイトル「プラグマタ」も、20代が中心のチームで開発しています。
「プラグマタ」
社内で開発部の部長も務める竹内さんは、若い世代にゲームの可能性を押し広げて欲しいと考えています。
ゲームにも専門学校があり、勉強なのでしかたないのですが、ゲームのロジックを文法として学んでから会社に入って来る人がいます。ただ、それは過去の人たちが考えた文法であって、まだまだゲームには可能性がある。自分たちが学んできたことを含めてすべて疑って、自分たちはこういうゲームを作りたいんだということを突き詰めて欲しい。「バイオハザード」は、長いこと作っている僕たちが作った方が上手いんです。でも、僕らがやっていないことは、若い世代の方が上手いかもしれない。そこにチャレンジして欲しい。

日本のゲーム業界に抱く危機感

ゲーム開発は、日本のお家芸というイメージを持たれている人も多いかもしれません。

しかし竹内さんは、市場の世界的な拡大とともに開発競争が過熱し、相対的に日本のゲームの開発力が低下していると指摘します。
私が入社してゲームを作り始めた頃は、日本が、世界のゲームの発信源でした。その頃から、海外のクリエーターたちは日本のゲームに追いつけ追い越せと努力してきた。彼らの日々の努力の積み重ねが、海外でのゲーム市場の拡大につながっていったのだと思います。一方で日本のマーケットでは、モバイルゲームの台頭に伴って、国内をターゲットにゲームを作るメーカーが増えたと感じます。大きな成功をおさめている会社も多いので、需要にはしっかり応えていると思いますが、一方で海外のゲームメーカーたちと肩を並べて戦おうという人たちが減ってきたという実感があります。ゲームエンジンを自社で開発しているメーカーも、日本ではもう少なくなってきました。
日本のゲームメーカーがスマートフォン向けのモバイルゲームに注力しすぎると、これまでに高めてきた技術力を失うことになるのではないかという危機感があるといいます。
スマートフォンのゲーム開発の技術的要件は、決して高くはありません。
ビジネスとして、すべての投資をモバイルゲームに振り向けるのもひとつの戦略だと思いますが、反面、失われた技術を再び獲得するのは非常に苦しい。1度ゲーム開発の技術を失ってしまうと、なかなか今の最先端の技術にはついていけなくなります。投資もかさむので、次の参入の障壁になってしまうのは間違いない。そうなると、今後革新的なスマートフォンが生まれて、ゲーム機と変わらない性能を得たときに、日本のメーカーの多くが太刀打ちできないことにならないかと、非常に危機感を持っています。
一方で、この会社ではスマートフォン向けゲームの開発にも、力を入れています。
専用のゲーム機やパソコン、スマートフォンと、ゲームで遊ぶ環境が多様化する中で、それぞれのニーズに合わせたゲームを開発することが、プレーヤーの期待に応えることだと考えています。
スマートフォンゲームを長く続けていくノウハウは他人から聞いてまねして出来るものではないので、自分たちで運営する中で身につけることが非常に重要だと思います。また、将来的にスマートフォン向けのゲームで革新的なアイデアが出てくることにも期待しています。
専用のゲーム機や高性能のパソコンで遊ぶゲームでは、なるべく広い国や地域の人に遊んでもらえる作品づくりを重視していますが、スマートフォンはよりパーソナルな端末なので、それぞれの好みにあわせたゲーム作りが大事だと思います。こうした違いにあわせた作品を適切に提供していくことが、今後のゲーム業界に求められていると思います。
竹内さんのインタビューや、ゲーム開発の最前線を取材したニュースを、12月12日(日)の「おはよう日本」で放送しました。

放送から1週間は、こちらのNHKプラスからご覧頂けます。

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科学文化部記者

加川直央

学生時代はバンドに明け暮れ、就職活動で見事に全敗。

あまりに世間知らずだったことに愕然として逆方向に針が振れ、ギターをペンに持ち替えて記者を目指す。

Webメディアやデータジャーナリズムの台頭を目の当たりにする中、動画の可能性を感じて2015年にNHK入局。

初任地の京都では、漫画やアニメの原画、レトロゲームの保存と継承の問題について取材。ファミコンの開発責任者だったレジェンド、上村雅之さんにインタビューしたことが良き思い出。

科学文化部では、主に映画とITを担当。これまでに濱口竜介監督の演出論や、クリエイターを支援する”NFT”の特集などを制作。

ものづくりする人が楽しく暮らせる社会を目指して取材中。

メディアの未来と文化全般に関心があり、好きなものはSF小説とお笑い芸人のラジオとTwitterの炎上ウォッチ。

隙あらばゲームをしています。現在の推しバンドは家主。

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おはよう日本 ディレクター

田中志穂

2018年からおはよう日本ディレクター。eスポーツやペットと高齢者の話題などを手がける。RPGゲームが得意。少年漫画が好き。

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記事の内容は作成当時のものです

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