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ゴルゴ13 さいとう・たかを 終わらないメッセージ

2021.10.12 :

9月24日、「ゴルゴ13」で知られる劇画家さいとう・たかをさんが亡くなりました。

「ゴルゴ13」は累計発行部数3億部、単行本は200巻を超え、ことし7月にギネス世界記録を打ち立てたばかりでした。

複雑な国際情勢をリアルに描き、大人の鑑賞に堪える「劇画」のジャンルを切り拓いたさいとうさん。

さいとうさんが確立したのが、漫画に革命をもたらしたと言われる「分業制作システム」です。これによって、半世紀以上連載が続き、さいとうさんが、亡くなったあとも、ゴルゴ13は、連載が続けられます。

さいとうさんがゴルゴ13に託した“終わらない”メッセージとは、何だったのか。迫りました。

 

ゴルゴ13は終わらない

さいとうさんが亡くなっておよそ2週間後、さいとう・プロダクションを訪ねました。

スタッフ1人1人の机には、さいとうさんの写真が飾られ、優しいまなざしに見守られるように、新たな作品づくりに励んでいました。

ゴルゴ13は、さいとうさんが亡くなっても、連載が続けられています。
(「ゴルゴ13」担当編集者 夏目毅さん)
「先生は、『ゴルゴ13』というのは自分の作品でもあるけれども、半分以上は読者のものなんだとおっしゃっていましたし、その上でやはりゴルゴが続いていってほしいという言葉をいただいていました。先生は何があっても、何が起きても連載を継続してこられましたから、これもやっぱり止めるわけにはいかない。その思いで先生の遺志を継ごうという判断になりました」

漫画の革命・分業制

巨大地震で荒廃した世界を生き抜く少年の姿を描いた「サバイバル」、時代劇「鬼平犯科帳」など、人間とは何か、正義とは何かといったテーマを描き続けてきた、さいとう・たかをさん。

キャリアをスタートさせて1950年代から60年代にかけては、漫画の神様と言われた手塚治虫さんをはじめ、SFの石ノ森章太郎さんやギャグの赤塚不二夫さんなど、ストーリーから作画まで一貫してこなす「天才」たちが活躍した時代でした。
さいとうさんは、そうした「天才たち」に対抗するため、自身のプロダクションを立ち上げ、のちに漫画の革命と言われた独自の分業制を確立しました。

人物や背景、乗り物など、絵の専門性にあわせて担当者を配置、脚本も外部の専門家に依頼するというものです。
「かつて漫画と言われているものは、一人で全部書かないと、というかたちがあったんです。ところが今やすごい作品の質が向上してますし、それぞれ得意の分野で、例えば絵を描くものは絵だけ、ドラマ作るものはドラマ作るだけ、そういうより優れた才能を持ち寄ればもっと優れたもんができるだろうと。いう考え方です」
(さいとう・たかをさん/1984年のNHK「マルチ・スコープ」インタビューより)

リアリティーにこだわる意味

©さいとう・たかを/さいとう・プロダクション/リイド社
その分業制のもとで生み出された代表作が「ゴルゴ13」です。

主人公は、年齢、国籍、その他、経歴は一切不明。

誰からのどんな依頼も一度請け負えば必ず完遂する「デューク東郷」と呼ばれる男。

強調された眉毛、特徴的なセリフなど、唯一無二のキャラクターが多くのファンを魅了してきました。
作品では、東西冷戦やテロ、中国やアメリカの情勢など、多岐にわたる現実の国際問題がリアルに描かれています。

骨格となる脚本は、外部の専門家らに依頼。

キャリア官僚や分子生物学の研究者、銀行マンや広告マンなど、多様な分野の、のべ50人以上のスペシャリストが協力しています。
「ゴルゴ13」元担当編集者 西村直純さん
「ゴルゴ13」の担当を14年にわたって務めたビックコミック編集部の西村直純さんは、外部の脚本家に依頼する意義を次のように話します。
「先生は、さいとう・プロダクションの中の誰かが脚本を担当すると、どうしても自分(さいとうさん)の顔色をうかがうようになる。つまり描きやすいものとか、先生が好きなテーマにどうしても偏りがちになるんじゃないかと。その方が採用されやすいから、当然そうなる。だから、自分は関与せず、編集部の方で脚本家と脚本を仕上げるというほうがいいという判断されたと聞いています」

専門知識の裏付けを持つ外部の脚本家が書いたストーリーは、作品に圧倒的なリアリティーを与えました。
「主人公がすごくフィクショナルな存在、ああいう人間がいたら、1週間と生きてはいられないだろうというような非常にリスキーな世界に生きてる一匹狼なので、その分、周りはがちがちにリアリティーがないと、読者がしらけてしまうと。だから、やっぱりリアリティーが必要なんだとおっしゃっていました」

外務省 江端康行参事官
現実社会をリアルに写しとった作品は、政治家や外交官らも魅了しています。

その1人、外務省でかつて在外邦人のテロ対策を担当した江端康行参事官に話を聞くことができました。

イラクに駐在した経験もある江端さんが特にリアリティーを感じたと話すのは、日本の石油会社の社員が、武装勢力と対峙しながらイラクで油田採掘に奮闘するストーリーでした。

石油会社の社員が、民間の警備会社に警備を依頼して採掘調査に向かう場面。

何気ない移動の一コマに、警備会社が実際に現地で使っている車の装備や、車列の組み方などが細かく書き込まれています。
「どうやって安全を確保するかも含めて描かれているんです。警備の体制とか、そういうのも含めて、よくリサーチされていると非常に感心しました。もしかしたら、どなたかが、現場を知っている方がスタッフが加わっているのかなという感じもしました」

リアリズムが生んだ社会への警鐘

徹底したリアリズムに裏打ちされたストーリーは、我々が直面する時代への警鐘ともなって読み手に迫ってきます。

大手銀行が合併するという金融再編をテーマにした作品。

原発で放射能漏れの事故が発生して水素爆発の危機が迫るという物語。

さらに、新型コロナウイルスを想起させるかのような作品も描いていました。

デューク東郷が乗り合わせた豪華クルーズ船の中で、密輸されていたサルから感染力の高いウイルスが蔓延。

しかし、市中での感染を防ぐために政府は乗客を船内で隔離します。密閉された船内で人々が感染症の脅威にさらされるストーリーです。
脚本家 よこみぞ邦彦さん
この回を書き上げたのが、よこみぞ邦彦さん。

さいとう・プロダクションでスタッフとして働いた後、さいとうさんの薦めで脚本家に転身し、これまでに70本以上の脚本を手がけてきました。

さいとうさんから教わったのは、取材を尽くすことの大切さです。

その分野の第一人者を直接訪ねて徹底的に取材をすることで、現実に起こりうる脅威を描くことができたといいます。
「できるだけ時間が許す限り細部を詰めて裏をとり、そこに壮大なゴルゴを絡めた話をつくる、そこはさいとう先生からもずいぶん厳しく教えられた。第一人者の人から取材させてもらうと、自分の思っている以上の話が、常に出てくるんです。世間で何一つメディアにも出ていない、それを全部投げ込むことで、壮大なドラマができる」
確かな事実のディテールを積み重ねていくことが、時代を先取りする警告へとつながったのです。
「ゴルゴのリアリズムは、多くの読者もそれを求めているんです。カットの絵1枚、話の内容のすべて。どんな題材であれ、どのように時代が変わっても、バックボーンは非常にしっかりしていることであればゴルゴは時代を突き抜けていける」

時代に左右されない主人公の姿

徹底的なリアリズムで、時代の変化を描き続けてきた「ゴルゴ13」。

唯一変わらないのが、何ものにも左右されない主人公、デューク東郷の生き様です。
©さいとう・たかを/さいとう・プロダクション/リイド社
たとえば、アメリカ軍のロボット兵器の実験台として、捕虜のテロリストが殺戮される場面……。

“なぜ、テロリストを選んだ?”

「テロリストは正義を脅かす存在だからだ」と主張する軍の幹部に対して…。

“その正義とやらはお前たちだけの正義じゃないのか?”
さいとうさんは生前、デューク東郷が体現し続ける信念を、こう明かしていました。

「その時代その時代で変わりますもん常識なんてのはね。善悪もそうです。その時代のそういう常識とか観念みたいなものに囚われなくて済んだことが、長続きした一つの理由でしょうね」

原点は戦争体験

「ぶれない主人公」を生み出した背景には、さいとうさん自身の戦争体験がありました。

さいとうさんは、8歳の時に終戦を迎えます。

それから50年以上経って、初めて描いた「終戦の日」という絵手紙。

戦争が終わり、小学校の壁に掲げられていた戦意高揚の「米英撃滅」という看板が外されているのを目の当たりにした瞬間を描いていました。
幼少期のさいとうさん
「それまで善だと信じて疑わなかったものを悪だと言い、悪だと信じて疑わなかったものを善だと言う」

「善・悪・常識・価値観 世の中すべてのものがひっくり返っていくのを 感じる事になった」
今回、さいとうさんとともに終戦を迎えた小中学校時代の同級生に話を聞くことができました。

一夜にして「善」と「悪」とが逆転した体験に、さいとうさんは大きな衝撃を受けていたといいます。
中学時代の担任 東郷麿智夫先生
その経験が影響して人間不信になり、反発ばかりしていたという学生時代のさいとうさん。

唯一、向き合ってくれたのが、中学校の担任の東郷という先生でした。

試験の時、さいとうさんが答案用紙を白紙で提出したところ、東郷先生から「白紙で提出するのは君の意志だから仕方ないが、君の責任のもとに提出するのだから名前だけは書きなさい」と言われ、先生のこの言葉には筋が通っていると妙に納得し、名前を書いて提出し直したといいます。

社会の約束事の大切さ、人間としての責任をさいとうさんが学んだエピソードです。
(同級生の井上貢さん)
「周囲の大人たちが距離を置いていく一方で、変わらずに接し続けてくれる東郷先生に憧れていた。尊敬していたという、それは態度とか、そういうのを見ると、(生徒に対して)絶対責任をもってやるというところがぶれないですね」
自身の体験を元に、さいとうさんが生み出したのが、時代に左右されない主人公。ぶれないその男を「デューク東郷」と名付けたのです。

描こうとした「人間の愚かさ」

作家 平良隆久さん
自らの戦争の体験を原点に「人間とは何か」を問い続けたさいとうさんの思いを脚本として表現したのが、25年にわたって「ゴルゴ13」の脚本を書いてきた作家、平良隆久さんです。

外交・軍事が専門で、アメリカの民間軍事会社がドローン兵器を開発し、アフリカの貧民街で殺人の実験をするストーリーを書きました。

この中で、はるか離れた場所から、ゲーム感覚でいとも簡単に人を殺す場面が描かれています。

“殺れ殺れっ!!狩り尽くせ!”

さいとうさんが特にこだわったのは、人間のおろかさが人間を追い詰めるということ。

人間が生み出したドローンは、街中を自由自在に飛び回り、ついにゴルゴまでも追い詰めます。

「先生は力を入れたと思うんですよ。これはゴルゴでもまずい、ヤバいと。どんどん追い詰められていきますよ、人間狩りと同じことをやっているわけですよ。この人間のバカさ加減を、人間を狩るのかと言っているんです。先生もよく『愚かなもんだ。何年やったら戦争は終わるんだ?』と言っていた。愚かだと。でも愚かさが積み重なってるのが僕たちですから。だから(連載を)やめるわけにはいかないんですよ」

漫画家 浦沢直樹さん
さいとうさんと親交を続けてきた漫画家の浦沢直樹さんは、さいとうさんが「ゴルゴ13」を描き続けた理由をこう分析します。
「ゴルゴがほとんど年を取らずに眺めてきたこの60年間、世界がよくなったかというと全然変わらない。相変わらずだからこそゴルゴが続いているんだと思う。これがどんどんよくなったら、ゴルゴの居場所はなくなる。だからゴルゴを描き続けなきゃいけないというのもまた、世界がはらんでいる問題だと思う」
人間とはいったい、何なのか。生前、さいとうさんは、自らの作品で問い続けてきた普遍のテーマについてこう語っていました。
「人間の正義とか悪とか言うのをね、ある意味で告発しているつもりなのよ。なぜかというと、人間というのは常に善とか悪を自分のご都合で考えるのね。自分に都合よければ善と呼ぶし、都合悪ければ悪と呼ぶのね。いつも同じテーマなの私は。それでものを見つめていればね、感覚が古くなったりね、すること無いと思うよ。だってそれは永遠のテーマじゃないかと思う、人間のね」
正義とは何か、人間とは何かを問い続けたさいとうさん。

人間は、いつまで愚かなままなのか。

ゴルゴ13は、これからも、そのことを私たちに問いかけます。


クローズアップ現代+「ゴルゴ13は終わらない さいとう・たかをが遺したもの」
10月12日(火)午後10時~
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科学文化部記者

富田良

記者を志望する時に持っていた「小さい声を届けたい」という思いが、いつしか「ほかの人が注目していないけれど発信すべき人物や話題を取り上げたい」という方向にシフトチェンジ。いろんな分野に関心を持って手を出し、ゼロから勉強する…という繰り返し。興味は尽きません。

前任地の長崎で経験した原爆・平和関連の取材は、ライフワークとして何らかの形で携わり続けていきたいと思っています。文化担当ですが休みはスポーツに時間を割いており、特に走ることが生きがいになりつつあります。マラソンや駅伝の企画を作ることがひそかな夢。

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