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震災の海はいま

原発事故 汚染された海の再生はいま

2021.10.29 :

震災前とは、大きく変わった東北の海。

福島県を中心に、海の環境となりわいに重大な影響を与えたのが原発事故だ。

事故で出た放射性セシウムのうち、7割以上は、海に沈着したと推定されている。

大量の放射性物質に海が汚染されるというこれまでに経験したことのない災害。

魚から国の基準を超える放射性物質が検出され、一時、漁業が行えなくなった。

それから10年。

福島では、汚染の実態について研究が進められた結果、海の再生のメカニズムが、次第に明らかになってきた。

出荷再開 福島の漁業

福島県相馬市の漁港を尋ねると、沿岸で取れた魚が次々と水揚げされていた。

福島では、この10年、安全が確認された魚種から、出荷を再開してきた。

今では、出荷できるようになった魚種は200種類に上る。
(漁師 松本浩一さん)
「当初の頃はな、本当に、こんなに高い数字が出たり、怖いなとは思ったんだけど、今、10年超えれば本当にだいぶ変わってきたので。誰が食べても大丈夫じゃないかなと思うので」
福島県は、この10年、魚の放射性物質の濃度を測る検査を続けてきた。
その数は、これまでに7万近くに及ぶ。
国の基準を超える放射性物質が検出された魚は、2011年は、40%近くに達していたが、今はほとんど見つかっていない。

海は汚染からどのように回復したのか。
10年にわたり、福島の海の汚染メカニズムを研究してきた、高田兵衛特任准教授。
現在、漁が行われている福島沖の海水は、ほぼ元に戻ったと考えている。
 
(高田特任准教授ON)。
「2011年は非常に高かった。しかし、2012年はスケールが変わるほど一気に濃度が下がった。すごいスピードでどんどん減少して、もう事故前の濃度レベルにほぼ近づいているというような状況だ」
この10年で、大きく希釈された、海の放射性物質。
原発から10キロメートル以内の、今も漁が行われていない海域などを除き、濃度はほぼ震災前の水準になっているという。

海底のセシウムは

では、海底はどうなっているのか。
近年の調査で海底の放射性物質の分布や影響についても明らかになってきた。

福島県が去年からおこなっている、水中ドローンを使った海底の調査では、原発から10数キロの地点で、海底の土を採取し、含まれている放射性物質の濃度を計測する。
 
採取した土のごく一部で、周辺のものより高い濃度のセシウムが確認された。
(高田特任准教授)
「高い濃度のセシウムは海の砂地に均一にわーっと広がっているわけではなくて、海流の影響だったり、粒子がたまりやすい場所、そういったものを反映しているんだとみている」

セシウムは食べても排出

しかし高田さんは、海底で残っているセシウムが、魚の体内に蓄積することはほとんどないと考えている。その理由は、セシウムの性質にあるという。

セシウムには、土の粒子の中に入り込む性質がある。一度入り込むと、土と一体化し、分離することはほとんどない。


(高田特任准教授)
「その土、粒子にくっついてるということになんですか。溶けているというイメージよりは、本当にかなりがっちり、ガチャッとハマっているようなイメージだ」
そのため魚は、餌を食べる際に、セシウムが入り込んだ土を摂取しても、消化せず数日で体外に排出すると考えられる。

高田さんは、実際に海底の土に含まれるセシウムが体内と同じ状態で土と分離するか繰り返し実験した。すると、ほとんどが土の粒子と結びついたままで、体内には吸収されない性質であることがわかった。
(高田特任准教授)
「直接、餌と一緒に食べてしまうということがあったとしても、数日ぐらいで消化されずに出て行ってしまうので、結局、セシウムが体外に出て行くというほうが可能性としては高いと思っています」

原発事故から10年。地道な研究の積み重ねによって、海が安全な状態に戻りつつあることが、確認されている。
(高田特任准教授)
「不安というものを解消していくには、理屈がわかると皆さん納得してくれると思う。10年間の研究の中で見えてきたものと今後の研究活動を研究だけでとどめるのではなく、社会へ、一般の人たちに安心を届けるような形でどんどん発信していきたい」
(情報をお寄せ下さい)
NHKでは、被災地の海について取材しています。被災地の海の生態系の回復や異変について、情報をお寄せ下さい。

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福島放送局ディレクター

立山遼

2017年に入局し、福島局に配属。漁業者をはじめ、放射能研究の現場など、福島の海を継続して取材。
海に通い続けているが、泳ぐのは苦手。

 

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