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コロナ禍の生きる力に “鬼滅”主人公の歌

2020.12.25 :

漫画や映画の記録的なヒットで社会現象にもなっている「鬼滅の刃」。中でも、テレビアニメの挿入歌「竃門炭治郎のうた」はファンの間で、“神曲(かみきょく)”とも言われています。鬼に家族を殺された悲しみを胸に、鬼になってしまった妹を人間に戻すための戦いの旅に出る主人公、竃門炭治郎(かまど・たんじろう)の過酷な宿命を象徴する歌として人気を集め、オリコンのデジタルシングルランキングで一時3位に入るヒットになりました。この曲の歌い手、中川奈美さんのインタビューから見えてきた、コロナ禍の今に響いた歌の意味や背景とは。

「どんなに苦しくても 前へ 前へ」

中川奈美さん
テレビアニメ「鬼滅の刃」の挿入歌「竃門炭治郎のうた」を歌うのは歌手で声優の中川奈美さんです。みかんの産地、愛媛県宇和島市に生まれ、小学生の頃から合唱に打ち込み、のどを鍛えてきました。上京後はゲーム音楽の挿入歌やナレーターとしても活動、鬼滅の刃では劇中のコーラスや多くの楽曲に参加するなど欠かせない存在です。

その中川さんが歌い、反響を呼んだのが、アニメシリーズ第19話の挿入歌、「竃門炭治郎のうた」です。
原作の漫画単行本は今月(12月)発売の23巻で完結
歌い出しは、重い歌詞です。
“目を閉じて 思い出す 過ぎ去りし あの頃の 戻れない 帰れない 広がった深い闇”
しかし、サビの歌詞には決意がこもります。
“どんなに苦しくても 前へ 前へ 進め 絶望断ち 失っても 失っても 生きていくしかない どんなにうちのめされても 守るものがある”
この歌が登場するのは、ひん死の炭治郎と妹の禰豆子が力を合わせて鬼を倒すシーン。力強い歌詞と透明感ある歌声が劇的な場面を際立たせます。

中川さんは歌の収録に臨んだときの気持ちをこう振り返ります。
「歌詞のほとんどは、炭治郎のことや炭治郎のせりふだと気づき、彼の背負っている運命の重さみたいなものをやっぱり軽んじないように歌わなければならないなと思った」
そのうえで、作品のヒットについては。
「新型コロナウイルスという時期で家でも見られる状況にあったことで、人の心に届いて『くじけそうな時に力になりました』という声を頂けたりしたのは、すごくすごくうれしかった」

歌詞につづられた“運命”

テレビアニメの続きを描いた劇場版はコロナ禍で大ヒット
物語の主人公、竃門炭治郎は、鬼に家族を殺された悲しみを胸に、鬼になってしまった妹を人間に戻すために戦いを続けます。その「運命の重さ」は、多くの人の生活が一変した今のコロナ禍に重なると中川さんはいいます。
「(友人に話を聞くと)『仕事がなくなってしまい、生きていけなくてどうしよう』という切実な声があがっていました。そしてSNS上では『竈門炭治郎のうたの歌詞が、今のコロナでつらい自分にすごくかぶって、だけど生きていって頑張らなきゃいけない』ということばも見つけました。アニメですが、本当に多くの方の心に響いて、温かいものになる。それでみんなが力を合わせて頑張ろうって思えるきっかけになれるのではないかとすごく思います」

西日本豪雨に思いを寄せて

人々が日常を失う過酷な運命。中川さんの記憶は2018年にさかのぼります。広島、岡山、愛媛などを中心に、大きな被害をもたらした西日本豪雨です。
当時、中川さんのふるさと、愛媛県宇和島市では土砂崩れなどで11人が死亡。その後、2人が災害関連死と認定されました。愛媛みかんで知られる特産のかんきつ畑が各地で崩れ、みかん農家を営む親戚夫婦の畑も被害を受けました。

東京在住の中川さんは、すぐにSNSで愛媛の被害を発信。さらに、仲間のアーティストに呼びかけ、都内でチャリティーのライブや朗読会を開催し、支援を訴えました。
地元、愛媛でもコンサートを開催。そして、幼稚園を慰問したときには、浸水被害でスピーカーや機材が壊れていると知り、持ち込んだスピーカーをそのまま寄付しました。
「1つの温かい炎があれば心の中が癒やされる方もいると思ったんです。実際に家を失い、ご家族の誰かがお亡くなりになったっていう方にとって、ほんの小さな光でもみんなで作るきっかけになれたらと思ったんです」(中川さん)

今改めて思う 歌う意味

被災地支援を経て、向き合ったコロナ禍の今。中川さんは、自分が歌う意味を改めて見いだしたといいます。
「お互いに本当に手を取り合い、負けない心で、本当に諦めないで、一緒に笑顔を作っていけたらいいなと思います。アートは形のないものでもあるので、役に立てているか分からないとか、こんな大変な時に歌なんかと考えられることもあると思うんですが、そうではない。『そうではないこと』を改めて思わせてくれた『鬼滅の刃』という作品に、本当に感謝しかない」
最後に、閉塞感が漂うコロナ禍の今、どんな思いで歌を届けていきたいか、うかがいました。
「私一人では何もできないですから、『鬼滅の刃』もそうですけれども、一人では何もできないことも、みんなが手を取り合えば表現につながっていきますし、お互いを思いやることもできると思うので、夢物語みたいですけど、私のできることをやっていきたい。一緒に笑顔を作ってほしい」
インタビューを通して、中川さんの豪雨の後の支援の経験が「竈門炭治郎のうた」を歌う際の血や肉や骨になっているのではないかと感じました。豪雨災害に向き合い、歌で何ができるのかを問い続けた中川さんの歌声が、「鬼滅の刃」のヒットとともに、コロナを乗り越える力になることを心から願いたいと思います。
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松山放送局アナウンサー

谷地健吾

秋田県鹿角市出身。座右の銘は「楽あれば苦あり」。趣味は、映画鑑賞など。災害、経済、事件、文化、新型コロナなど四国の喜怒哀楽に向き合う「四国らしんばん」キャスター4年目。

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記事の内容は作成当時のものです

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