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川久保玲さん コロナ禍で果たすファッションの役割とは

2020.10.30 :

この秋、パリや東京など世界中で開かれたファッションショー。これまでのランウェイで見せるショーに代わって、多くのブランドがオンラインで作品を発表するなど、新型コロナウイルスの影響で様変わりしました。未曽有の厄災の中で作品作りにあたった日本のデザイナーたちは、どう試行錯誤し、何に挑戦したのか。そして、作品にはどんな思いを込めたのか。世界のファッション界をリードしてきた日本のブランド「コム デ ギャルソン」のデザイナーの川久保玲さんが、今回特別に取材に応じてくれました。作品を通じてメッセージを届けてきた川久保さんが、コロナ禍の今、語ってくれた言葉とは。

コロナ禍で開かれたファッションショー

10月19日、都内のビルの一角でひっそりと開かれたファッションショー。

新型コロナウイルスの感染防止のため、会場に入れるのは招待された20人ほどの関係者のみ。

従来のファッションショーとは全く違う光景ながらも、会場には期待と緊張が入り交じった雰囲気が漂っていました。

ショーを主催したのは、日本を代表するファッションブランド「コム デ ギャルソン」。世界のファッション界をリードする存在として、およそ40年にわたって毎年パリコレクションで新作を発表してきましたが、ことしは新型コロナウイルスの影響で参加を断念。その代わりに東京で開いたのが今回のショーでした。
赤く照らされたライトの下、ノイズ音とともにランウェイにモデルたちが姿を現しました。

身にまとっていたのは、目のモチーフがランダムにプリントされたドレスや、透明な素材をベースに使った独特のかたちのドレス。

15分間のショーで発表された20点の新作に見られたのは、伝統的なスタイルやテクニックに、ディズニーやベアブリックといったキャラクターを組み合わせるなど、アンバランスとも言えるデザインでした。

ショーのあとに明らかにされた、今回の作品のテーマ、それは「不協和音」です。

注目を集め続けるデザイナー、川久保玲さん

拍手とともにショーが終わると、ステージ袖に1人の女性が姿を現しました。

作品のデザイナーであり、「コム デ ギャルソン」の社長を務める、川久保玲さん(78)です。

1969年にブランドを立ち上げ、1981年には世界で最も有名なファッションの祭典、パリコレクションに初めて参加。当時のファッション界ではタブーとされていた黒色を基調とし、穴があいてぼろぼろにも見える服を発表して世界を驚かせ、「黒の衝撃」と呼ばれました。

その後も、腰や肩にこぶのようなものがついたデザインのドレスなど、これまでの美の概念を超え、新たな価値観を提示する川久保さんのデザインは、その革新性が世界から高く評価されてきました。

「不協和音」をテーマに選んだ理由

常に新しいものを生み出してきた川久保さんが、コロナ禍の今、作品を通じて何を伝えようとしたのか。

テレビメディアの取材にほとんど応じることのなかった川久保さんに、今回、ショーの合間の10分間、取材に応じてもらうことができました。

Q. テーマに「不協和音」を選んだ理由は?
川久保さん
「シルエットなりデザインの方向としてはクラシックなんですね。シルクとか刺しゅう、レースとかきれいなものに対して、コミックやディズニーなど相反するものを材料としてぶつけることで、不協和音を生むことをねらいました。不協和音が生じる時は普通ネガティブに考えますが、今回はそれとは逆で、ぶつかった時にパワーやエネルギーが生まれる、それをテーマとしました」
川久保さんが語った“不協和音”で生み出すパワー。新型コロナウイルスの感染拡大で不安や混乱が広がる現代社会に投げかける強いメッセージがありました。
川久保さん
「問題提起というか、こういう状況の中で、萎縮したり何もしなかったり諦めたりするのではなくて、こういう時だからこそ新しいものづくりをしたいと思うし、見ていただきたいと思います。やはりクリエーションは大事だと思います。それが前へ一歩進むためのエネルギーになって、状況をいい方向にもっていけるんじゃないかと思います。ハングリー精神とよく言いますよね。今、厳しい立場におかれているのはハングリーなんですが、思うようにできないことを乗り越えることが、パワーや力を生むと思います」

世界をリードし続けるために

川久保さんはデザイナーとしてだけでなく、およそ1000人の従業員を抱えるブランドの社長として、経営面にも力を入れています。

各店舗のレイアウトや商品の配置などにも川久保さんの意見が反映されているといいます。

店舗を訪れた客に話を聞くと、誰もが、川久保さんの作品からさまざまな力を受け取っていると話しました。
30代男性
「ファッションの力を感じとれるというか、川久保さんのデザインってすごいなって心から思います」

50代女性
「私にとっては、よろいじゃないけど、着させてもらって自分が強くなる。仕事の時の戦闘服のような時もあった」

ファッション誌編集長
「このクリエーションをまとうことによって新しい自分になるというか、すべてのクリエーションの源みたいなものです」

仕事への原動力は

78歳になった川久保さん。新型コロナウイルスの感染拡大で外出の自粛が言われた中でも、1日も手を休めることなく、毎日、早朝から夜まで創作に取り組んでいます。


川久保さん
「自分の日々毎日を、新しいことを探すことで、それだけですね。何もできない。ただ、自分の毎日を一生懸命新しいことを探すことで結果につながるといいなと思っています。満足することはないです、だから前へ行くことになると思います」
新型コロナウイルスの影響で厳しい状況に置かれる人も多くいる中、前向きに生きるためにはどうすればいいのか聞くと・・・。
川久保さん
「自分自身で前を向くこと。それが結果、いいほうに向かうことになると思う。1人1人がそういう気持ちになればね。皆さんがそれぞれ希望を持てば、それが大きな希望になるんではないでしょうか」
どんな状況でも決して立ち止まらない、諦めてはいけない。妥協を許さず、常に前へ進み続けてきた川久保さんのメッセージです。
こちらの問いかけに真摯に応じてくれた川久保さんのひと言ひと言から、ものづくりへの強いこだわりと社会を鼓舞するエネルギーを感じました。
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科学文化部記者

富田良

平成25年入局。金沢局を経て平成28年から長崎局で勤務し、原爆を中心に戦争関連の課題や文化財をめぐる問題点などを取材。令和元年夏から科学文化部で文芸や学術などを担当

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記事の内容は作成当時のものです

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