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文化の灯を絶やさない 漫画家 ちばてつやさん

2020.06.16 :

「文化の灯を絶やさない」。今回は、ボクシング漫画「あしたのジョー」などの作品で知られる漫画家、ちばてつやさん。ブログで読者を勇気づけるイラストやコメントを発信し続けるかたわら、漫画家たちのツイッターでの「日替わり連載」に協力し、トップバッターを務めた。
社会全体が不安に覆われ、生活が変わる中で、漫画が果たす役割について話を聞いた。

漫画で描くコロナ禍

ちばてつやさんの作品「悪魂」
100人を超える漫画家たちが新型コロナウイルスをテーマに日替わりで短編漫画を執筆し、ツイッターやウェブサイトで連載する「MANGA Day to Day」。トップバッターを務めたのが、ちばてつやさんだ。この中で描いた作品「悪魂」は、どこに潜んでいるか分からず突然病気をもたらすウイルスを絵で表現しようと、ちばさんが試行錯誤する様子を描いた。
「コロナというのは得体が知れない。ふだんはどこにいるか分からず、ちょっと隙を見せるとすっと入ってくるような存在で、こういうの人間にもいるなと思った。それじゃあどんな顔になるだろうなと考えてみると、いろんなキャラクター私も書いてきましたけど、コロナの顔はなかなか思いつかなかったなあ」

連載のトップページ
思い悩んだ結果、ちばさんが描いたのは、疫病から人々を守るという言い伝えのある妖怪「アマビエ」。終息を願って全国各地で描かれるようになっている中、ちばさんも、その効果を信じているという。
「アマビエはちゃんと守ってくれていると思う。日本だけじゃなく世界中に昔からいろんなウイルスが次から次に、形や姿を変えてやってくるけれど、それに何度も何度も襲われながら、あとは飢饉とか地震とか津波とか、そういう災害を何度も何度も乗り越えながら生き残ってきたんだから、われわれ日本人は。ここに生き残っている人は、みんな運が強くて元気な人ばっかりなんですよ」

戦争体験をもとに

緊急事態宣言が出されて以降、不要不急の外出は自粛するよう求められ、私たちの生活は一変した。外に出ることができない日々が続く中で、ちばさんは終戦直後の記憶が呼び起こされたという。
6歳の時に旧満州で終戦を迎えたちばさんは、現地で日本人に対する暴行が激しくなる中、知り合いの中国人の家でかくまってもらった。日本への帰国はまさに命がけだった。
「引き揚げなんてことばは今の若い人たちは知らないと思うけれど、そういう時代があったんですよ。戦争の時代はね、たくさんの人が外国から帰ってきたり兵隊が外地から生き残って帰ってきたり、いろんな日本人がたくさん帰ってくる途中、赤痢だとかいろんなものがはやったんですよ。食べるものがなくて死んだ人もたくさんいるんですけど、そういう病気で死んだ人もたくさんいるんですよ。だけどたくさん生き残って、元気にいま戦後75年もたつ」

その後も災害や社会不安などを目の当たりにしてきたちばさんは、世界の今の状況について、次のように語る。
「漫画に描きましたが、人間が海や川を汚したり、森林をやたら伐採しちゃったり、いろんな毒のあるものを工場から流しちゃったり、人間が増えてからずいぶん地球のいろんなところを壊しているんですよね。地球だって一つの生命体で、やっぱり意思があると思うんでね。だから時々地球も人間に『お仕置き』をするんですね。
自然を大事に、そしてみんなお互い仲よく、日本人は昔から和をもって貴しとなすというんだから、けんかしないで、みんなで互いに話し合ってほしいと思います。コロナに怒られないようにね」

漫画家が果たす役割とは

「MANGA Day to Day」では、4月1日以降の世の中を、漫画家たちがそれぞれの視点で描いていく。生活が変わりゆく中での漫画の存在意義について、ちばさんはこう答えてくれた。

「大事な存在ですね。漫画は食べ物や水と違って、なかったとしても人間は生きていけるんだけど、心にゆとりがないとギスギスして本当に殺伐とした生活になってしまう。昔、アンパンマンを描いたやなせたかしさんが『漫画っていうのは戦争があるところでは絶対に読まれない、戦争がないところ、平和なところで漫画って読まれるんだよ』とおっしゃっていた。今はあちこちで争いが起きていますけど、そういうものが和んでくれるよう願いながら漫画を描いています」

いつ感染が再び拡大するかも分からない中、ちばさんはこれまでと変わらず、漫画を書くことで自身の役割を果たしたいと言う。
「ウイルスがこれからも形を変えて来ることもあるだろうし、地震が来たり洪水が起きたりすることもあるかもしれない。そういう困難を乗り越える時に漫画を読んだり小説を読んだり音楽を聴いたりしてほっとしてもらい、励まし合って生きていってほしい。そういうために役に立つんだったらうれしいなと思いますし、そのためにこれからも漫画を描きたいと思います」 
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科学文化部記者

富田良

平成25年入局。金沢局を経て平成28年から長崎局で勤務し、原爆を中心に戦争関連の課題や文化財をめぐる問題点などを取材。令和元年夏から科学文化部で文芸や学術などを担当

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記事の内容は作成当時のものです

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