COLUMN

文化の灯を絶やさない ライブを未来へ 亀田誠治さん

2020.06.19 :

「文化の灯を絶やさない」。今回は、スピッツや平井堅、GLAYなど、多くの人気アーティストの作品を手がける、音楽プロデューサー・ベーシストの亀田誠治さん。
音楽業界、とりわけライブの現場では深刻な影響が長期化し、亀田さんは自身のライブ活動が途絶えただけでなく、みずから実行委員長を務める「日比谷音楽祭」も中止に追い込まれた。
亀田さんは今、仕事を失った裏方スタッフへの支援を募るクラウドファンディングを始めている。「彼らスタッフがいなければ僕たちミュージシャンは音楽を奏でられない」。そう語る亀田さんに、ライブ業界の現状と支援に込めた思い、そして音楽の未来について思いを聞いた。

(科学文化部・河合哲朗)

窮地に立たされるライブ業界

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、特に大きな被害を受けているライブ業界。アーティストの生演奏を間近で楽しめるこうした場所は「3密」にあたるとして、いち早く自粛や休業要請の影響を受けてきた。
6月19日からは東京都などでも観客を入れた営業が可能になったが、現場は「晴れて営業再開」とはいかない実情がある。感染防止策として、「観客どうしの距離は2メートルから1メートル」、「出演者と観客までの距離は2メートル空ける」などの対策が求められ、店舗によってはふだんの1割程度しか観客が入れられず、仮に営業しても利益が出ない。影響の長期化が避けられない中、各地では経営難から閉店に追い込まれるライブハウスなども相次いでいる。
ライブハウス「下北沢GARDEN」500人収容フロアに入れられるのは60人
長年、音楽業界に身を置く亀田さんにとっても、この状況は全く想像できないことだったという。
「音楽業界の構造は近年大きく変わっていて、CDが売れなくなる中で、ライブに夢と希望を託して、音楽ビジネス全体がライブに大きな比重を置いてきました。すばらしいフェスがたくさん生まれましたが、まさかその動きが止まることを予測していた人は1人もいないと思います。僕たちアーティストは今まで、災害や困難が起こると『音楽の出番だ』と思って現地へ駆けつけ、音楽によって人々に勇気や元気を与えたかったし、駆けつけずにはいられないという気持ちを届けてきました。ただ今回の感染拡大に関しては、われわれも全く動きが取れず、本当にもどかしく歯がゆい状況です」
2019年「日比谷音楽祭」での亀田さん ©日比谷音楽祭PR事務局

スタッフ支援を「思いが広がるきっかけに」

亀田さんが実行委員長を務める「日比谷音楽祭」も、5月の開催予定が中止に追い込まれた。東京・日比谷公園を会場にした入場無料イベントで、「DREAMS COME TRUE」や作曲家の久石譲さんらの出演が決まっていた。中止を決定したあとすぐに浮かんだのが、ライブ文化を舞台裏で支えるスタッフの存在だったという。
「最初に考えたのは、音楽の息づかいを止めてはいけないということです。音楽という文化は、ステージに立つアーティストだけじゃなくて、ステージを作る制作スタッフ、舞台、音響、照明など本当に多くのプロフェッショナルの力で成り立っています。その仕事が止まることによって、それぞれが何十年と培ってきた匠の技や音楽への思いが途絶えてしまうことは、絶対あってはいけないと思いました」
亀田さんら実行委員会が始めたのが、スタッフへの直接的な補償を目的としたクラウドファンディングだ。中止によって仕事を失ったおよそ300人のスタッフへの支援金を募るもので、1人あたり1万円を補償することができる400万円を目標に始めたところ、それを上回る支援が寄せられ、目標を800万円に引き上げて6月22日まで呼びかけを続けている。
©日比谷音楽祭PR事務局
亀田さんは、こうしたスタッフ個人への補償は、音楽業界全体にとっても大切な支援になると考えている。
「重要なのは、この音楽祭に関わるスタッフはほかにもたくさんのアーティストの現場にも関わっていて、その人たちを救うことでもあるんです。プロのスタッフはそれぞれの腕と経験が買われて個人単位で仕事をしていて、例えば地方のライブハウスで仕事をしたスタッフが、翌日にはこの日比谷野外音楽堂の現場を手がけ、その次の週にはドームのコンサートをやるかもしれない。僕自身も、ロックバンドを見に行ったら、『あれ?この間見たアイドルグループのスタッフが音響やってるよ』なんていうことはしょっちゅうあります。今回のクラウドファンディングが、苦しいスタッフ個人への支援だけではなくて、音楽業界がこうしたスタッフによって成り立っていることを知ってもらい、音楽のことを末永くみんなで応援し、未来につなげていという思いが広がるきっかけにしたいです」
ステージを舞台裏で支える音響スタッフ ©日比谷音楽祭PR事務局

ライブ文化を未来へ

取材は公演が途絶えている日比谷野外音楽堂で行われた
音楽ライブの主催者などを取材すると、これまでどおりの環境でライブが行えるようになるには、1年、2年という時間がかかることも覚悟しているという声もある。
亀田さんは、ライブ文化の未来についてどう考えているのか。最後にその思いを聞いた。
「今回のコロナで、生のステージから届く音楽の力、実際にそこにアーティストが同じ空間にいるということが、いかに人の心を豊かにするかということを見つめ直すきっかけになりました。ただ、これから先は新たな制限のもとでライブの現場が動き始め、すべての会場やアーティスト、そしてお客さんにとっても、初めてづくしの体験になると思います。すでに多くのライブハウスではオンラインでの配信が実験的に行われていて、成果も上がってきています。ポジティブに考えれば、『このライブ東京でしかやらないの?うちの町にも来てくださいよ』というような場所に、積極的に音楽を届けることも可能になると思います。そして実際の会場では、聞く人に夢のような感覚を与える生のパフォーマンスが繰り広げられる。この両方が共存する時代がやってくるんじゃないでしょうか。
音楽は、人と人とをなだらかにつないでくれるものです。今は大変な時期ですが、僕は音楽の力を信じていて、これで音楽が途絶えてしまうことは絶対にないと思っています。このともし火を絶やすことなく、未来へつなげていきたいと思っています」
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科学文化部記者

河合哲朗

平成22年入局。前橋局・千葉局を経て、平成27年から科学文化部で文化取材を担当。文芸・文学史をはじめ、音楽や映画などのポップカルチャー、囲碁・将棋まで幅広く取材。

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