COLUMN

文化の灯を絶やさない 映画監督 行定勲さん

2020.06.04 :

「文化の灯を絶やさない」。新型コロナウイルスの感染拡大によって大きな影響が出ている文化の現場で、表現を諦めず、「コロナ後」を模索する人たちを紹介していきたい。
初回は、「GO」「世界の中心で、愛をさけぶ」「リバーズ・エッジ」など、数々のヒット作品を発表してきた映画監督の行定勲さん。緊急事態宣言が出されたあと、リモートで撮影、制作した映像作品を立て続けにインターネット上で発表した。
感染拡大の影響で、映画館の休館や新作の公開延期など、苦境に立たされている映画界。行定監督は表現を続けるために何を考え、コロナ後にはどんな作品を目指しているのか、リモート出演で話をうかがった。
(科学文化部・岩田宗太郎)

自粛中に共感できるような作品を

4月24日に突如インターネット上で公開された、「きょうのできごと a day in the home」。自粛生活を続ける中、リモートで飲み会をする若者たちの今を、行定監督がリアルに描き出した。
柄本佑さん、高良健吾さん、有村架純さんなど、第一線で活躍する俳優たちが出演していることもあってすぐに話題となり、再生回数は公開からおよそ1か月で25万回を超えている。
行定監督は、新型コロナウイルスの感染拡大により、4月と6月に予定していた新作映画の公開が延期に。また、出身地の熊本で毎年開催され、ディレクターとして深く関わってきた「くまもと復興映画祭」も延期となった。自身も業界全体も苦境に立たされる中、映画監督としてできることを模索していたと言う。
「私自身の映画の新作の公開が延期になったり、私がディレクターを務めている『くまもと復興映画祭』がこれも延期になったりして、やっぱりちょっと落ち込んでいたと思うんですよね。そのままでいるのは不健全だなというふうに思って、いま映画監督としてできることは何かというふうに思って、企画を立ち上げました。外出自粛を頑張っている人たちを楽しませるような、応援できるようなものができないかなと思っていたところ、よく皆さんがインターネットでリモート飲み会をしているということを聞いて、それを舞台にした作品なら、自粛している方たちが共感できるような面白い作品が作れるのではないかと思って制作しました」

俳優の自主性で作られる面白さ

行定監督は、5月17日には2作目となるリモート制作の作品「いまだったら言える気がする」を公開。中井貴一さん、二階堂ふみさんなどが出演している。ふだんとは違って、メークや照明、小道具選びなども俳優自身が行ったという。
「ふだん作っている映画とはやっぱり違って簡易的な方法だったんですけど、少人数で作って、スピード感がすごくあったんですね。企画立案から約2週間で公開できました。本来ならば、映画は撮影、照明、録音、美術と、そういうエキスパートが集まって作られるわけで、それぞれがこだわった形になるのが映画なんですけど、今回はリモートなので俳優自身がそれを全部担っているんですね。俳優の自主性で作られるというところも面白くて」

「映画文化が淘汰されてしまう」

感染拡大の影響で、映画館の休館が相次ぎ、撮影や製作、新作の公開も軒並み延期。映画界は今、危機的な状況に置かれている。日本映画製作者連盟によると、国内で上映された映画の4月の興行収入は、およそ6億8800万円。去年の同じ月と比べると96.3パーセント減少した。
行定監督の2つの作品は、いずれも話題のなかに「映画」が登場。「映画を忘れてほしくない」というメッセージが込められている。
「(作品は)不完全ではあるんだけども、映画をやってきたわれわれの底力を届けることで、皆さんに映画を忘れないでほしいという気持ちを感じていただければいいなと思って制作しました。世の中の方たちの多くが困窮しているのと同じように、映画界もまったく起動できない状態、かなり疲弊していると思うんですね。まずはじめに自粛を余儀なくされたのが映画館であって、特にミニシアターはかなり大変なことになっています。次におそらく配給、そしてわれわれの現場。フリーランスのスタッフが多いので、この数か月まったく収入がないと。生活が困窮している状態になっていて、やがてたぶん資金が集まらないとか、そういう影響が出てくると、映画自体作ることがものすごく慎重になってくるんですね。このまま続くと、スタッフは職を失って映画文化が淘汰されてしまうんじゃないかという危機感すら、すごく感じています」

文化の「ともし火」を絶やさない

「コロナ後」の新たな作品づくりについて、行定監督は、撮影時の「3密」を避けるなどの対策が必要になってくると指摘。その一例として、人がいない場所での撮影や、家族や恋人が直接会うことができない状況を題材にすることなどを挙げている。
「これから、きっとコロナの前に戻るというふうに考えたいところですけども、やっぱりどういう映画の作り方になるかというのは、まだすごく模索していかなければいけない状態かなと思いますね。映画自体が変わってしまうことはないと思うんですけども、今のこの状況に即した映画作りというのは、たぶん必要になってくるかなというふうには思っています」
最後に、今後どのようにして表現を続けていくか、その決意を聞いた。
「映画というのはやっぱりこういうすごく大変なときにこそ、すごく役立つ。文化というのは、すごくみんなの支えになっていくものだというふうに思います。この文化の『ともし火』みたいなものを絶やさないようにして踏ん張っていく。やはり映画は映画館で見て、そこで映画体験というものをしてもらいたいという思いで僕らは作っているので、またかつての映画がみなさんの心に届くように、製作していきたいなというふうに思っています」
ご意見・情報をお寄せください

科学文化部記者

岩田宗太郎

平成23年入局。宇都宮放送局を経て、平成28年から科学文化部で、文化全般を担当。主に歴史、文化財のほかアニメ、漫画などのサブカルチャーも取材。

岩田宗太郎記者の記事一覧へ

記事の内容は作成当時のものです

COLUMN一覧に戻る