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科学
2020.01.23
千葉県にある地層を国際的な基準に登録し、およそ77万年前から12万年前までの地質学上の時代を「チバニアン」と命名することを国際学会が決めました。申請チームの長年の活動には、地質学をもっと身近に感じてほしいという思いが込められていました。
地質学の専門家で作る国際学会の理事会は1月17日、千葉県市原市の養老川沿いにあるおよそ77万4000年前の地層を、地質学上の国際的な基準である「国際標準地」に登録することを決めました。
そして、77万4000年前から12万9000年前までの地質学上の時代を千葉県にちなんで「チバニアン」と名付けることが決まりました。
「チバニアン」は、「千葉時代」という意味で、この時代はこれまで「中期更新世(ちゅうき・こうしんせい)」と呼ばれてきたものです。この地層の前後には、地球の地磁気が逆転するという特殊な現象が起きた痕跡が残されている貴重な地層だとして、茨城大学や国立極地研究所の研究者などでつくる申請チームが活動を続けてきた結果でした。
地質学では、地球のおよそ46億年の歴史を117の時代に区分し、境界となる地層としてこれまで73の地層が「国際標準地」に登録されていました。その多くは、ヨーロッパや中国の地層で、日本の地層が登録されたのは今回が初めてです。
申請チームの6年以上にわたる活動は、地質学をもっと身近に感じてほしいというメンバーの思いで支えられてきました。
登録決定を受けて、申請チームは記者会見を開きました。リーダーを務めてきた茨城大学の岡田誠教授は率直なことばで地質学への思いを語りました。
「地質学はマイナーな学問なので、何とかしたいというのが申請チーム全員の思いです。地質学は明治時代に輸入されてそれを学んできた歴史があります。どこでつけられたかもわからない用語を暗記するだけの非常につまらない学問でした。『国際標準地』への登録は、日本のチームが日本で発見した地層を世界に発信し、皆さんに使ってもらうということにつながります。日本が世界の基準を決めることができることを地質学で初めて示せたと思っています。地質学を多くの人に知ってもらう大きなチャンスだと思っています」
そして、岡田教授はこれまでの取材の中で、地質学のおもしろさについて、こう語りました。
「地質学は過去の地球を調べるだけではなく、『未来の地球』がわかる非常におもしろい学問だ」
氷河期のサイクルを、地層を手がかりに詳しく調べていくと、地球規模の周期的な気候変動があることがわかり、大きな視点で気候変動を考え、地球環境の未来を予測していくこともできるようになるだろうとしています。
登録された地層には「国際標準地」としての印が今後、埋め込まれ、一般の人も見学できるように整備が進められています。
岡田教授は会見の中で、登録された地層を見に行く人に次のようにアドバイスをしています。
「地層を見に行っても実につまらないですよ。普通、地層は砂や小石も一緒に層状になり、地層だとわかりますが、ここは、泥しかたまっていない、『のっぺり』とした地層です。しかし、泥しかたまっていないことで、過去の地球の情報が連続的に復元できました。砂や小石も混じると過去の情報の復元が難しくなります。つまらない地層ほど実は多くのことを語っているのです。それを、聞き耳をたてるようにして『地層の声』を聞かなくてはなりません。皆さんもご覧になったらつまらない地層ほどおもしろいのだと思ってもらいたいです」
申請チームのメンバーは、多くの人たちが登録された地層を実際に見て、「チバニアン」を学ぶことで、地質学が「身近でおもしろい」と感じる人が増えることを期待しています。