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医療界は無関心?!”血液クレンジング”をめぐる議論

医療界は無関心?!”血液クレンジング”をめぐる議論

2019.11.10

先月、ツイッターの投稿がきっかけとなって、インターネット上で、ある“医療行為”をめぐって議論が巻き起こりました。

血液クレンジングなるものをおすすめされた

「血液クレンジング」。
ブロガーのはあちゅうさんや歌舞伎俳優の市川海老蔵さん、教育評論家の尾木直樹さんなど、過去に何人もの著名人が受けたと投稿をしていることにも注目が集まり、「効果を示す科学的な根拠がない」や「エセ医療」などと批判する投稿や検証記事などが次々と現れました。

ネット上では、いまも議論が続いていますが・・・。

「血液クレンジング」って?

そもそも「血液クレンジング」ってなんなのか?
いくつかのクリニックの説明を見てみると、実際に行われるのは次のような流れです。

①100ミリリットル前後の血液を静脈から取り出してボトルにためる。

②オゾンを血液に注入する。

③オゾンが注入された血液を再び体の中に戻す。

体の外で血液の中に、殺菌や漂白に使われる酸素の同素体「オゾン」を入れて体に戻すということだそうです。

それによって、「血行の改善」、「免疫の活性化」が起こるとして、とにかく多くの効能をうたっています。
ざっとこんな感じです。

▽全身や筋肉の疲れの改善
▽肩こり
▽頭痛
▽疲労
▽冷え性
▽関節リュウマチ
▽ねんざ
それに、
▽がん
▽血管にかかわる病気
▽アトピー性皮膚炎・・・。

黒ずんだ血液が赤くなった、というような写真も載せられていて、とにかくなんでも効きそうな感じを受けます。

「日本酸化療法医学会」のウェブサイトによると、全国160以上のクリニックなどで実施されているということです。

クリニックによって差がありますが、1回数万円。
保険は効かない「自由診療」で行われているため、全額自己負担です。

ネット上での批判

この「血液クレンジング」について、インターネット上で次々に疑問が呈されました。

「血液を体の外に出して、体内に戻すだけだけど、細菌やウイルスに感染するリスクは高いのでは?」

「血液が赤くなったのも、酸素を体じゅうに送り届けた後の静脈の血液は、やや黒くなっているもので、肺を通って酸素が供給されると赤くなる」といった意見も。

ほかにも、「たくさんの芸能人がこれを受けることをすすめているけれど、責任はないの?」という声が。

血液クレンジングをすすめていた著名人の中には、過去の投稿を削除したり、釈明したりする人も現れました。

血液クレンジングを行っている医師の反論

日本酸化療法医学会のホームページ

これは根拠のある“医療行為”なのか?

血液クレンジングを行っている医師に聞いてみました。
「日本酸化療法医学会」の理事長で、自身のクリニックでも「血液クレンジング」を行っている渡井健男医師は、

「年間に全国で7万回近く行われていて、これまで患者さんの安全にかかわるような事態は報告されていません」
「根拠がないという指摘も的外れで、この療法が開発されたドイツでは多くの論文が執筆されています。英訳が進んでいないだけです」
「医療事故が起きているのなら批判されるのもわかりますが、そんな事実はない。実態も調べずに批判する現状は “ネットリンチ”に近いようなものです」

「科学的根拠がない」という批判に強く反論しました。

専門医の意外な反応

ネットで話題になっている血液クレンジング。しかし、血液の治療の専門医からは目立った反応がありませんでした。
それではと、何人かの専門医に聞いてみると、意外な反応が寄せられました。

「かなり昔からあった療法」

「よく分からないのでなんともコメントできない」

「論評するにも値しない」

「そんなものにエビデンス(科学的根拠)はないよ」

「機器が汚染されていたら感染の危険もある」など。

すすめる人は誰もいませんが、ほとんどはまともに取り合ってくれませんでした。

法的には大丈夫?

法律や規制の対象にはならないのでしょうか?

「血液クレンジング」などの“医療行為”は、公的な保険が効く医療ではなく、医療行為を受ける人が全額自費で負担する「自由診療」です。「自由診療」は、国が安全性や効果を確認していないものの、医師の裁量のもとで行われています。

日本の医療制度のもとでは、医師には、治療の方法や必要性などについて、医師自身が判断する「裁量」が広く認められています。
科学的根拠がはっきりしない医療行為を行っても、多くの場合、患者側の同意があれば、「医師の裁量」の範囲内として認められ、規制の対象にはならないのです。

(※臓器売買につながるおそれもある臓器移植や、医療事故など高いリスクのある再生医療など、一部の医療行為は、国に届け出が必要な場合があるなど、法律で規制されているものもあります。)

血液クレンジングは”代替医療”

なんだかすっきりしないので、インターネットの健康情報の問題に詳しい、島根大学の大野智教授に話を聞いてみました。
話は明快でした。

島根大学 大野智教授

「“血液クレンジング”は代替医療の1つです」

科学的な根拠に基づいて行われている通常医療の領域外にある医療、「代替医療」だというのです。

そのうえで、世界中の専門家が論文を検証して科学的根拠があるか調べているサイト、「コクラン」について紹介してくれました。

コクランのホームページ

「コクラン」では、「血液クレンジング」そのものの評価は書かれていませんでした。

一方、オゾンを利用する「オゾン療法」については評価が書かれているものもありました。糖尿病患者が足を切断する原因となる潰瘍の治療に有効かどうか、検証した結果です。それによると、「情報は限定的で質も低く、足の潰瘍の治療に対するオゾン療法の有効性に関する結論を導くことはできなかった」ということでした。

「血液クレンジングを含めたオゾン療法は、長い間行われてきている医療ではありますが、治療の有効性を証明している論文は多くありません。多くの病気に効果があるのか、疑問が残ります」
「ただ、健康被害が出ない限りにおいては、すぐに問題があるとは必ずしも言えないと思います」

その一方で、大野教授は別の問題もあると指摘します。
がん患者などが科学的根拠がある標準治療を行わずに、こうした血液クレンジングなど、代替医療を受けている場合です。

「がんの患者が、血液クレンジングに効果があると思って受けている場合、患者が期待している効果と、効果のエビデンス(科学的な根拠)との間にギャップがあります。科学的な根拠に基づく情報を得られているのか、そこが問題です」

そうこうするうちに・・・

日本紅茶協会のツイート

取材をして、この記事を書こうと思っていた矢先、別のこともインターネット上で話題になりました。

こんどは「紅茶がインフルエンザに効く」という話。
紅茶製品の企業や輸入業者などで作る「日本紅茶協会」が、ツイッターの公式アカウントで「紅茶がインフルエンザ感染予防に役立つのをご存じでしょうか」というつぶやきとともに、紅茶に含まれるポリフェノールがインフルエンザウイルスの感染力を失わせたとする試験の結果を、ポスターで紹介した画像を投稿したのです。

この投稿に対して、「科学的根拠のない情報では」、「こんなことをしなくても紅茶好きな人は多いのに・・・」といった批判が数多く寄せられました。
研究を見ると、インフルエンザのウイルスを紅茶につけるとたしかに感染力は弱まるようですが、この研究を行った人たちも人の治験で感染を予防できるというデータはないとしています。

医療側の問題も・・・アングラ化の懸念

インターネット上で、こうした議論が次々に出てくるのはなぜ?

島根大学の大野智教授は、医療を提供する側の問題も指摘します。

根拠がないなどとして、代替医療を批判するだけでは、その療法を受けている患者が、医師などに相談しにくくなってしまうというのです。
実態がつかめなくなり、大きな問題が起こったときにも、表になりにくくなってしまうことを懸念しています。

「たとえば、がん患者さんやその家族が、高額な治療費を払ってでも、根拠のあいまいな代替療法をなぜ受けようとするのかを考えなければいけません。標準的な治療を受けた医療機関のケアは十分なのか、医師は科学的根拠に基づいた治療について、しっかりと患者さんやご家族に説明をしているのか、足りない部分はないのか。そうしたところも含めて、議論をしていく必要があると思います」

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