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科学
2019.11.18
シマウマならぬシマウシ?!
黒毛の牛をしま模様にしてみると、驚きの効果がありました。
愛知県長久手市にある愛知県農業総合試験場は、海外の研究者がまとめた「シマウマには虫があまり寄りつかない」という研究結果を牛でも応用できないか検証するため、京都大学と共同研究を行いました。
研究では、まず、黒毛の牛を次の3つの状態にしました。
▽通常の状態
▽黒い塗料でしま模様にした状態
▽白い塗料を塗って「シマウマ」のような白黒のしま模様にした状態
そして、それぞれ柵につないで30分間放置し、虫が寄りついた回数などを調べます。
30分後の時点で、牛の右半身に付着していたアブなどの血を吸う虫の数は、次の通りでした。
いずれも複数回の実験の平均で、
▽通常の状態の牛が129匹
▽黒い塗料を塗った牛が111匹、
▽白黒のしま模様の牛は55匹。
白黒のしま模様にした牛では、血を吸う虫の数が半分程度に減っていたということです。
また、牛が尾を振るなど、虫を追い払うような行動をとった回数も数えました。
こちらも30分あたりの平均で見てみると…。
▽通常の状態の牛が53回、
▽黒い塗料を塗った牛が54回、
そして、
▽白黒のしま模様の牛は39回だったということです。
確かに、減っています。
研究グループでは、今回の結果を受け、黒毛の牛をシマウマのようなしま模様にすることで、
▽虫を介した感染症を予防、
▽虫に血を吸われることによる牛のストレスを軽減などの
効果が期待できるとしています。
愛知県は、この成果が牛以外の家畜にも応用できる可能性があるとみて、しま模様を長期間残すための手法など、実用化に向けた研究を進める方針だということです。
今回の研究は、なぜ始まったのでしょうか…。
牛の研究が専門の、愛知県農業総合試験場の若手職員、兒嶋朋貴さんはつきあいのある飼育農家から「牛の血を吸う虫に悩まされている」と、たびたび相談を受けていました。
有効な対策はないかと考えていたところ、アメリカやハンガリーなどの研究者が、シマウマには、虫が寄りつきにくいという研究結果をまとめ、論文で発表していることを知りました。
そこで、兒嶋さんは、職場の同僚と話をして、試験場で飼育している牛の一部をしま模様にする実験を始めたということです。
兒嶋朋貴さんは、
「最初は、職場の上司や同僚に『冗談じゃないの』と言われてしまったが、
非常におもしろい結果が得られたと考えているし、うれしく思っている。
一般的には、薬剤を使って虫が発生しないような環境作りをする対策を行うが、
しま模様にする方法をあわせて上手に使えば、より効果が高まるのではないか。
今後はしま模様を維持できるような方法を模索するとともに、より簡単にしま模様を描ける方法を開発していきたい」と、実用化に向けた決意を示しました。
研究の際の1回の調査では、試験場で飼育している牛のうち3頭を牛舎の中の柵につなぎ、
▽通常の状態の牛、
▽黒い塗料でしま模様を描いた牛、
▽白い塗料でしま模様を描いた牛を同時に横に並べました。
そして、3頭を30分間放置しながら、試験場の職員が、尾を振るなど虫を追い払うような
行動をとった回数を数えました。
そして虫を追い払うような行動の回数を数え終わったあと、3頭の牛の右半身の写真を撮影し、その写真に写った牛の体に付着しているアブなどの虫の数を数えました。
試験場では、こうした調査を、3頭の牛で18回、別の3頭の牛で18回のあわせて36回行い、牛をしま模様にする効果を検証したということです。
しま模様を描く塗料は、放牧している牛に番号を描く時などに使うスプレーで、牛の体には害がないということです。
海外のシマウマの研究では、しまの太さが5センチ未満になっている場合に、付着する虫の数が 減ってくると報告されているそうで、今回の研究でもしま模様が5センチ未満の太さになるように心がけたということです。
突然、シマウマならぬ、しま模様の牛が現れて、周りにいるほかの牛たちが、びっくりしないか、どんな反応を示すのか、気になるところですが、試験場の兒嶋さんによりますと、「特に変わらない」とのこと。
しま模様は、牛たちにとっては意外となじんでいるのかも知れませんね。