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文化
2019.06.25
去年4月に亡くなったアニメーション界の巨匠、高畑勲さんの自宅から、作品に関するメモなどが大量に見つかりました。20代のころ書き留めた「竹取物語」に関するアイデアなどがあり、調査に当たった専門家は「苦闘と試行錯誤の歴史を見ることができる貴重な発見だ」と指摘しています。
高畑勲さんはテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」や映画「火垂るの墓」などの作品を手がけ、世界のアニメーション界に大きな影響を与えてきましたが、去年4月、82歳で亡くなりました。
その後、作品に関するメモなどが自宅から大量に見つかり、東京国立近代美術館などが調査を進めてきました。
「ぼくらのかぐや姫」と書かれたメモには、高畑さんが20代のころ、勤めていたアニメ制作会社で「竹取物語」に関する企画を提案するために書き留めたアイデアが残されています。
「絵巻物をよく研究して、その描法を生かすこと」「歌をふんだんに使って物語の筋をよどみなく流動させる」「各キヤラクタアは、簡略化してよいが抽象化のうちにも十分人間の姿を感じさせねばならない」といった文言が記され、高畑さんが新たな表現技法を模索していた様子がうかがえます。
昭和43年に公開され、高畑さんが初めて監督を務めた「太陽の王子ホルスの大冒険」に関しては、スタッフに劇中の人間関係を理解してもらうために、登場人物の関係性と心理状況を示した図なども見つかりました。
調査した東京国立近代美術館の鈴木勝雄主任研究員は「今回見つかった資料からは、日本のアニメーションを作り変えた人の苦闘と試行錯誤の歴史を見ることができる。最初期から、表現方法や作画スタイルを実験し続けたことがよくわかる貴重な発見だ」と指摘しています。
今回見つかったメモは、来月2日から東京国立近代美術館で開かれる「高畑勲展」で展示される予定です。
今回の調査では、作品づくりの「民主化」について記したメモも見つかりました。
「太陽の王子ホルスの大冒険」で初めて監督を務める際に書いた「作品参加作業上の民主化について」というメモの中で、高畑さんは、アニメーションの制作は分業で行われ、絵を描く動画や作画のスタッフに、企画や演出が「天下り式」に押しつけられていると指摘しています。
そのうえで「企画、脚本内容、演出、キヤラクターデザイン等、動画作画以前の段階への動画作画家の参加、すなわち動画作画家の意見、意志、絵柄等その段階でできるだけ反映させること」などと、作品づくりに参加する機会を均等にすることを打ち出しています。
調査を行った東京国立近代美術館の鈴木勝雄主任研究員によりますと、この作品では、参加したスタッフから実際にアイデアを募集して作品を作り上げていったということです。
この資料について、鈴木主任研究員は「優秀なスタッフのアイデアや創造性を引き出すのも演出家の役割だと考え、仲間を信頼して民主化のプロセスを立ち上げた。アニメーションという新しい表現ジャンルに集まった若者たちが、新しい表現領域を皆で作り上げていくという、まさに青年期の息遣いが伝わる貴重な資料だ」と話しました。