科学

“絶滅”の甲殻類 オオスナモグリか 干潟で発見

“絶滅”の甲殻類 オオスナモグリか 干潟で発見

2019.06.05

高知県と静岡県の干潟で見つかった生物を千葉県立中央博物館が分析したところ、化石でしか存在が知られていない甲殻類の「オオスナモグリ」である可能性が高いことが分かり、標本を公開することになりました。

「オオスナモグリ」は、固いハサミを持つ甲殻類で、関東の太平洋側から沖縄にかけての50万年から8万年ほど前の地層で化石が確認されているだけで、絶滅したと考えられてきました。

こうした中、3年前に高知県土佐市で、そしておととし静岡県沼津市の干潟で、それぞれ捕獲され、千葉県立中央博物館に持ち込まれた生物を駒井智幸主任上席研究員が分析したところ「オオスナモグリ」の可能性が高いことが分かったということです。

捕獲された生物は体長がおよそ10センチと、現在も一般的にみられる「二ホンスナモグリ」より1.5倍ほど大きく、ハサミの形の特徴などが「オオスナモグリ」の化石と一致したということです。

またDNAの配列も一般的な「二ホンスナモグリ」などとは異なっていることが確認されたということです。

駒井主任上席研究員は「化石でしか知られていなかった生物が生き残っていたとすれば驚きで、生息場所や生態の研究を進める必要がある」と話しています。

千葉県立中央博物館では6日からこの標本を一般に公開することにしています。

スナモグリ 日本の海辺では主に3種類

日本の海辺に生息するスナモグリの仲間は「二ホンスナモグリ」など主に3種類が知られています。

いずれも干潟などに穴を掘ってその中に潜り込んで生活し、ハサミの部分は固いものの、ほかの部分は白っぽく柔らかい体をしています。

一方「オオスナモグリ」は、50万年から8万年前の地層から化石として出土していて、現在生息しているスナモグリよりもハサミが大きいことなどからこの名前がつけられました。

すでに絶滅したと考えられていましたが、おととしの1月、熊本県天草市の海底の堆積物から「500年から400年ほど前のハサミの殻が見つかった」と日本古生物学会で報告され、現代でも生きている可能性があると考える研究者もいました。

今回「オオスナモグリ」の可能性が高いとみられている個体は、一般的な「二ホンスナモグリ」と比べるとひとまわり大きく、今後、生息域や生態の研究を進めていきたいとしています。

千葉県立中央博物館の駒井智幸主任上席研究員は「スナモグリの仲間は深い巣穴を掘るため、特殊な機材を使い、潮がひいて海底が現れるような場所で捕獲することがある。オオスナモグリの場合はさらに深く、発見しづらい環境で暮らしていた可能性があるのではないか」と話しています。

“発見”には研究者の連携が

「オオスナモグリ」とみられる生物の発見には、研究者たちの連携がありました。

最初に見つかったのは3年前の平成28年2月で、高知大学教育学部でスナモグリなどを研究している伊谷行准教授が高知県土佐市の干潟で生物観察の実習を行った際、当時の大学院生とともに潮がひいた場所に見慣れない巣穴があるのを見つけ、中にいた1匹を捕獲しました。

伊谷准教授はほかの研究の予定が立て込んでいたものの、この1匹を標本にして保管しました。

その翌年には静岡県沼津市の河口付近で、企業に在籍しながら甲殻類を研究している横岡博之さんが貝を採取しに来た際、海底にあいた巣穴を見つけ3匹のスナモグリを捕まえました。

新種ではないかと考えた横岡さんは、学会で顔見知りだった千葉県立中央博物館の駒井主任上席研究員に連絡し、駒井主任上席研究員は伊谷准教授とも連携していったんは新種と判断しました。

3人は海外の学術誌に論文を提出し、審査の結果を待っていたところ、審査を行ったハンガリーの化石研究者から「日本でよく似た化石が見つかっているので調べたほうがよい」と指摘を受け、改めて詳細に確認しました。

その結果、4匹の標本はオオスナモグリの可能性が高いことが分かったということです。

伊谷准教授は「偶然、捕獲した個体から思いもよらない結果が導き出されて驚いている。海外の審査のありがたさも感じている」と話しています。

横岡さんは「研究を進めるためにも生きた個体を見つけたい」と話しています。

標本 6日から公開へ

千葉県立中央博物館は「オオスナモグリ」の可能性が高い標本を、6日から一般に公開することにしました。

標本のほか、50万年から8万年ほど前の地層から出土したハサミの化石なども展示されます。

また今回の発見について解説したパネルや、捕獲の際に使われたものと同じ種類の道具も準備するということです。

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