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性同一性障害を「精神障害」の分類から除外へ WHO

性同一性障害を「精神障害」の分類から除外へ WHO

2019.05.26

スイスのジュネーブで開かれているWHO=世界保健機関の総会で、心と体の性が一致しない性同一性障害について、「精神障害」の分類から除外することで合意しました。性同一性障害の人たちがこれまで受けてきた差別が解消され、社会の理解へとつながるのか注目されます。

世界的な健康や医療などの課題について話し合うWHOの総会は25日、医療機関での診断や治療を必要とするけがや病気などの国際的なリスト「国際疾病分類」を29年ぶりに改訂することで合意しました。

この中で、心と体の性が一致しない「性同一性障害」について、これまでの「精神障害」の分類から除外し、その名称を「性別不合」に変更しました。

そのうえで、WHOは、障害と分類されなくても、当事者が望めば生殖能力をなくす手術などの医療行為を受ける権利は保障されるべきだとしています。

デンマークの代表は「精神障害の分類から除外したことは、あらゆる人たちが尊厳のある生活を送ることにつながる大きな一歩だ」と述べ、今回の変更を歓迎しました。

性同一性障害の人たちが、「障害」とされることによって受けてきた差別が解消され、社会の理解へとつながるのか注目されます。

WHO「社会に強いサイン」

「性同一性障害」を精神障害の分類から除外することで合意したことについて、WHOで「国際疾病分類」を担当するロバート・ヤコブ氏は「性同一性障害は精神的な病気でも身体的な病気でもないとわれわれが考えるようになることは、社会にとって強いサインになるだろう」と述べ、その意義を強調しました。

そして、「障害という項目から外すことによって、これからは『性別不合』と呼ばれる人たちがこれまで着せられてきた汚名を返上することにつながる」と述べ、今回の変更によって、これまで「性同一性障害」の人たちが受けてきた差別が解消されることに期待を示しました。

厚労省担当者「配慮進んだ」

会議に出席した厚生労働省の池田千絵子総括審議官は、「精神障害から除外されたということは、さまざまな配慮が進んできたということだと思う。各加盟国からは、新しい分類に、スムーズに、きっちりと移行したいという意見が多く出ていた」と話していました。

性同一性障害めぐる世界状況

心と体の性が一致しないトランスジェンダー、性同一性障害の人たちがみずから望む性で暮らせるよう、各国は、法律上、性別を変更したり、名前を変更したりといった制度を設けています。

なかでも、性別の変更については、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるかどうか各国で議論になっています。

アメリカでは、カリフォルニア州のように手術を受けなくても、性別を変更できる州もあれば、手術を受ければ変えられる州、それに、変更そのものを認めない州もあり、対応が分かれています。

ヨーロッパでは、ヨーロッパ人権裁判所がおととし、性別を変更するために生殖能力をなくす手術を義務づけることは、「人権侵害」だとする判断を出していて、手術を必要としない国が増えています。

生殖能力をなくす手術をめぐっては、WHO=世界保健機関も2014年、性別変更のために手術を受ける必要があるとすることに反対する声明を発表しています。

LGBTと障害の変遷

心と体の性が一致しないトランスジェンダー、性同一性障害について、WHOなどの医学界では、1950年代ごろから、同性愛と同じ種類の病気として扱ってきましたが、その後、1960年代には同性愛とは別の病気として、区別するようになりました。

そして、80年代に入ると、性同一性障害ということばが使われるようになり、1990年に行われた国際疾病分類の改訂で、この名称が正式に採用され障害として位置づけられることになりました。

これを機に日本でも、性同一性障害という名称が定着していきました。

性同一性障害は、精神障害として分類されてきましたが、2013年、アメリカ精神医学会は、「障害」ということばを使わない性別違和という名称に変更しました。

専門家によりますと、世界的に、性的マイノリティの人権の保護を求める声が高まっている状況から、性同一性障害の人を障害という枠組みから除外していこうという考え方が広まっているということです。

一方、同性愛に分類されるレズビアンやゲイについて、WHOは、1990年の国際疾病分類の改訂で精神障害の分類から除外し、差別的なイメージの払拭につながったとしています。

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