科学

東京23区で豪雨時の浸水予測を試験的に公開へ

東京23区で豪雨時の浸水予測を試験的に公開へ

2019.05.20

東京などの大都市で豪雨になると、急激に浸水が広がって命に危険が及ぶことがあります。その対策につなげようと、東京23区の浸水の深さをリアルタイムで予測して地図に表示するシステムが、来月にも試験的に公開されることになりました。

早稲田大学と東京大学などの研究グループは、東京23区の地図に浸水の予測をリアルタイムで表示する新たなシステムを開発しました。

システムでは、気象レーダーの解析などから雨の量を予想し、地上の道路や建物に加えて、河川や下水道のデータを使用することで、道路など場所ごとの浸水の深さを自動的に計算して予測します。

この予測は「80センチ以上は赤」「40センチから80センチはオレンジ」など、浸水の危険度に応じて、地図上に色分けして表示されます。

浸水予測は、その時点のリアルタイムのものだけでなく、30分先まで見ることができます。

これまで都市の浸水予測は、主に気象レーダーなど「上空」の雨雲の状況から推定していましたが、今回のシステムでは「地上」の詳しい浸水の状況を推定できるため、より細かい対策につなげられます。

このシステムは、来月にもインターネットで試験的に公開され、来年の東京オリンピック・パラリンピックまでに本格的な運用を行う予定で、スマートフォンでも見られるようにするということです。

システムを開発した早稲田大学理工学術院の関根正人教授は「東京で浸水が発生すると、都市の弱点の地下鉄などの地下空間や道路のアンダーパスに水が集まって、人の命に関わる被害の発生が心配される。リアルタイムの予測を活用して自分の身を守ってほしい」と話しています。

過去の大雨の例ではどう表示?

実際に大雨になった場合、システムの地図に浸水がどう表示されるのか。

去年8月27日、東京23区で1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降った例を見てみます。

激しい雨が降り始めると、東京23区では、10分から20分ほどで北西から南東にかけて道路が水色に変わり、浸水が始まったと推定されます。

新宿駅周辺を詳しく見ると、道路の低い部分を中心に、30分ほどで浸水が20センチから40センチの黄色や、40センチから80センチのオレンジに変わっていくのが分かります。

浸水の深さは時間を追って変わっていき、浸水が深くなった場所には、地下鉄が通っている新宿駅西口付近なども含まれています。

地図では、浸水する場所と浸水しない場所が細かな路地ごとに一目で分かり、避難行動などの参考にすることができます。

研究グループが、過去の大雨で、今回のシステムの予測と実際の浸水を検証したところ、浸水の深さの誤差は5センチ程度だったということです。

過去の東京の浸水被害

東京では、台風や豪雨の影響で、たびたび浸水による被害が発生しています。

平成11年8月には、1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降り、地下鉄の渋谷駅や溜池山王駅に大量の水が流れ込みました。

また、同じ年の7月には、東京 新宿区で、大雨で冠水した道路から住宅の地下室に水が流れ込み、中にいた1人が死亡しています。

平成16年10月の台風22号では、非常に激しい雨の影響で地下鉄の麻布十番駅でホームや線路が水につかりました。

平成17年9月には、前線の影響で1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降り、中野区や杉並区などで川が氾濫し、5000棟を超える住宅が浸水しました。

これ以外にも東京の都市部では、局地的に雨が強まることで道路が冠水したり、住宅の一部が浸水したりする被害が毎年のように起きています。

開発した関根教授「システム活用を」

東京の都市部は、河川や下水道に雨水を排水することで、地上の浸水を防ぐための対策が進められています。

大雨の際に川の水を一時的にためておく地下施設なども作られています。

しかし、建物が多く道路も舗装されて雨水がしみこみにくいうえ、都市部を流れる川は多くがコンクリートに覆われ、1時間に50ミリ程度以上の雨が降ると、排水が追いつかなくなることがあります。

周囲より低い土地には水が集まりやすく、特に危険なのは、地下街などの地下施設や線路や道路の下を通る「アンダーパス」です。

地上が浸水すると水が流れ込み続けるうえ、水がすぐにひかないため、命に危険が及ぶこともあります。

今回のシステムを開発した関根教授は、浸水の予測を確認することで、危険な場所からすぐに離れたり、近づかないようにしたりしてほしいとしています。

また、地下施設の管理者が、地下への入り口に水が流れ込むのを防ぐ「止水板」を設置したり、道路の管理者が通行止めをしたりする際などの対策に活用してほしいとしています。

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