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文化
2019.05.15
フランスの世界遺産、ノートルダム大聖堂の火災から1か月になります。政府は、国際コンペを行って5年以内の再建をめざしていますがその方針を巡って反発も強く、議論になっています。
フランス・パリにあるノートルダム大聖堂で先月15日に起きた大規模な火災では、高さ90メートル余りのせん塔や屋根の大半が焼け落ちる大きな被害が出ました。
火災の原因をめぐっては、当局が過失による出火の疑いでいまも捜査を続けています。
地元メディアは、現場で見つかったたばこの吸い殻との関係や、工事用のエレベーターの電気回路がショートした可能性を伝えていますが、はっきりしたことはわかっていません。
大聖堂は現在、むきだしになった天井に覆いがかけられ、壁面のステンドグラスも多くが取り外されて、崩壊を防ぐための補強工事が行われています。
フランス政府は大聖堂の5年以内の再建をめざし、せん塔部分などのデザインを国際コンペで募る方針を示しています。
これに対し、国内外の専門家が連名で苦言を呈する書簡を発表したほか、ユネスコの諮問機関「イコモス」の会長も世界遺産としての価値が損なわれかねないと懸念を示しています。
地元メディアが今月、およそ1000人を対象に行った調査では、元の姿を復元すべきだと答えた人は55%、新たなデザインを支持すると答えた人が44%と、世論も割れていて、再建の在り方をめぐって議論になっています。
ノートルダム大聖堂のせん塔の再建について、政府が国際コンペでアイデアを募る方針を打ち出したことから、フランスを中心に建築家やデザイナーが次々とデザインを発表しています。
このうち、パリの建築家アレクサンドル・シャサンさんが自身のツイッターで発表したのは、屋根の上にそびえる高さ100メートルの巨大なガラスの塔です。シャサンさんは「せん塔の再建は私にとって新たなものを生み出すということです。大聖堂の中に太陽の光が注ぐように、ガラスの塔にしました」と話しています。
パリの庭園デザイナー、クレモン・ウィルマンさんが提案したのは、屋上に木や草花を植えて、散策できる庭園にするというものです。
パリの風景を一望できるのも特徴でウィルマンさんは「虫や鳥も集まる場所になります。自然は人々をつなげるものだという、メッセージを込めました」と話していました。
自然を取り入れるデザインはほかにもあり、屋根をガラス張りにして、木や草花を育て、せん塔の内部には蜂の巣箱を置いて蜜を取るための養蜂を行うという案も出ています。
このほか、ブラジルの建築デザイナーが提案したのは屋根とせん塔全体をステンドグラスで覆うもので、夜には、鮮やかな色彩の大聖堂が暗闇に浮かび上がります。
マクロン政権は、国際コンペの開催時期や詳細について明らかにしていません。リエステール文化相は、国際コンペを行う一方で、国民の意見も聞き、元どおりの姿にするかどうかも含めて、最終的には大聖堂を所有する国が判断するとしています。
パリのソルボンヌ大学で文化財の保存について研究しているドミニク・プロ教授は「パリという街や社会で大聖堂がどう位置づけられるのか、その解釈も含めた提案は出ていないように思われる」と指摘しました。
プロ教授は、焼け落ちたせん塔は19世紀に増設されたものですが当時の建築家が中世の建築を研究し、その精神を受け継いで建設にあたったため大聖堂本体と違和感なくなじんでいたと、説明しました。
そのうえで、プロ教授は「派手な形を想像するばかりでは、歴史的な建築物の修復という特性を見失いかねない」として再建にあたっては、大聖堂や街との一体性も含めて、デザインを慎重に検討すべきだという考えを示しました。
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