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白血病新薬を保険適用 1回当たりの価格は約3350万円

白血病新薬を保険適用 1回当たりの価格は約3350万円

2019.05.15

ことし国に承認された、最新のがん免疫療法による白血病などの新薬について、中医協=中央社会保険医療協議会は、臨床試験で高い効果が報告されているなどとして、公的な医療保険を適用することを決めました。1回当たりの薬の価格はおよそ3350万円と、現在、国内で保険が適用されている薬で最も高くなります。

医療保険が適用されるのは、大手製薬会社ノバルティスファーマが申請していた白血病などの新薬「キムリア」です。

この新薬は、がん患者の体内からT細胞と呼ばれる免疫細胞を取り出し、がん細胞に攻撃する力を高める遺伝子を組み込んで体内に戻す「CAR-T細胞療法」に使うもので、一部の白血病などの治療に効果があるとして、ことし3月、国の承認を受けていました。

厚生労働大臣の諮問機関、中医協=中央社会保険医療協議会は15日、総会を開き、この新薬に公的な医療保険を適用するかどうか協議しました。

その結果、アメリカやヨーロッパなどではすでに承認され、臨床試験で高い効果が報告されているなどとして、今月22日から医療保険を適用することを決めました。

対象となる患者は、標準的な治療法の効果が期待できなくなった25歳以下の一部の白血病などの患者で、国内では、年間200人余りと見込まれます。

そして、中医協では、1回当たりの薬の価格を3349万円と決めました。

厚生労働省によりますと、現在、国内で保険が適用されている薬では最も高くなるということです。

患者が医療費として払う額には上限が設けられ、超えた部分は保険料と税金などで賄われるため、専門家などからは、高額な医薬品への保険適用が相次げば、医療保険財政に影響を与えかねないと懸念も出ています。

高額治療には支払いの限度額が

医療費は、公的な医療保険に加入していれば患者の窓口での負担は3割までとなりますが、高額な治療を受けた場合には、患者の負担が大きくなりすぎないように高額療養費制度によって限度額が決められています。

限度額は年齢や所得によって変わるため幅がありますが、1か月の医療費の支払いが、70歳未満で所得の低い人では3万5000円余りが上限とされ、所得が高い人でも一般的には数十万円に抑えられるようになっています。

残りの費用は保険料や税金などでまかなわれます。

高額医薬品は増える傾向に

免疫療法や再生医療、それに、遺伝子組み換え技術などを応用する「バイオ医薬品」の開発など、研究開発の進展を背景に、高額な医薬品は増える傾向にあります。

去年、ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授の研究をきっかけに開発された、がんの免疫治療薬、「オプジーボ」は、5年前に保険が適用された当時、およそ3500万円でした。

また、重い心不全の患者向けの再生医療製品で、筋肉の細胞を培養して、心臓に戻す治療法に使われる「ハートシート」は、4年前の保険適用時には、およそ1500万円でした。

さらに、同じく4年前に保険適用が認められたC型肝炎の治療薬の「ソバルディ」や「ハーボニー」は、1錠当たり6万円から8万円で、年間、500万円から670万円あまりに上りました。

対象患者増加で値下げの例も

対象となる患者数が拡大するなど、医薬品の普及によって価格が下げられる例もあります。がんの治療薬「オプジーボ」は当初、皮膚がんの治療薬として医療保険の適用が認められましたが、その後、肺がんなどの治療にも使えるようになり、対象となる患者が増えたことから、薬の価格は当初のおよそ3500万円から3分の1以下のおよそ960万円にまで下げられています。

一方、心不全の治療に用いられる医療製品「ハートシート」は、対象となる患者数が増えておらず、価格の大幅な引き下げは行われていません。

今回の「キムリア」については、現時点では対象となる患者の拡大は見通せていません。ただ、厚生労働省は医療保険財政への影響などを考慮し、今年度から従来の治療法と新薬を費用や効果などの面で比較し、価格を下げるべきか検討する新たな制度を導入しています。

厚生労働省は「キムリア」についても、この制度の対象として、値下げを検討していくとしています。

「がん免疫療法」で最新の薬

「キムリア」は「CAR-T細胞療法」と呼ばれる、「がん免疫療法」の中でも、最新のものです。

がん免疫療法は、去年、ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授の研究をきっかけに開発されたオプジーボなどの薬が知られています。

オプジーボは点滴で薬を体内に入れ、免疫の力を強めるものですが、CARーT細胞療法は免疫細胞を強化するために患者自身の細胞をいったん体の外に取り出して人工的な操作をするのが特徴です。

患者から取りだしたT細胞と呼ばれる免疫細胞に、がん細胞を認識しやすくする遺伝子を人工的に組み込むとともに攻撃力を強化し、体内に戻すことでがん細胞を攻撃させます。

今回、この治療法の対象となるのは急性リンパ性白血病のうち、25歳以下のB細胞性急性リンパ芽球性白血病と、悪性リンパ腫のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で、いずれもがんが進行したり再発したりして標準的な治療法による効果が期待できなくなるなどした患者です。

アメリカとヨーロッパなどでは、おととしから去年にかけて相次いで承認されていて、これまでに行われた臨床試験では一部の白血病で、がんが進行したり再発したりした患者の8割で、がん細胞が検出されなくなるなど高い効果が得られたとする報告があります。

CAR-T細胞療法をめぐっては血液のがんを中心に、ほかのがんにも効果がないか研究が進められていて、アメリカや中国など海外では100以上の臨床試験が行われています。

一方、免疫が過剰に働いて発熱や悪寒などの副作用が、臨床試験に参加した患者の6割から8割という高い頻度で起きたとするデータがあります。

また、患者一人一人の生きている細胞を扱うためコストのほか、多額の開発費などもかかっているとされ、アメリカでは価格がおよそ5000万円とされています。

専門家「医療費の使い方 負担のしかた 考える必要」

医療経済学が専門の東京大学の田倉智之特任教授は「工場で大量生産する従来の薬とは違い、最近は生きた細胞などを使って患者ごとに個別に薬を作るなど工程が複雑になってきていて、手間もかかるため価格が高くなる傾向にある。また、患者の少ない病気を対象にした薬を開発することが多くなっていて、製薬会社は生産量を増やして薬の価格を下げることもやりにくくなっている」などと医薬品が高額化している背景を説明しました。

そして今後こうした医薬品がさらに増えると医療財政は厳しくなっていくと見通しを示したうえで、「限りある医療費を有効に使うためには、医薬品の価格を引き下げる制度をうまく運用していく必要があるほか、かぜなど比較的軽い病気の患者負担の割合を増やし、がんや難病など重い病気の医療費にまわすなど、医療費の使い方や負担のしかたについても改めて考える必要がある」と指摘しました。

患者団体「期待は大きい」

全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「1回の投与で治癒が期待できる場合もある治療なので、期待は大きいです。今までの血液がんの抗がん剤とは全く違う種類の、革新的な薬であることは間違いないと思っています」と話しています。

最新のがん免疫療法「CAR-T細胞療法」が承認

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