科学と文化のいまがわかる
医療
2019.03.01
薬局に勤める薬剤師は、研修を受けるなどの要件を満たすと、患者ごとの薬の処方の状況を把握して管理する「かかりつけ薬剤師」になり、調剤報酬を加算して受けることができますが、この研修を受講したときに受け取るシールがインターネット上で売買されていることがNHKの取材で分かりました。厚生労働省は、研修制度の信頼性を揺るがしかねないとして、研修を行う団体に対策を求める通知を出しました。
インターネット上で出品されていたのは、国内では最も多く薬剤師向けの研修を行っているとされる日本薬剤師研修センターの研修を受講した際に、受け取ることができるシールです。
シールが一定の枚数に達すると認定薬剤師になることができ、さらに、勤務経験の要件などを満たすと、「かかりつけ薬剤師」になることができます。
「かかりつけ薬剤師」は、患者ごとの複数の処方箋を把握して、同じような作用の薬がないか管理することなどで、加算した調剤報酬を受けることができ、国は、患者が安心して薬を服用するために積極的に導入を進めています。
シールは、個人が商品を売買するサイトで、1枚1100円や、30枚余りで1万5000円などとして出品され、一部は売買が成立したことを示す表示もあり、日本薬剤師研修センターはシールが本物であることを確認したということです。
厚生労働省は、研修制度の信頼性を揺るがしかねないとして、研修を行う団体に、名簿による受講者の管理など対策を求める通知と、薬剤師で作る団体などには不適切な方法で認定を取得しないように所属する薬剤師に周知することを求める通知を出しました。
日本薬剤師研修センターの豊島聰理事長は「多くの薬剤師はきちんと研修を受けていると思っているだけに、大変憂慮すべき事態だ。今後、不正防止の対応を検討したい」と話しています。
また、シールの売買がされていたインターネットのサイトやアプリを運営している会社は、NHKの取材に対して、禁止されている出品だとして削除を進めたり、日本薬剤師研修センターと相談して、対応を協議したりしているとしています。
シールの出品は、ヤフーが運営するオークションサイトの「ヤフオク!」、楽天が運営するフリマアプリの「ラクマ」、それに、メルカリが運営するフリマアプリで確認されています。
これについてヤフーは「国民の健康に関わるもので、日本薬剤師研修センターと対応を協議している」としています。
楽天は「禁止されている出品に該当するため、削除を進めている」としています。
メルカリは「現状で出品されている商品はすべて削除し、今後もパトロールを強化して出品された際は随時、削除していきたい」としています。
「かかりつけ薬剤師」からはシールが売買されていることに怒りの声が聞かれました。
東京 港区の薬局では9人の薬剤師が勤務していて、業務の時間外にそれぞれが研修を受け、5人が「かかりつけ薬剤師」として業務を行っています。
薬局を経営している北村兼一さんは「シールの売買は、研修にかけるべき時間と労力をお金で買っていることになり、本来の趣旨である自己研さんができずに本末転倒だ。やめてほしいです」と話しています。
薬剤師は、薬の副作用や組み合わせによる影響など、最新の知識や情報を学ぶために研修制度が整えられています。
研修は複数の団体が行っていますが、薬剤師向けの研修を国内で最も多く行っているとされるのが日本薬剤師研修センターで、受講するとシールを受け取ることができます。
そして一定期間に定められたシールの枚数に達すると、新しい知識に基づき適切な薬の指導ができることを示す認定薬剤師になることができます。
さらに薬局での勤務経験が3年以上などの要件を満たすと、国が導入を進める「かかりつけ薬剤師」になることができます。
「かかりつけ薬剤師」は、患者ごとの複数の処方箋を一元的に管理して服用の方法を指導したり、同じような作用の薬が重複している場合などには医師に連絡して処方箋の変更を提案したりすることが求められます。
そして、加算した調剤報酬を受け取ることができ、3割負担の場合では、患者は1回当たり60円から100円程度負担が増え、国が負担する費用も増えますが、患者は安全に薬が服用できるようになり、薬のむだを省くことにもつながるとされています。
インターネット上には「1枚1100円にてお譲りします」といったコメントとともにシールが売られたり、「研修に行けない方」などと購入を勧めるようなコメントがあったりして、すでに売買が成立したと表示されているものもあります。