医療

最新のがん免疫治療「CARーT細胞療法」 国が承認へ

最新のがん免疫治療「CARーT細胞療法」 国が承認へ

2019.02.20

がん患者から取り出した免疫細胞を人工的に強化してがん細胞を攻撃する最新のがんの免疫療法、「CAR-T細胞療法」が、一部の白血病などの治療法として国に承認されることが決まりました。「CAR-T細胞療法」が承認されれば国内では初めてです。

国に承認されることが決まったのは、新しいがん免疫療法である「CAR-T細胞療法」の「キムリア」という治療法で、大手製薬会社ノバルティスファーマが申請していました。

この治療法は、がん患者の体内からT細胞と呼ばれる免疫細胞を取り出し、攻撃する力を高める遺伝子を組み込んで体内に戻すことでがん細胞を攻撃します。

対象となるのは、一部の急性リンパ性白血病など血液のがんの患者のうち、標準的な治療法では効果が期待できなくなるなどした場合で、国内では年間最大で250人ほどになると見込まれています。

「キムリア」を使った「CAR-T細胞療法」は、アメリカやヨーロッパではすでに承認されていて、これまでの臨床試験では一部の白血病の患者に治療を行い、その8割でがん細胞が検出されなくなるなど高い効果が報告されているということです。

一方で、患者1人の治療費は、アメリカではおよそ5000万円と高額になっていて、今後、日本でほかのがんに適応が広がるなどして治療を受ける患者が増えると、国の医療保険制度に影響を与えかねないと懸念されています。

厚生労働省は、今後、正式に承認したあと、価格を決める審議を行うことにしていて、治療が始まるのはその後になる見込みです。

「CARーT細胞療法」と課題

承認されることが決まった「CAR-T細胞療法」は、ヒトの体にもともと備わる免疫の力を応用してがんを治療する「がん免疫療法」の中でも、最新のものです。

がん免疫療法は、去年、ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授の研究をきっかけに開発されたオプジーボなどの薬が知られています。

オプジーボは点滴で薬を体内に入れ、免疫の力を強めるものですが、CARーT細胞療法は、免疫細胞を強化するために患者自身の細胞をいったん体の外に取り出して人工的な操作をするのが特徴です。

患者から取りだしたT細胞と呼ばれる免疫細胞に、がん細胞を認識しやすくする遺伝子を人工的に組み込むとともに攻撃力を強化し、体内に戻すことでがん細胞を攻撃させます。

今回、この治療法の対象となるのは、▽急性リンパ性白血病のうち、25歳以下のB細胞性急性リンパ芽球性白血病と、▽悪性リンパ腫のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で、いずれもがんが進行したり再発したりして、標準的な治療法による効果が期待できなくなるなどした患者です。

アメリカとヨーロッパでは、おととしから去年にかけて相次いで承認されていて、これまでに行われた臨床試験では一部の白血病で、がんが進行したり再発したりした患者の8割でがん細胞が検出されなくなるなど、高い効果が得られたとする報告があります。

CAR-T細胞療法をめぐっては、血液のがんを中心にさまざまながんに効果がないか研究が進められていて、アメリカや中国など海外では100以上の臨床試験が行われています。

一方、免疫が過剰に反応して発熱や悪寒などの症状がでる副作用が、臨床試験に参加した患者の6割から8割という高い頻度で起きたとするデータがあります。

また、患者一人ひとりの生きている細胞を扱うためコストがかかり、アメリカでは患者1人当たりの治療費はおよそ5000万円とされています。

日本でこの治療法の費用をいくらにするかは、今後、正式な承認の後に決まることになります。

日本では患者が医療費として払う額に上限が設けられていて、超えた部分は保険料と税金などで賄っているため、こうした高額な治療が相次ぐようになると、国の医療保険制度に影響を与えかねないと懸念されています。

「医療費の使い方や負担のしかたを検討していく必要」

医療のコストなど、医療経済学が専門の東京大学の田倉智之特任教授は「CAR-T細胞療法は原則1回の投与でよく、亡くなっていたかもしれない患者が救われて、長く生きてさまざまな社会貢献ができるのであれば、仮にアメリカと同程度の5000万円という価格で考えても高いとは言えないかもしれない」と指摘しました。

そのうえで、「対象となる国内の患者数が年間250人程度と今の見込みどおりであれば、新たに年間100億円から200億円くらいの費用がかかることになる。この範囲であれば大丈夫だが、今後、適用が拡大して対象患者が大幅に増えたり、他にも高額な医療技術が次々と承認されるような事態になると医療財政は厳しくなっていく。限りある医療費を有効に使うため、かぜなど比較的軽い病気の患者負担の割合を増やし、がんや難病などの医療費に回すという方法など、医療費の使い方や負担のしかたを検討していく必要がある」としています。

そして、「国の医療費を支える現役世代の人たちは、医療費がどのように使われているのか知り、費用に見合う医療が行われているのかといったことや、どのように負担すべきかについて関心を持ってほしい」と話していました。

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