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科学
2018.12.09
ノーベル賞の授賞式が近づいてきました。スウェーデンのストックホルムでは関連の行事が行われ、市内にあるノーベル博物館にはたくさんの人が詰めかけるなど盛り上がりを見せています。私たちはノーベル医学・生理賞の選考に関わるノーベル委員会のメンバーにインタビューをして、受賞者選考のある重要なことを聞くことができました。それは、ノーベル賞は「教授が受け取るべき」か、それとも「実際に実験をした人が受け取るべき」なのか。ノーベル委員会のメンバーは大切な考え方があることを明かしました。
私たちはストックホルム市内にあるカロリンスカ研究所のノーベルフォーラムという建物に向かいました。
そこで待っていてくれたのはカロリンスカ研究所教授のトーマス・ペールマンさんです。
ノーベル医学・生理学賞の選考を担当する委員会のメンバーです。
ことし10月1日に受賞者を発表した時に、「タスク・ホンジョ!」と、名前を読み上げた、まさにその人です。
本庶さんを選んだ理由などを聞いた後、長く気になっていたことを尋ねました。
それは、ノーベル賞は「教授が受け取るべき」なのか「実際に実験をした人が受け取るべき」なのか、という問題です。
教授は、研究ができる環境を整え、時にデータを解釈したりアイデアを出したりして研究の方向性を定め、研究室の運営をしています。
その研究室に所属する研究者は、研究データをだして考察し、アイデアもだしながらさらに実験を繰り返しています。
ノーベル賞は、1つの賞について受賞者は3人までと決められています。
ノーベル賞に選ばれるかどうかは、その後の研究者人生を左右しかねない大きなものです。
ペールマンさんはこの問いかけに対して、受賞対象となる業績をあげるのに不可欠だった人を対象にすると説明しました。
そして今回の本庶さんのケースを例に次のように説明しました。
本庶さんの場合、PD-1の発見から機能の解析、治療薬の開発まで、みずからが実験を行ったわけではありません。
しかし、研究室の責任者として20年以上にわたりPD-1の研究を一貫したコンセプトで推し進めてきたとして、「本庶教授の例を見れば、彼がPD-1の発見から治療薬につながるまでの過程で継続的で決定的な努力を続けてきたことがわかるでしょう。そのような研究者が大きな評価を受けるのは明らかです」と、本庶さんの尽力なしに成果は達成できなかっただろうとしています。
その一方で、過去には「実際に実験をした人」が受賞したケースがあると語りました。
「例えば、2009年の医学・生理学賞は、細胞の老化などにかかわる染色体の『テロメア』の発見で3人の研究者が選ばれています。そのうちの1人は発見当時は大学院の女子学生で、もう1人は彼女の研究室の責任者でした。私たちの調査によると、2人ともその発見に重要な役割を果たしていて、そのどちらが欠けても最終的な結果には結びつかなかったと思われます」と指摘しました。
つまり、「実際に実験をした人」が成果に不可欠な要素であれば、受賞に値すると判断することもあるということです。
ペールマンさんは委員会としての考え方を述べました。
「私たちはいつも、非常に慎重な調査を行い、革新的な発見をした研究者が誰かを特定します。実際に実験をしたかどうか、あるいは発見につながるアイデアを持っていたかどうかは重要ではありません。発見をしたのは誰か。その核心こそが重要なのです」
役割や立場にとらわれることなく、発見の核心部分を誰が担ったのかを徹底的に調べる。
ペールマンさんの話はノーベル賞の権威の源泉をかいま見せるものでした。
インタビューを終えて機材を片づけ、礼を述べると、彼は笑顔でこう言いました。
「また来年会いましょう」
さて、来年も日本人受賞者がでてまた取材にくることができるのか。
神のみぞ知る…いや、委員のみぞ知る、なのでした。
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