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ロシアへの制裁 各国比較すると(5月12日時点)

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。

プーチン大統領は、5月9日の戦勝記念日の式典で、軍事侵攻を重ねて正当化した一方、具体的な成果には触れませんでした。

戦闘は激しさを増し、長期化する可能性が高まっています。

日本はG7=主要7か国と協調路線をとり、日本時間5月9日には、ロシア産の石油の原則輸入禁止も表明するなど次々と制裁措置を打ち出しています。

各国や日本の制裁は複雑に入り組んでいます。

経済部の山元康司記者、整理して教えて。

ロシアへの経済制裁、どのようなものがあるのでしょうか。

山元康司記者

主なものは5つあります。

1 金融制裁
2 ロシアへの輸出規制
3 最恵国待遇の取り消し・撤回
4 ロシアからの輸入規制
5 オリガルヒの資産凍結

まず金融制裁ですが、効果は?

山元康司記者

金融制裁の効果は強力です。

以下、一覧にまとめました。

貿易などの送金でも使われる国際的な決済ネットワークSWIFTからの排除は、実質、世界経済からの退出を意味します。

ただ、天然ガスの多くをロシアに依存するEUは、最大手の銀行や政府系ガス会社のグループ銀行を対象から除外し、抜け穴があるとも言われています。

また、ロシア中央銀行の資産凍結は通貨安防衛の手段を縛りつけようとする手法です。

海外にあるドルやユーロを凍結してしまえば、ルーブル売りができなくなる、そういうねらいでした。

当初は効果が高く、ロシア中央銀行は政策金利を20%に引き上げたものの、一時、通貨ルーブルは侵攻前の半分(1ドル=160ルーブル付近)まで急落しました。

しかし、その後は侵攻前の水準にまで戻りつつあります。

その理由について、プーチン大統領が天然ガスの購入にルーブルでの支払いを義務づけたことで、ガス購入のためのルーブル需要が高まっていることなどが背景にあるといわれています。

また、日本はロシアが暗号資産を使って資産を移動させるなど、抜け穴として悪用されないよう規制を強化しました。

外国為替法の改正案を4月5日に国会に提出し、衆参両院で可決・成立。

5月10日に施行されました。

▽制裁の対象者が第三者に暗号資産を移転することを規制することや、
▽暗号資産の交換業者に対して金融機関と同様に顧客の送り先が制裁対象でないかどうかを事前に確認するよう義務づけられました。

輸出規制はどのようなものがあるのですか?

山元康司記者

各国からの輸出を規制してロシアの軍需産業などに打撃を与え軍事侵攻を早期に終わらせる圧力につなげたい考えです。

日本の輸出規制に含まれるのは、
▽トラックやトラクターに使われる高出力のディーゼルエンジン、
▽産業用機械の制御に関わる半導体、
▽半導体製造装置、
▽通信装置やセンサーなど57品目です。

もともと2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを併合したことに対する制裁措置として、工作機械や炭素繊維など230余りの品目は軍事用途のものを輸出禁止にする措置をとってきました。

これに民生用途も禁止とし、57品目を加えて全体で輸出禁止品目はおよそ300品目となります。

さらに、プーチン大統領に近いとされる「オリガルヒ」と呼ばれる富豪への圧力を高めるため、19品目の高額品の輸出を禁止しました。

▽600万円を超える乗用車、
▽20万円を超えるグランドピアノ、
▽4万円を超える真珠などの宝飾品、ウイスキー、腕時計などが対象です。

これに加え、政府は5月12日から、外国為替法に基づき、
▼ロシアの法人に対し新たに10%以上の株式を取得することや、
▼設備投資などを想定して新たに1年を超える期間の貸し付けを行うことなどを、国による許可制とすることでロシアへの投資を禁止しました。

また、ロシアの法人にはあたらない組合や団体などに対しても、日本からの金銭の支払いを禁止しました。

最恵国待遇の取り消しって何ですか?

山元康司記者

最恵国待遇とは聞き慣れないことばですが、WTO=世界貿易機関の協定の基本原則のひとつなんです。

関税などでいずれかの国に与える最も有利な待遇をほかのすべての加盟国にも与えなければならないというルールです。

加盟国みんなで自由貿易のメリットを享受しましょうという趣旨です。

それをロシアに対して取り消すというのが最恵国待遇の取り消しの意味です。

具体的には次のとおりです。

日本の場合、ロシアからの輸入品に適用されていた、WTO関税(低関税)が来年3月末までの間、撤回されました。

▼ロシアから輸入する木材のうち加工されたマツの関税は4.8%から8%に、
▼魚介類のサケやいくらは、3.5%から5%に、
▼カニは4%から6%に、引き上げられました。

日本政府は上位100品目で追加される関税はおよそ36億円にのぼるとしています。

これらの追加関税は輸入する事業者が支払うことになり、サケやいくらの国内価格上昇につながるおそれもあります。

これ以外に輸入を規制するものってあるんですか?

山元康司記者

ロシアからの輸入品の関税を引き上げるのではなく、そもそも輸入を禁止する措置を欧米各国は次々と打ち出しています。

ロシア産の製品の輸入を規制することで、ロシアが外貨を獲得するのを防ぎ、国内経済に打撃を与えるのがねらいです。

次のとおりです。

アメリカは輸入規制の姿勢が鮮明ですね。

山元康司記者

資源の自給率が高いアメリカは、ロシア産の原油などの輸入を禁止。

ロシアの主要産業であるエネルギーの禁輸に踏み出し、圧力を一段と強めるねらいなんです。

バルト3国のリトアニアは、ロシアからの天然ガスの輸入を完全に停止するなど、エネルギーのロシア依存から脱却する動きも出てきています。

ただ、ヨーロッパや日本など、ロシアから石油や天然ガスを調達している国は、難しい判断を迫られています。

こうした中、岸田総理大臣はロシア産の石油の禁輸方針を表明。背景は?

山元康司記者

岸田総理は、5月9日、G7のオンライン首脳会合で、ロシア産の石油を原則禁輸する方針を表明。

この理由について、岸田総理は「エネルギー資源の大部分を輸入に頼っているわが国としては大変厳しい決断であるが、G7の結束が何よりも重要な時である」として、ロシアの主要産業であるエネルギー分野への追加制裁に踏み切りました。

その上で、産業界への影響を最小限にするため、時間をかけて削減や停止など段階的な措置をとっていく方針です。

ロシアに対する厳しい姿勢を示す大きな転換点といえます。

また、G7は、ロシア経済に大きな打撃を与え、プーチン大統領による戦費調達を妨げることがねらいだとしています。

エネルギー資源の大部分を輸入に頼る日本、大丈夫?

山元康司記者

日本はエネルギーの海外依存率が突出して高いことはよく知られています。

日本は、原油の輸入の90%以上を中東に依存していて、ロシアからの去年の輸入量は全体の3.6%です。

1970年代のオイルショックで経済全体に大きな打撃を受けた苦い経験がある日本。

政府としては、エネルギー安全保障の観点から、中東への依存度を下げてエネルギー調達の多角化を進めることを目標にしていて、ロシア産の原油は戦略上重要だという位置づけでした。

政府内ではこれまで禁輸には慎重な意見が出ていましたが、ロシアによる侵攻は、国際秩序の根幹を揺るがす行為であるとして、G7の結束を優先した形です。

ただ、ロシアは、アメリカ、サウジアラビアに次ぐ世界第3位の原油産出国のため、今後、禁輸が本格化した場合、原油価格が上昇するおそれもあります。

政府は、ほかの産油国への増産の働きかけや調達先の多様化などを通じて、エネルギーの安定供給を維持したい考えです。

極東・サハリンでの石油天然ガスの開発事業には国や大手商社も深く関わっていますが、岸田総理大臣は「権益を維持することについては、変わっていない」としていて、エネルギー安全保障の観点から事業からは撤退しない考えを示しています。

一方、天然ガスの輸入については、今のところ、継続する方針です。

また、石炭の輸入禁止の方針について、政府は、早急に代替策を確保して段階的に削減し、最終的には禁止するとしています。

ロシアからの石炭の輸入は、去年、国内全体の輸入量の11%を占めました。

ロシアへの依存を低減するため、政府はオーストラリアやインドネシアなどの生産国に働きかけています。

一方、ロシアは世界の輸出量のおよそ2割を占める石炭の生産国なので、今後、石炭の価格が上昇する可能性もあり、国内でも電気料金や鉄鋼製品などの価格上昇要因になると指摘されています。

日本初の輸入禁止措置。私たちの生活への影響は?

山元康司記者

対象はあわせて38品目。

具体的には▽ウォッカ、ビール、ワインなどのアルコール飲料や▽丸太やチップ、原木を切って削った単板などの木材▽自動車やオートバイとそれらの部品、金属加工機械、ポンプといった機械類・電気機械です。

4月18日までに輸入の契約を結んでいるものについては、3か月の猶予期間が設けられています。

経済産業省は、対象となる品目は金額ベースではロシアからの輸入全体のおよそ1%で、代替調達が可能なものが多く、国内産業や私たちの生活に与える影響は限定的だと分析していて、状況を注視していく方針です。

オリガルヒへの制裁も強化されていると聞きます。

そもそもオリガルヒとはどんな人たちなんですか?

山元康司記者

政権に近い立場を利用して巨万の富を築いたロシアの超富裕層を意味します。

2月23日の時点で、ロシアは、総資産が10億ドル、日本円でおよそ1240億円以上の超富裕層が保有する資産のGDPに占める割合が21%に達しています。

各国とも次のような制裁を打ち出しています。

オリガルヒはプーチン大統領との個人的なつながりが深く、かつての同僚や昔からの柔道仲間などで、プーチン政権を経済面で支えているとみられています。

この超富裕層たちへの制裁を通じてプーチン大統領に圧力をかけるねらいです。

一方のロシア側の対抗措置は?

山元康司記者

日本やアメリカ、EU、イギリス、韓国、台湾などの48の国と地域を「非友好的な国と地域」に指定。

プーチン大統領は、EUやノルウェーなどに対するビザの簡素化の手続きを停止する大統領令に署名。

今のところ、日本は含まれていません。

「非友好的な国と地域」がロシアから天然ガスを購入する際には、通貨ルーブルでの支払いしか認めない方針を発表。

一方、G7=主要7か国は、ルーブルでの支払いを拒否することで一致しています。

また、通信や医療機器、農業機械、鉄道車両など200以上の品目を輸出禁止にしました。

このほか、イギリスやドイツ、フランスなどヨーロッパの主要国やカナダなど36の国と地域の航空会社を対象に、ロシアへの運航を制限しています。

さらに、4月27日、ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムは、ポーランドとブルガリアへのパイプラインによる天然ガスの供給を完全に停止したと発表。

ロシアが天然ガスの供給を止めたのは初めてです。

こうして見てくると、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、厳しい経済制裁とその応酬の連続で、世界を巻き込み、先行きが全く見通せない状況が続いています。