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ロシア産石油の禁輸でどうなるの?

G7=主要7か国は日本時間5月9日未明にオンラインの首脳会合を開き、軍事侵攻を続けるロシアへの圧力を強化するため、ロシアからの石油の輸入を段階的、もしくは即時禁止することで一致。岸田総理大臣も日本としてロシア産の石油を原則禁輸する方針を表明しました。世界第3位の産油国・ロシアに対する禁輸で世界や日本はどうなるの?エネルギーを担当する経済部の五十嵐圭祐記者、西園興起記者、教えて!

そもそも日本はロシアからどれぐらい石油を輸入しているの?

西園記者

日本は石油のほとんどを輸入に頼っているのはよく知られていますよね。2021年の輸入国割合でみるとロシアからの石油の輸入は全体の3.6%でした。

ちなみに1位はサウジアラビアで39.7%、2位がUAE=アラブ首長国連邦の34.7%、3位がクウェートで8.4%。4位がカタールの7.6%です。

4%弱ですか、それほど多くはないんですね。

西園記者

数字だけみるとロシアへの原油依存割合は確かに低く見えます。

でも1位から国のある場所を地図に落としてみてください。

あ、4位まで中東の国ばかりですね。

西園記者

そうなんです。日本は2021年でも中東依存割合が92%を超えています。

ロシアの石油は中東ではない地域から輸入するという点でこれまで大きな意味があったんです。

これはのちほど説明します。

分かりました。ロシアの石油ってどこから運ばれてくるんですか?

五十嵐記者

ロシアから日本に入ってくる石油には3つのルートがあります。

▽ 東シベリアから
極東サハリンのうち、
▽ サハリン1からと
▽ サハリン2からです。

JOGMEC=石油天然ガス・金属鉱物資源機構によりますと、いちばん多いのは

▽東シベリアで産出される「エスポ原油」と呼ばれるものです。「エスポ原油」は石油製品の名称です。これが56.5%を占めます。
▽ サハリン1の「ソコール原油」と呼ばれるものが34.7%
▽ サハリン2の「サハリン・ブレンド原油」が8.6%となっています。

サハリン産は合わせて43%です。

東シベリアからの原油が多かったとは知りませんでした。

五十嵐記者

東シベリアでの原油掘削には日本も地質調査に関わり、2016年から石油の生産が行われ、パイプラインで日本海まで運ばれて、そこから日本にも輸出されています。

このうち「INKーZapad」というプロジェクトには伊藤忠商事と資源開発大手のINPEXがそれぞれおよそ25%、JOGMECがおよそ50%を出資しています。

極東のサハリンでの石油天然ガス開発は日本企業が関わっているんですよね?

五十嵐記者

そうです。このうち、サハリン1は原油を日本に多く輸出しています。

中心となっているのはアメリカの石油大手、エクソンモービルで権益の比率は30%。それにロシアの政府系のエネルギー企業が20%、インドの国営石油会社が20%となっています。

日本勢は政府が50%を出資するSODECO・サハリン石油ガス開発に大手商社の伊藤忠商事と丸紅、それに政府が出資する石油資源開発などが参加し、この会社を通じてプロジェクトの30%の権益を保有しています。

ロシアからの輸入割合は大きくないけど、禁輸したらどのような影響があるのですか?

西園記者

さきほど少し説明したように日本の中東依存割合は92%。日本政府はこの中東依存度を下げようとしてきたのですが、それには過去の苦い経験があるからです。

1970年代に起きたオイルショックで、原油価格が高騰、インフレになって経済全体に大きな打撃を受けました。

1つの地域にエネルギー源を頼ってはいけないとこのときの反省からエネルギー調達の多角化を目標として掲げてきたのですが、なかなか実現できていません。その中東依存から脱却する方法の1つがロシアからの調達だったのです。

サハリンは日本から地理的に近く、輸送コストを抑えられ調達にかかる時間が短いというメリットがあります。

こうした観点から、日本政府としてはすぐにロシア産石油の輸入を止めればエネルギーの多角化戦略、エネルギー安全保障上の戦略に影響を及ぼすおそれがあるとして、これまで石油の禁輸には慎重な意見が出ていたんです。

どうして今回は禁輸に踏み切ったんですか?

西園記者

G7の加盟国がロシアへの圧力をさらに強化するため、協調して石油の禁輸に取り組む動きがあったからです。

政府関係者によると、特にロシア産原油の依存度が日本よりも高いドイツが禁輸に踏み切ったことが大きいということです。

オンラインの首脳会合で岸田総理大臣は「G7の結束が何よりも重要な時だ」と述べて、足並みをそろえる姿勢を示しました。

禁輸になるとどんなことが起きるのでしょうか?

五十嵐記者

今回発表されたG7首脳の共同声明では、ロシア産の原油の輸入禁止について、「世界が代替供給を確保するための時間を提供する形で」行うと書かれていて、具体的な禁輸の時期については明示していません。

今後、日本政府としても国民生活や事業活動への影響ができるだけ小さくなるよう、時間をかけて輸入を減らしていくことにしています。

原油価格への影響も心配です。

西園記者

確かにそうですね。世界中でロシアからの輸入がストップすれば原油価格が上がるのではないかという懸念があります。

世界第3位の原油産出国だけに影響力は決して小さくありません。

ただ、一方で専門家のあいだでは現在、中国で新型コロナウイルスの感染拡大に伴う厳しい外出制限が続いているため原油の需要が伸びず、原油価格は大きくは上昇しないのではないかとの見方もあります。

禁輸によって日本企業などが持つ権益はどうなるのでしょうか?

西園記者

岸田総理大臣はサハリン1とサハリン2の開発事業について「権益を維持することについては変わっていない」と述べました。政府としては権益を維持する方針です。

ロシアへの制裁として権益を放棄して事業から撤退するというのは文字だけ見ると、きぜんとした対応に見えますが、専門家は、仮に権益を放棄して事業から撤退するとなると、中国などの企業が権益を獲得して事業を引き継ぐおそれがあり、ロシアに対する制裁にはならなくなってしまうと指摘しています。

なかなか簡単ではないんですよね。

今回の石油の禁輸はロシアへの圧力としてどれぐらい効果があるのでしょうか?

五十嵐記者

G7各国が一致団結して、「石油という重要品目を輸入しないぞ」と示す政治的な圧力としての意味は大きいと思います。

ただ、どの国もエネルギー事情が異なり、すぐに輸入をストップできるわけではないので、経済的な影響は時間をかけて出てくるのだろうと思います。