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初の電力需給ひっ迫警報 課題が見えてきた

東京電力管内と東北電力管内に政府が「電力需給ひっ迫警報」を初めて出しました。
東京電力管内では電力の使用率が100%を超えて、数字のうえでは需要が供給を上回ってしまう異常事態まで起きました。
なぜこんなことになったのでしょうか、何が問題だったのでしょうか。エネルギー問題の取材を続ける西園興起記者、教えて。

突然、警報が出されたのには驚きました。

そもそも、どんなものなのですか?

西園記者

電力需給ひっ迫警報は、東日本大震災と原発事故で、電力需給がひっ迫したことから2012年に導入された制度です。

翌日の電力供給が足りなくなりそうになったら停電を避けるために政府が発令するものです。

これまで1度も発令されたことはありません。

発令は確か、祝日3月21日(月)の夜でしたよね。

ニュースで見ました。

西園記者

電力需給のひっ迫警報が出されたのは、21日の午後9時過ぎでした。

この電力需給ひっ迫警報、本来は午後6時に出すというのが基本ルールだったのですが、だいぶ遅れてしまいました。

私が、最初に連休明けの電力が不足するかもしれないという情報を入手したのは21日(月)の午前中でした。

日中、資源エネルギー庁と東京電力は、翌日22日(火)の天気予報をもとにした太陽光の発電量や、気温の低下による暖房使用の増加などの分析に取りかかっていました。

また、ある政府関係者は、22日(火)にまん延防止等重点措置が解除されることが判断を難しくしたと語っています。

重点措置が解除され、消費者がどれぐらいお店や飲食店を利用するのか、すなわち、どのくらい電力需要が増えるのか、予測が難しかったと話していました。

天候についていうと、気温の差は大きいんです。

人口が多い東京電力管内では、気温が1度下がると、大型の発電所1機分にあたるおよそ100万キロワットの需要が増えると言われています。

こうしたことから本来なら午後6時に出されるものが調整に時間がかかったことが、発令が遅れた理由です。

午後6時が午後9時すぎにずれ込むとどんな問題があるのですか?

西園記者

周知が遅れるとそれだけ節電への対応が遅れますよね。

特に企業向けへの周知は早ければ早いほど、翌日の動きは早くなります。

ある省庁の担当者によりますと、経済産業省から業界団体への呼びかけへの依頼があったのは、連休明け22日(火)の午前10時ごろだったといいます。

業界団体からすると午前10時に連絡を受けて会員企業に節電を周知しても実際に節電するまでには時間がかかってしまいます。

確かに私が会社の総務担当だったら前の日の早い時間に連絡が欲しいですよね。

社内で準備するにもある程度時間がかかるし。

西園記者

そうなんです。

実際、節電協力の度合いが数字に表れています。

22日(火)の午前中は節電の取り組みが進まず、きのう午前8時台から午後2時台までは東京電力が目標とした水準に対して達成率が34%と低い水準にとどまったのです。

萩生田経済産業大臣が午後3時前に緊急記者会見を開くなどしてさらなる節電を呼びかけました。

その影響があったのかどうかは分かりませんが、午後3時台から午後11時台までは達成率が101%となりました。

午前8時から午後11時台まで、1日を通した最終的な節電の達成率は72%に。

30%ほど目標には届かなかったものの、東京電力の担当者が「私たちの信じられないような効果があった」と述べるほど、節電によって想定を超えるほど多くの電力需要が削減できたことが今回、停電を回避できた大きな要因であったといえると思います。

東京スカイツリー

そもそもなんですが、真冬でも真夏でもないのになぜ、警報を出すほどに電力需給がひっ迫してしまったのでしょうか。

西園記者

3つの要因が重なりました。

①地震による火力発電所の稼働停止
②予想外の寒さ
③国と電力会社の警戒態勢が一部解除された

①は地震によっていくつか火力発電所が停止したんですよね。

西園記者

そうですね。

震度6強を観測した今月16日の地震の影響で東京電力管内に電気を送る発電所が今も2か所止まっています。

福島県にある、広野火力発電所6号機と新地火力発電所の1号機です。

このうち広野火力発電所の出力は60万キロワット。

大型の発電所で、供給できないというのは大きな痛手でした。

広野火力発電所

そして、②の寒さ。

西園記者

火曜日は一日中、まるで冬に戻ったかのような寒さでしたよね。

暖房の需要が増えて、東京電力の需要見通しを大きくこえてしまう予想になりました。

そして、③。

この冬は全国の電力需給の見通しが過去10年で最も厳しくなるとして国も電力会社も警戒態勢をとっていました。

このうち停止していた老朽火力発電所を緊急に稼働させる措置を取っていましたが、3月になると暖かくなることから2月末で解除していました。

これでますます余力がなくなったという状況です。

きのうは何とか停電が回避されたが、どのくらい危険な状態だったんですか。

西園記者

午後3時前に緊急の記者会見を開いた萩生田経済産業大臣は、節電できているのは150万キロワットにとどまり、東京電力が目標としている水準を200万キロワットから300万キロワット下回っていることを明らかにしました。

私が取材した政府関係者も「このままだと停電してしまう。何とか節電を呼びかけてほしい」と強い口調で訴えていました。

本当に深刻な状況だったようです。

昨シーズンの冬も電力需給がひっ迫。

なんだか繰り返されているような印象を受けます。

西園記者

そうですよね。

需給のひっ迫が繰り返される背景には構造的な課題があるんです。

その1つが、火力発電所の供給力の低下です。

要因となっているのは太陽光発電の導入拡大です。

日本の太陽光発電の累計の導入量はこの10年で20倍以上に増えています。

でも天候に左右されやすい?

西園記者

はい。

太陽光発電は東京電力管内で天気が良く晴れる日などはおよそ1800万キロワット、大型の発電所18基分の出力になりますが、きのう(22日)のように雨や雪が降る日にはほとんど発電しません。

また、夜間も当然ですが発電できなくなります。

この不足分を補うため火力発電所が使われます。

しかし、火力発電は太陽光による発電が増える日中の時間帯などは需要に合わせて、出力を落とす必要があり、その結果、採算が悪化してしまうのです。

なるほど。

確かに太陽光発電を使っているあいだ、火力を使わないとなると稼働率が悪くなりますよね。

西園記者

電力会社も民間会社ですから効率の悪い老朽化した火力発電所の運転を取りやめる動きが相次いでいます。

いざというときに電力の供給余力がないということになってしまうんですね。

電力会社どうしで電気をもっと柔軟に送ればいいのではないですか?

西園記者

まったくそのとおりです。

ただ、構造的な課題がここにもあります。

送電網のぜい弱さです。

戦後は大手の10の電力会社が地域独占で電力の供給や送配電、それに小売りまでを手がけてきました。

このため各社間で電力を融通し合う送電網の整備が進みませんでした。

地域のためだけの電力会社だったら互いに融通する必要性は今よりはなかったのも理解できます。

西園記者

しかし、東日本大震災と原発事故によって計画停電などが実施されたことで「これではいけない」と電力の自由化とあわせて送電網の整備が進められるようになったのです。

例えば西日本から東日本に電気を送る連系線の容量は120万キロワットから210万キロワットにまで増強されましたが、それでも十分とはいえません。

210万キロワットの容量のうち120万キロワットは既に使われていて、22日は30万キロワット分が点検中だったため緊急の融通量は最大で60万キロワットにとどまる形になりました。

「送電網をもっと増やせばいい」と思いますが、多額の建設費用は、結局回りまわって電気の使用者である私たちの電気料金に上乗せされてしまうのです。

ひっ迫警報受けて、いろんなこと見えてきたんですね。

西園記者

天候だけの問題ではない、構造的な要因がいくつも重なっていることを改めて思い知らされました。

暮らしに欠かせない電気、どうやってつくるのか、どうすればいいのか、いろいろ考えるきっかけにしてはいかがでしょうか。