NEW2024年02月29日

災害後の事業再開 どう備える?

能登半島地震の発生から2か月になりますが、地震をきっかけに、企業がすばやく事業を再開するための「備え」が注目されています。どこまで進んでいるのか、経済担当の井村解説委員、教えて!

今回の地震で、建物や道路・水道などに甚大な被害が出ましたが、企業の中には、早期の復旧につなげた事例もあったそうですね。

はい、全国にビジネスホテルを展開する大手チェーンでは、石川県の輪島市や七尾市など、3つの施設が地震で被害を受けました。

そこでこの会社では、飲料水などの必要な物資に加え、自前の給水車で生活用水を運び込み、七尾市など2か所では営業を続けていました。

輪島市のホテルでも、グループ企業が工事車両を出動させて配管を修理し、6日後には一部の建物の全室で営業再開して、医療従事者などを受け入れました。

また、七尾市の食品加工会社では、被災した工場の代わりに北海道や関東などの工場で生産量を増やして対応し、供給への影響を最小限に抑えているといいます。

これらの企業はいずれも、災害に備えてあらかじめ作っておいた計画に沿って対応した結果だと説明しています。

井村解説委員
井村解説委員

日頃の備えが、事業の継続に役立ったということですか。

そうですね。

災害などが起きた際、重要なビジネスを維持したり、短期間で復旧させたりするための方針や手順を示した行動計画を、BCP=事業継続計画と呼びます。

このBCP作り、東日本大震災のあとの平成25年に改定された国のガイドラインで「企業の果たす役割」と明確に位置づけられましたが、10年たった今もなお、十分には進んでいません。

民間の調査会社、帝国データバンクによると、去年5月の時点でBCPの策定率が大企業は35.5%、中小企業は15.3%にとどまっています。

井村解説委員
井村解説委員

どうして、なかなか進んでいないのでしょうか。

「計画作り」とひと言で言っても、災害で起こりうる被害の大きさや、商品やサービスが提供できなくなった時の影響の度合いなどを細かく分析して、それぞれに対策を考える必要があります。

このため、必要な知識がないとか、人材や時間が確保できないなどの理由から進んでいないと、調査した会社では分析しています。

井村解説委員
井村解説委員

人手不足の中で、規模の小さい企業ほど、取り組みへの壁は高そうですね。

こうした中、いま関心を集めているのが、計画をより簡単に作ることができる、中小企業向けの国の認定制度です。

正式名称は事業継続力強化計画で「簡易版BCP」とも呼ばれています。

この簡易版BCPでは、一般的なBCPのうち復旧までの細かな影響の分析は省いて、
▽想定される災害リスクの確認
▽初動の対応
▽事業の継続に必要な要員、設備、資金、情報面の備え
に絞りこんで、計画作りを進めます。

手引きに沿って決められた書式に必要な情報を書き込めば、それが計画となり、認定を受けると、防災対策などで税制の優遇や低金利の融資といった支援も受けられます。

また、同業者や取引先などが互いに支援しあえるよう、複数の企業で連携して作る方法もあります。

ことし1月からは、すべての申請をオンラインで行えるよう手続きがより便利になり、中小企業庁などでは、今回の地震のあと、簡易版BCPへの企業からの問い合わせが増えていると説明しています。

井村解説委員
井村解説委員

実際に計画作りが進み、いざという時に役立てられるといいですね。

災害に備えるには費用がかかり、従業員への教育や訓練など日頃の対策も必要ですが、計画作りを通じ、商品やサービスを安定して届けられる会社として、取引先などの評価が高まり、事業の拡大につながる効果も期待できます。

先ほどの調査会社がことし1月に行った調査では「能登半島地震を機に、改めてBCPの策定や見直しが大切だと考えた」と答えた企業が、5社に1社以上の20.6%にのぼり、意識の高まりを示しているものと分析されています。

能登半島地震の発生から2か月、被災地の復興に向けたなりわい再建へのきめ細かい支援とともに、全国の企業でも、今後起こりうる大規模地震などへの備えを見つめ直すことが大切だと思います。

井村解説委員
井村解説委員