紙幣や硬貨の未来の形? デジタル円って何?

いま私たちが使っている紙幣や硬貨。これが将来デジタルに置き換わる日が来るのでしょうか。このデジタル通貨の発行について世界の中央銀行が検討を加速させる中、今度は財務省が新たな有識者会議を立ち上げ、「デジタル円」の発行の実現可能性などについて検討に入ります。「デジタル円」っていったい何?デジタル金融を取材している古市啓一朗記者、教えて!

キャッシュレス化が進んで紙幣や貨幣を使わないことも多くなりましたが、「デジタル円」というのは電子マネーやビットコインなどの暗号資産とはどこが違うのでしょうか?
「デジタル円」とは、日銀が発行する、国のお墨付きを得たデジタル通貨のことを想定しています。
中央銀行が発行するデジタル通貨は、英語で「Central Bank Digital Currency」といいますが、その頭文字を取ってCBDCとも呼ばれています。
日本でのCBDC、ここでは「デジタル円」ということばを使いますが、紙幣や貨幣の製造や管理にかかるコストを抑えることができるほか、違法送金やお金の紛失などのリスクも軽減するメリットがあるとされています。
もちろん「デジタル円」をどこでも使えるようにするにはシステムやセキュリティーなどの対応も必要なので、簡単に移行できるというものでもありません。
仮に「デジタル円」が発行されると、その価値を維持するために日銀が供給量をコントロールするということになると考えられます。
一方で、私たちがふだん使っている電子マネーは、政府・日銀のお墨付きを得たお金=法定通貨をデジタルに変換して利用しやすくしたもので、法定通貨そのものではありません。
それからビットコインなどの暗号資産ですが、これも法定通貨ではなく、その価値を保証する後ろ盾がありません。その価値は利用者の需要と供給の関係などで決まります。


なるほど「デジタル円」というのは法定通貨そのものをデジタル化したものなんですね。では具体化に向けた検討はどこまで進んでいるのですか?
日銀が将来に備えて技術的な研究を進めています。
日銀では2021年から本格的に実証実験を始め、この2年間で技術的なレベルでの論点整理を進めました。
そしてこの4月からは、銀行や決済事業者、ITベンダーも加わりパイロット実験を実施する計画です。
実際の店舗や消費者が参加する形は現時点で想定していないとしていますが、来年以降にスマートフォンなどを使った実験が始まる可能性があります。
実験に携わるある日銀幹部は「実証実験は最終段階まで来た」と話しています。


発行の計画はないけど、研究や実験を進めている。
これが日本の現状なのですね。
そうですね。
日銀は2020年10月に公表した「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」の中で、「現時点で日本でCBDCを発行する計画はない」と繰り返し強調していますが、「さまざまな環境変化に的確に対応できるよう必要な準備を進める方針だ」とも説明しています。
世の中のデジタル化が一気に進むなど環境が大きく変化した場合でも対応できるよう準備が必要だと考えているわけです。
政府はおととし(2021年)、当時の菅内閣のもとでとりまとめた「骨太の方針」の中で「政府・日銀は、2022年度中までに行う概念実証の結果を踏まえ、制度設計の大枠を整理し、パイロット実験や発行の実現可能性・法制面の検討を進める」という計画を示していました。
実際、日銀がこの方針に沿った形で準備を進めてきたわけですが、政府の側でその後目立った動きがない状況でした。


そうした中で今回財務省が会議を立ち上げるということですね。
これについてある日銀幹部は「この春からフェーズは変わる」と述べていましたが、「デジタル円」の将来の発行に向けて一歩進んだということだと思います。
ただ、関連する法律の整備など制度設計の議論には時間がかかることも予想され、財務省としても、専門家の意見を参考にしながらまずは準備を進めるといったところだと思います。
発行の実現可能性の見極めにはなお時間がかかると見られますが、政府・日銀の今後の対応は、海外の中央銀行などの動きをにらみながらの展開となると思います。


海外では日本より取り組みが進んでいるのですか?
実は中央銀行の主導ですでに運用を始めているところもあります。2020年10月に東南アジアのカンボジアが各国に先駆けて導入しました。
主要国で発行されたケースはまだありませんが、実用化に向けて先行していると言われているのは中国です。

去年2月の北京オリンピックの会場では「デジタル人民元」の実験が行われました。
いまも徐々に実験の対象エリアを拡大しています。

ヨーロッパ中央銀行は、ことし(2023年)中にもCBDCを発行するかどうかを判断するとみられています。
また、イギリスは、今年2月、「2020年代後半にもCBDCを発行する可能性がある」と発表しました。
アメリカでは、去年1月、FRB=連邦準備制度理事会が「デジタルトランスフォーメーション時代におけるアメリカドル」と題したCBDCに関する初めての報告書を公表しました。
ある日銀幹部は、日本の「デジタル円」の取り組みの立ち位置は「EUやイギリスより少し後ろにいる」という見方を示していました。
日本でも、発行の可能性についていつ、どのような判断をするのか注目されています。


海外の状況を踏まえて進んでいることはわかりました。
現時点での課題は?
仮に将来、「デジタル円」が発行されれば紙幣や硬貨がデジタルに置き換えられることになり、人々の生活や経済活動を大きく変える可能性があります。
今月から始まる財務省の有識者会議でも課題について議論されることになりますが、今の時点では、
1.法律の改正をどのように進めていくか。
2.プライバシー保護やセキュリティー対策にどう取り組むのか。
3.決済アプリが普及するなか、こうしたサービスとの違いをどう示すのか。
こうした課題が挙がっています。

全国銀行協会のトップでみずほ銀行の加藤頭取は4月3日に開いた会見で、デジタル円について問われ、「日本では国民の銀行口座保有率が高く、キャッシュレスの決済手段が着実に普及し、通貨や決済の信頼性や利便性も高い。こうした状況は他国と異なる」と述べ、日本の金融を取り巻く状況を考慮した上で検討していくべきだという認識を示しました。
その上で、「銀行界も検討に主体的に参加し、必要な意見発信を行っていきたい」と述べました。
課題もたくさんあるし、日本の事情も踏まえる必要もあるし、発行の実現可能性について判断するまでにはなお時間がかかりそうです。
仮に発行するということになったとしても、紙幣や通貨を完全に置き換えるのではなく、当面はデジタルとリアルのお金が併存する姿が想定されています。
日銀は、「今後も現金に対する需要がある限り、日本銀行は、現金の供給についても責任をもって続けていく。その意味でCBDCは現金を代替するものではなく、現金と共存し、これを補完するものと位置付けられる」としています。
日銀幹部が述べたように「デジタル円」をめぐる議論、この春からフェーズは変わるのか、今後もその動きを随時お伝えしたいと思います。

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