厳しくなる!半導体製造装置の輸出手続き

政府は、先端半導体の製造装置23品目の輸出管理を厳しくする措置を新たに行うと発表しました。アメリカ・韓国・台湾などへの輸出よりも、中国などへの輸出手続きを厳しくするということです。いったいなぜこの措置に踏み切ったのか。経済安全保障を担当する渡邊功記者教えて!

先端半導体の製造装置の輸出管理を厳しくするって言うけど、そもそも輸出管理って何?
暮らしに身近な自動車や電子機器などに使われる部品や製造装置の中には、核兵器やミサイル、化学兵器などの開発に転用可能なものがあります。
こうした技術がひとたび国際社会の平和や安全を脅かす国などに輸出されれば、安全保障上の大きな脅威になりかねません。
そこで政府は、外為法=外国為替及び外国貿易法に基づいて、輸出を管理する制度を運用しているんです。


なるほど。
最新技術を使った製品が輸出され、ハイテク兵器などに転用されないようにするための措置ってことかな?
そうです。
実は輸出管理をめぐって日本には苦い教訓があります。
「東芝機械ココム違反事件」です。
冷戦末期の1987年に、旧ソビエトに精密な工作機械を輸出していたことが発覚しました。
これが軍事転用の可能性がある物資の共産圏への輸出を規制していたココム=対共産圏輸出統制委員会の協定に違反。
当時のアメリカは、旧ソビエトの潜水艦を探知することが難しくなったなどと主張し、日米の貿易摩擦の激化にもつながりました。


そうした経緯も踏まえて、いまの輸出管理の制度ができたわけだね。
今回の措置ではどんな品目が対象になったの?
先端半導体の材料に回路を焼き付ける「露光装置」や、半導体の材料の上に薄い膜を形成させる「成膜装置」、不純物の除去を行う「洗浄装置」など、日本企業が高い技術力を持つ装置です。
経済産業省によりますと、こうした装置を輸出する主要な企業は、東京エレクトロンなど10社あまりで、主にアメリカと中国、韓国、台湾に輸出しているということです。


中国などへの輸出手続きが厳しくなるって言っていたけど、これってどういう仕組みなの?
はい。
日本には大きく2つの輸出管理の制度があります。
ひとつは、国際的に合意された規制リストに載っている品目などを輸出する際に国の許可を必要とする「リスト規制」。
もうひとつは、リストに載っていない品目でも兵器に利用されるおそれがあると国が判断した品目について、個別に許可を必要とする「キャッチオール規制」です。
今回の場合、「リスト規制」が適用され、原則としてすべての国や地域への輸出が対象となります。
ただし、アメリカなど42の国と地域への輸出で、一定の要件を満たした企業の取り引きについては優遇措置が与えられ、輸出手続きが簡略化されます。
一方、中国を含むそれ以外の国や地域に輸出する場合、毎回、経済産業大臣の許可を取らなければならなくなります。


こうした措置に中国はどんな反応を見せているの?

中国外務省の毛寧報道官は記者会見で「経済や貿易、それに科学技術の問題を政治化したり、道具や武器のように利用したりしてサプライチェーンの安定を人為的に破壊する行為は他人を傷つけ、みずからも傷つけるだけだ」と述べ、日本の対応を非難しています。


中国は反発しているんだね。
それでもこの措置をやらなければいけない理由って何だろう?
背景のひとつは、激しさを増す米中の覇権争いです。
中国の習近平政権は、軍と民間企業の協力を進める「軍民融合」を国家戦略に掲げています。
アメリカはすでに軍事転用が可能な先端半導体の関連製品について中国向けの輸出規制を強化すると発表していますが、輸出管理は各国が連携して行うことが重要で、1国だけでやっても効果は限定的です。
そこで半導体の製造装置で高いシェアを持つ日本やオランダにも協力を呼びかけていました。
日本としても、強みを持つ先端半導体の製造装置が、軍事用途に使われるリスクを減らしたいという考えがあり、今回、アメリカの要請に応える形となったわけです。


でも中国は日本にとって隣国。
輸出管理を強化すれば、影響は大きいのでは?
たしかに中国は日本にとって最大の貿易相手国です。
半導体製造装置に限ってみると、去年1年間の中国への輸出額は8200億円あまり、中国は輸出全体のおよそ30%を占める最大の輸出先です。
こうしたこともあり、経済産業省は、今回の措置は中国などを念頭に置いたものではないと強調しています。
さらに対象となる品目も、かなり高性能な製造装置に絞り込んでいるので、日本企業への影響は限定的だと説明しています。


アメリカとの関係は大事だし、かといって中国との貿易にも悪影響を与えたくない、苦渋の決断だったわけだね。
そうですね。
輸出管理に詳しい専門家は、「2年ほど前から、日本・オランダ・アメリカで意見交換を重ねていた」と指摘していて、慎重に検討した上での措置だと言えます。
経済産業省では、今回の措置は禁輸措置ではなく、軍事転用のおそれがないと確認できれば、輸出の許可は出るとしています。
ただ、アメリカや韓国などと比べて、輸出手続きに差をつけられた中国が、今後、報復措置に踏み切る可能性も否定できません。
経済安全保障の確保と貿易の実利という2つの要素をどう両立させるか、日本として難しいかじ取りが求められています。

# 注目のタグ
- # 新型コロナ (51件)
- # 銀行・金融 (33件)
- # 環境・脱炭素 (33件)
- # 暮らし・子育て (32件)
- # 自動車 (28件)
- # AI・IT・ネット (26件)
- # 財政・経済政策 (23件)
- # 働き方改革 (20件)
- # 給与・雇用 (19件)
- # 日銀 (19件)
- # 企業の合従連衡・業界再編 (18件)
- # 消費税率引き上げ (17件)
- # エネルギー (17件)
- # 原油価格 (14件)
- # 農業・農産品 (14件)
- # 人手不足 (13件)
- # 外食 (13件)
- # 株式市場・株価 (12件)
- # 物価高騰 (12件)
- # 旅行・インバウンド (11件)
- # 景気 (11件)
- # 経済連携・貿易 (11件)
- # ウクライナ侵攻 (11件)
- # 携帯料金 (10件)
- # コンビニ (10件)
- # お酒 (10件)
- # 鉄道 (9件)
- # キャッシュレス決済 (9件)
- # 為替 (9件)
- # 暗号資産 (8件)