NEW2023年01月17日

迫る“2024年”問題、荷物が運べない?

ネット通販で荷物を頼むと、翌日には家に届けてくれるサービス。「当たり前」と思っているこうしたサービスの中には、来年から難しくなるものもあるかもしれません。物流業界に“2024年問題”と呼ばれる危機が迫っているんです。国土交通省担当で物流業界などの取材を続ける樽野章記者、教えて!

“2024年問題”って言うけど、来年なにが起きるの?

労働基準法の改正で2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の規制が厳しくなるんです。

時間外労働の上限は年間960時間に制限されるようになります。

そもそも、トラックドライバーの労働時間は全業種平均より、約2割も長くなっていて(厚生労働省調査)、長時間労働が問題視されてきました。

ドライバーの労働環境を改善するために新たな規制が導入されるんです。

樽野記者
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それが、なんで“問題”なの?

労働時間の短縮は1人が運べる荷物の量の減少につながりますし、これまでドライバー1人で運べていた区間も、2人で交代して運ばなければならないケースも出てきます。

例えば、宅配大手のヤマト運輸では、東京ー大阪の約550キロの区間のトラック輸送は、前後の作業も含めて1日の拘束時間が12時間半と見積もっていて、新たな規制が導入されるとドライバー2人で対応しなければなりません。

コロナ禍やネット通販の広がりで物流の需要は高まっていてトラックドライバーは今でも深刻な人手不足と言われていますが、その状況に拍車がかかり、輸送量が大きく減少するのではないかと懸念されているんです。

樽野記者
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影響はどれくらいあるの?

民間のシンクタンク「NX総合研究所」は、コロナ禍前の2019年度の貨物量を念頭に置いた場合、2024年問題の影響で輸送能力が14%も不足すると試算しています。

荷主別でみると「農産・水産品の出荷団体」や不特定多数の荷主の商品を1台のトラックでまとめて運ぶ「特積み」で地域別では「中国地方」や「九州地方」、「関東地方」で輸送能力が特に不足することが見込まれるとしています。

樽野記者
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それは大変!どうにかできないんでしょうか?

国も問題の解決に向けて本腰を入れています。

その1つが荷主側の対策です。

物流の将来像を議論している国の検討会が17日に公表した中間報告の案では、トラックドライバーの労働時間を削減するため、荷主側にも納入先での待機時間や納品回数を減らすことなど、計画的な改善を促す措置を検討すべきだと提言しました。

具体的には荷主側に物流の改善計画を策定するよう法律で規定し、計画から大きく逸脱した場合には国が勧告を行うことなどを念頭に置いています。

国が運送会社だけでなく荷主側にまで対応を求めるのはこれまでなかったことでそれだけ、この2024年問題が差し迫った問題だといえます。

樽野記者
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あまり時間もないし、今すぐにでも対策に乗り出すべきでは?

そのとおりです。

すでに対策に乗り出した荷主もいます。

日用品などを扱う通販サイト「LOHACO」は毎月、特定の日に限って利用者が3日後から7日後まで配達日を選べる実証実験を始めています。

急ぎではない荷物の配達を分散させようというねらいです。

実証実験で「配達が遅くてもかまわない」という利用者にポイントを付与したところ、約半数の利用者が遅めの配達を選んだということです。

また、スーパーマーケットチェーンの中には、納品時間をこれまでよりも1日遅らせるなど、余裕を持った配送計画を組むことでドライバーの負担を軽減する取り組みを始めたところもあります。

さらに、私たち1人1人ができることもあります。

例えば宅配便。

国土交通省が2022年10月に行った調査では、再配達率の割合は11.8%に上り、荷物の10個に1つは、一度で届いていない状態が続いていることが分かりました。

再配達を減らすだけでも、物流業者には大きな負担軽減にもなります。

宅配事業者は、急な予定変更があった場合には配達前にアプリなどで配達の日時を変更できるサービスも提供しています。

さらに、不在の場合には玄関先に設置した宅配ボックスなどに届けてもらう「置き配」や、駅やスーパーなどに設置された「宅配ロッカー」などもあり、こうしたサービスを使うこともドライバーの負担軽減につながります。

さまざまな分野でオンライン化、デジタル化が進んでいますが、「モノを届ける」という物流業者の重要性は今後も変わることはありません。

“2024年問題”を深刻な問題としないためにも、社会全体で対策が求められていると言えます。

樽野記者
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