NEW2022年12月12日

円相場これからどうなるの?FRB利上げ縮小か 先読み

円安ドル高が記録的なスピードで進んだ2022年。大きな影響を及ぼしてきたのが、FRB=連邦準備制度理事会の異例の利上げでした。FRBは、12月13日と14日の2日間、金融政策を決める会合を開くことにしていて、今後の金利の水準をどう示すのか、世界の注目が集まっています。同じ13日には、政策を左右する消費者物価指数の発表も控えています。円安の相場が転換点を迎えるのか、FRBの会合の行方をワシントン支局の小田島拓也記者が専門家の分析とあわせて解説します。

ことしを振り返るとすごい勢いで円安が進みましたよね。

だいぶ昔のことのように思えますが、ことし1月のドル円相場は1ドル=115円台でした。

FRBの利上げに連動するように円安ドル高が進み、10月には1ドル=151円94銭まで値下がり。

10か月で36円余りも円安が進んだのです。

※詳しくはこちらの記事も→「円安加速1ドル=150円超何が要因なの?説明します」

小田島記者
小田島記者

その円安をもたらしてきたFRBの利上げ、12月の会合の見通しはどうなりそうですか?

これまで急ピッチで大幅利上げを進めてきたFRBがことし初めて利上げ幅を縮小するという観測が高まっています。

金利の先物取引の動きをもとに投資家の見通しを示したデータを見ると、日本時間の12日午後1時時点で0.75%の利上げ幅が25%余り、0.5%が74%余りとなっています。

FRBはこれまでの会合で0.75%の利上げを4回連続で決めていて、今回は、利上げ幅を縮小するという予想が大勢を占めています。

小田島記者
小田島記者

なぜ、FRBが利上げ幅を縮小すると見られているのですか?

根拠の1つとなっているのが、10月の消費者物価指数です。

上昇率は7.7%と依然高い水準であったものの、8か月ぶりに8%台を下回りました。

また、11月30日にFRBは全米12の地区連銀がまとめた「ベージュブック」と呼ばれる最新の経済報告を公表しました。

この中で景気の現状については、金利の上昇とインフレが経済活動の重しとなり、前回10月の時点から経済成長のペースが低下したこと、また、消費者物価も全体的には上昇ペースが鈍化したと指摘しています。

FRBのパウエル議長も、同じ30日の講演で、「インフレを抑え込むことができる金利の水準が近づくにつれて利上げのペースを緩めることは理にかなっている」として、早ければ12月13日から開く会合で利上げ幅を縮小することを示唆しました。

小田島記者
小田島記者

実際、アメリカのインフレは収まる兆しがありますか?

経済の現場を取材すると物価上昇の変化に気づきます。

その1つが、中古車市場です。

販売現場では、これまで高騰していた価格が下落に転じていると言います。

中古車販売チェーンの「カーバナ」は、売り上げの減少に直面し、11月、1500人の従業員を削減すると発表しました。

また、食料品や衣料品も伸びが鈍化していますが、特に感じるのは、ガソリン価格です。

6月には、1ガロン(3.78リットル)あたり5ドルを超え最高値を更新しましたが、その後は下落傾向となっています。

州やガソリンスタンドによって価格は異なりますが、私は1ガロン3ドル台前半のガソリンスタンドで給油しています。

小田島記者
小田島記者

人々を苦しめてきた物価上昇もこれから下がるならいい傾向ですね?

そうひとくくりにいえないのが難しいところなんです。

確かに全ての項目が含まれる消費者物価指数は落ち着きを取り戻す傾向にあります。

ただ、これまでの住宅価格上昇を背景に住居費が高止まりしているんです。

家賃は一般的に契約期間が長いため、一度上がると、下がりにくいという特徴があります。

高騰していた住宅価格は、FRBの利上げによって下落傾向にありますが、家賃に反映されるには時間がかかることになります。

アトランタ連銀が毎月発表している粘着価格CPIというのがあります。

帰属家賃(=持ち家に住む人が家を借りたと仮定した場合に支払う家賃)のほか、レストランの価格、医療サービスなど一度価格が上がるとなかなか下落に転じにくい項目を集めた物価指数です。

この数値は高止まりしているんです。

小田島記者
小田島記者

FRBが利上げをやめる時期はいつになるんですか?

先は見通しにくいです。

12月に発表された2つの重要な経済指標がインフレが続くことを示唆していたからです。

1つ目が12月2日に発表された雇用統計です。

非農業分野の就業者数や労働者の平均時給が市場の予想を大きく上回りました。

インフレの主な要因となっているのが人手不足を背景にした賃金の上昇です。

賃金の上昇が続く限り、物価に転嫁する動きは止まらず、インフレは収束しないことになります。

もちろん、賃金の上昇自体はいいことですが、「賃金の上昇はインフレによって食い物にされている」というのがパウエル議長の考え。

インフレを抑え込まなければ、国民の生活は豊かにならないと強調しています。

もう1つが、ISM非製造業の景況感指数という経済指標です。

こちらも市場の予想を大きく上回りました。

製造業の指数は、好不況の分かれ目となる50を下回り、景気減速が強く意識されました。

一方、非製造業は好調で、アメリカの景気は全体として底堅いという見方が広がりました。

景気が良ければインフレは収まりにくくなります。

市場では「やはり、FRBは今後も利上げを続けざるを得ないと」いう観測からドル高株安で反応しました。

小田島記者
小田島記者

来年の政策金利の見通しはどうなりますか?

専門家に話を聞きました。

まずは、FRB元副議長でプリンストン大学のブラインダー教授です。

12月の会合で、金利の上限が4.5%に引き上げられ、来年には5%に到達すると予測しています。

その上で、景気減速への兆候が見られる中、金利は、5%から少し高くなるよりは、少し低くなる可能性の方が高いとしています。

アメリカ経済全体については、2023年半ばに穏やかな景気後退が始まり、FRBは2023年後半から2024年前半に金利を下げ始めると見ています。

一方、長年FRBの金融政策を見続け、アメリカにも駐在経験がある元三菱UFJ銀行のエコノミスト、鈴木敏之氏は、13日に発表される消費者物価指数が鍵になると指摘しています。

9月のデータは、市場予想を上回り、10月は逆に予想を下回りました。

それぞれ、CPIショック・逆CPIショックと呼ばれ、為替相場や株価を大きく動かしました。

11月のデータについて、鈴木さんは「価格の変動が大きいエネルギーや食料」をのぞいた指数が、前月比で+0.5という数字が出れば、再び新CPIショック”が起きかねないと予想しています。

今後の金利の水準については、12月が0.5%、2月にも0.5%引き上げて5%に到達すると予想していますが、インフレ、賃金上昇が収まらなければ、さらに引き上げる可能性も捨てきれないと考えています。

小田島記者
小田島記者

となると円相場はどうなりそうでしょうか?

専門家に取材を重ねると、予測はできないとしたうえで、現状では1ドル=150円を超えるような円安ドル高の相場からは離れつつあるという認識の方が多いようですが、それもFRBとパウエル議長の判断次第でしょうね。

パウエル議長は2022年8月のジャクソンホールでの講演以降、一貫しているのは、インフレを抑え込む決意です。

「歴史は時期尚早の金融緩和を強く戒めている。任務が完了するまでやり遂げる」

金融の世界でことしの流行語大賞を選ぶとすれば多くの関係者がこの発言をあげるかもしれません。

インフレに変化の兆しがあらわれているものの、「依然高すぎる」と強調するパウエル議長。

来年、アメリカの経済指標を見極めながらパウエル議長がどこでブレーキを踏むのか、その行動や発言で円相場は大きく動かされることになりそうです。

小田島記者
小田島記者