巻き返しなるか日本の半導体産業

トヨタ自動車やソニーグループなど日本の主要企業8社が出資し、先端半導体の国産化に向けた新会社が設立されました。会社の名前はラテン語で「速い」という意味の「Rapidus(ラピダス)」。政府も研究開発拠点の整備費用などに700億円を補助する予定です。官民あげた新会社設立のねらいはどこにあるのか、経済産業省担当の中島圭介記者、教えて!

そもそも先端半導体ってなに?

「ロジック半導体」と呼ばれる高度な計算を可能にする半導体のことです。

みなさんが持っているスマートフォンなどにも使われていて、電子機器の頭脳の役割を果たしています。

実はこの分野で日本は、海外に10年遅れているとも言われています。

日本でも半導体を作っていますが、データを記録する「NAND型フラッシュメモリ」や電気を効率よく動力に変換する「パワー半導体」などで、「ロジック半導体」は海外からの輸入に依存しているんです。

中島記者
中島記者

そうなんだ。

その「ロジック半導体」の分野では、海外のどういう企業が強いの?

台湾のTSMCや韓国のサムスン、アメリカのインテルなどが先行しています。

先端半導体は「微細化」といって、回路の幅をできるだけ細くして、性能を高める技術が重要です。

1ミリメートルの100万分の1の「ナノメートル」という単位でその細さを表し、数字が低ければ低いほど、微細な回路ということになります。

スマートフォンやデータセンター向けでは、回路の幅が5ナノメートルから16ナノメートル程度の製品が主流となっていますが、国内で作ることができるメーカーはありません。

現在の最先端は3ナノメートルの製品で、韓国のサムスンがことし6月に量産を開始しました。

2025年までにはサムスンに加えてTSMCも、2ナノメートルの半導体の実用化を目指す方針を打ち出しています。

これに対して新会社は、5年後の2027年をめどに2ナノメートル以下の半導体の量産化を目指しています。

中島記者
中島記者

先行する海外メーカーとの差を少しでも縮めようと新会社を設立したわけだね。

新会社には▽トヨタ自動車、▽デンソー、▽ソニーグループ、▽NTT、▽NEC、▽ソフトバンク、▽半導体大手のキオクシア、それに▽三菱UFJ銀行の8社が出資しています。

各社とも、自動運転やAI=人工知能、スマートシティーなどの技術開発に取り組んでいて、新会社を通じて先端半導体を安定的に調達するねらいがあるものとみられます。

政府も研究開発拠点の整備費用などとして700億円を補助することを決めたほか、11月8日に閣議決定された補正予算案にも半導体の研究開発や生産の拠点を整備するための費用などとして、およそ1兆3000億円を盛り込みました。

官民一体で先端半導体の国産化を実現しようと支援を強化しています。

西村経済産業大臣は11月11日の記者会見で「ビヨンド2ナノと呼ばれる次世代半導体は量子、あるいはAIなどを含むあらゆる分野で大きなイノベーションをもたらす今後の中核技術だ。アメリカをはじめ各国と連携しながら開発に取り組んでいく」と述べ、新会社設立の意義を強調しました。

中島記者
中島記者

でも周回遅れだというのに、日本の企業だけで先端半導体を国産化できるの?

これまで日本の半導体産業では、国内の企業や研究機関が中心となって開発を進め、優れた技術を持つ海外メーカーと十分に連携できなかったという反省があります。

このため今回は海外のメーカーとの連携を強化することにしています。

その一環として、政府はことし6月、茨城県つくば市にTSMCの研究拠点を誘致しました。

さらに7月には、日米両政府による経済版の「2プラス2」にあわせて、次世代の半導体を日米で共同研究するための新たな拠点を国内に整備する方針を表明しています。

中島記者
中島記者

今後の巻き返しに向けて課題は?

アメリカや台湾などのメーカーとの技術力の差は大きいことから、研究開発を担う人材の育成や先行する海外の知見を得て、開発力を高められるかが課題です。

半導体に詳しいイギリスの調査会社オムディアの南川明シニアディレクターに話を聞きました。

南川さんは「先端半導体の研究開発で後れをとっている日本には人材がおらず、きちんと育てていかないといけない」と話し、中長期的な視野に立った人材育成が課題だとしています。

また半導体産業は、技術のサイクルが速く、巨額の設備投資が必要です。

このため南川さんは「世界的に半導体が重要だと言われる中で今回がラストチャンスだ。政府は少なくとも各国がやっているような5兆円や6兆円といった規模の支援をしていく必要がある」と指摘しました。

▽アメリカでは半導体の開発や生産に日本円で7兆5000億円以上を投じることなどを盛り込んだ法律を成立させたほか、▽EU=ヨーロッパ連合も、官民あわせて日本円で6兆2000億円あまりを投じる方針を示しています。

政府は、半導体産業の強化は経済安全保障の観点からも欠かせないとしていますが、正直、予算規模からしても欧米に見劣りしています。

米中の覇権争いが続き、「台湾有事」すら懸念されるなか、半導体は国家的な戦略物資です。

日本経済の将来にかかわる重要なプロジェクトを官民一体となって成功に導けるか、今後の行方に注目したいと思います。

中島記者
中島記者