NEW2022年10月19日

いまさら聞けない! 円安のメリット・デメリット 悪い円安って?

外国為替市場で、急速に円安が進んでいます。19日の東京外国為替市場で、円相場は1ドル=149円台半ばまで値下がりし、1990年以来、およそ32年ぶりの円安水準となりました。この歴史的な円安、「悪い円安」とも指摘されています。円安が「悪い」とはどういうことなんでしょう?

円安が進んでいますね。

およそ32年ぶりとなる1ドル=150円が目前の状況です。ことし1月の時点では、115円台でしたから、ことしに入って、ドルに対して、35円近くも値下がりしたことになります。

これは、年初と比べた値下がりとしては、1985年に日米欧の主要5か国がドル高の是正で政策協調した「プラザ合意」以降で最大で、まさに歴史的な円安です。

先月22日に政府・日銀が市場介入に踏み切ったあと、一時、1ドル=140円台前半をつけましたが、そこからおよそ9円、円安が進んでいて、歯止めがかからない状況になっています。

「悪い円安」ということばをよく聞きます。円安に「良い」、「悪い」があるのでしょうか?

円安には、メリットとデメリットがあります。輸出企業にとっては、海外に安く製品を売れるため、価格競争力が高まり、収益が増えるメリットがあります。

日立製作所は、子会社が手がける冷蔵庫などの白物家電の輸出の割合をこれまでの5%程度から、来年3月までに10%に引き上げることを決めました。

円安には、外国人観光客を呼び込むプラスの面もあります。新型コロナウイルスの感染拡大でそのメリットが薄らいでいましたが、今月11日からは、外国人の個人旅行の解禁など、水際対策が大幅に緩和され、今後、インバウンド需要の高まりが期待されています。

さらに、円安のメリットとして、海外で事業を展開する企業が、海外で稼いだドルなどの外貨をより多くの円に換えることができます。

では、円安のデメリットとは?

原材料を輸入する際のコストが一段とかさむことが挙げられます。

ロシアのウクライナ侵攻以降、原油などのエネルギーや穀物など、原材料価格は高止まりしています。円安で輸入コストの上昇に拍車がかかれば、企業業績を圧迫することになり、家計にも影響が及ぶことになります。

トヨタ自動車の豊田章男社長は、先月の記者会見で「円安のメリットを受ける輸出の台数は10年前と比べるとおよそ2割減少している。一方、資材や部品の輸入が増えてきていることやエネルギー価格の高騰で、どちらかというと円安のデメリットが拡大しているのが現実だ」と述べました。

また、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は今月の会見で「円安でメリットを感じる人は製造業でもほとんどいないと思う。例えば零細企業の方でも、サラリーマンの方でも、企業経営の方でも、メリットを感じている人の声が聞こえてこない。むしろデメリットで、経済は本当にひどい」と述べています。

収益を圧迫されている企業も少なくないということですね?

日本経済は、コロナ禍から、ようやく回復しつつある状況です。こうした中で、さらに円安が進めば、輸入されたモノの価格を押し上げ、企業収益を圧迫し、消費を冷え込ませかねません。

今の円安はメリットよりもデメリットの方が大きい「悪い円安」だという声が強まっているんです。

日銀の黒田総裁は、19日に参議院の予算委員会で、「最近の円安の進行は、急速かつ一方的なもので、このような円安の進行は企業の事業計画策定を困難にするなど先行きの不確実性を高め、わが国経済にとってマイナスであり、望ましくないと考えている」と述べました。

円安で、海外旅行や留学などに行きにくくなったといった話も聞きます。

新型コロナの行動制限の緩和を受け、海外に旅行した方もいらっしゃるかもしれません。その際、ホテルの宿泊や食事、買い物などで、物価の水準の違いに驚いたという人が多いのではないでしょうか。

もちろん欧米では、記録的なインフレで、そもそもモノやサービスの値段が大きく上がっています。

ただ、それに加えて、円安が進み、ほかの国の通貨に対する円の価値が低下したことで、円に換算すると、さらに高くなる、というわけです。

円の価値が低下しているのですね?

実際、円安によって、円の通貨としての実力は大幅に低下しています。

BIS=国際決済銀行が公表した9月の「実質実効為替レート」は57.95となりました。これは1970年9月(57.64)以来、およそ52年ぶりの低い水準です。

実質実効為替レートは、ドルやユーロ、円、人民元など主要な国と地域の通貨について、貿易量や物価水準などを考慮して比較し、通貨の総合的な実力を算出する指標です。

これまで、急激に円高が進んだ1995年4月の150.84が最高で、円の実力はこのピーク時の半分以下に落ち込んだことになります。

経済同友会の櫻田代表幹事は、19日の会見で「円安はデメリットのほうが多い」と述べたうえで、「円安が日米の金利差やアメリカでのインフレに基づくものだけでなく、日本の経済力や国力に起因するものが少しでもあるとしたら大変心配だ」と懸念を示しました。

円安は今後も続くのでしょうか?

円安の背景には、記録的なインフレを抑え込むため、大幅な利上げを続けるアメリカのFRBと、大規模な金融緩和を続ける日銀の方向性の違いがあります。

日米の金利差の拡大を見込んで、円を売って、より利回りが見込めるドルを買う動きが加速しているんです。

市場では、こうした構図は当面、変わらないとして、円が売られやすい状況が続くという見方が出ています。