NEW2022年10月03日

経済安保推進法 基本方針? 基本指針って何?

9月30日、政府は閣議で、経済安全保障推進法の基本方針と基本指針を決定しました。
基本方針?基本指針?そもそも経済安全保障推進法って何だっけ?担当の渡邊記者、分かりやすく教えて!

そもそも経済安全保障推進法って何でしたっけ?

経済安全保障推進法は、日本の経済安全保障を包括的に強化しようと、ことし5月に成立、8月から一部が施行された法律です。

「経済安全保障」と言っても範囲は広いですが、この法律では4つの制度を柱としています。

1.半導体や医薬品などの重要な物資を安定して調達できるよう支援する「サプライチェーン=供給網の強化」。
2.AI=人工知能や量子といった先端技術の開発を進める「官民重要技術の支援」。
これら2つは「支援」の要素が強いものです。

一方、残りの2つは
3.電力やガス、鉄道など私たちの生活に欠かせない基幹インフラへのサイバー攻撃を防ぐ「基幹インフラの安全性確保」。
4.軍事に転用されるおそれのある技術を守る「特許出願の非公開化」。
これらは「規制」の要素が強い施策です。

渡邊記者
渡邊記者

4つの柱があるのですね。「規制」の要素が強い内容もあるとのことですが、企業の活動に足かせになったりしないのでしょうか?

気になるところですよね。
例えば4番目の軍事に転用されるおそれのある技術。

法律では、公開されると「国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」とされていますが、特許庁はこうした発明の特許出願があれば内閣府に送付します。

これを受けて内閣府はその内容を審査。

その際、発明を非公開にした場合に産業の発達に及ぼす影響などを考慮するとしていますが、結果的に「保全指定」された出願は、一定期間、出願の取り下げや発明内容の開示、外国への出願などが禁止されます。

政府は当面、「保全指定」の対象は軍事技術に限るとしていますが、こうした発明は、初期段階では軍事目的だけに使用されるシングルユースか、軍民両用のデュアルユースか判断がつきにくいケースもあります。

経済界からは量子やゲノムなどの先端技術の転用については、事前規制によって研究開発を抑制すべきではないという指摘も出ています。

いずれにしても行政の裁量だけで規制や支援の範囲を決めるということにならないよう、その対象を明確にして企業などの予見可能性を確保する必要があります。

高市経済安全保障担当大臣は、先月(30日)の会見で「本来予定されていた経済活動が過度にためらわれることのないよう、規制の対象範囲や考え方をあらかじめ、できる限り明確にする」と述べています。

経済安全保障は、安全保障と名がつくだけに、どうしても「守り=規制」の要素も必要ですが、企業活動と経済安全保障のバランスをいかにとるかは、今後制度を運用していく上で重要な課題となります。

渡邊記者
渡邊記者

ちゃんと事前に分かるようにして欲しいですね。その上で、冒頭出てきた基本方針や基本指針って何でしたっけ? 何だかややこしいですね。

「基本方針」は今後、具体的な支援対象などを決めていく上で前提となる、基本的な考え方や留意事項を定めたもので、一方の「基本指針」は、先に挙げた4つの制度ごとに、支援の対象に必要な要件などを定めたものになります。
いわば今後、詳しい制度設計をしていく上での「手引き」のようなものです。

今回閣議決定されたのは、全体の「基本方針」と、4つの制度のうち「支援=攻め」のパートにあたる1と2についての「基本指針」です。

まず「基本方針」です。

官民の関係のあり方について、「市場や競争に過度に委ねず、政府が支援と規制の両面で一層の関与を行っていくことが必要だ」としています。

そのうえで「安全保障の確保と自由かつ公正な経済活動との両立が十分図られるようにする必要がある」と明記しています。

続いて「基本指針」です。

このうち「サプライチェーンの強化」で支援の対象となる「特定重要物資」については、「国民の生存に必要不可欠」、「供給が特定国に偏り、外部に過度に依存している」など、4つの要件すべてを満たす必要があるとしています。

これらの要件を満たし「特定重要物資」に指定された物資に関連する事業者は、手続きをして認可を受けると、国からの支援を受けられます。

一方で、「特定重要物資」に関連する事業者は、認可は関係なく国による調査の対象となる可能性があり、報告や資料の提出を求められた際の努力義務が課せられることになります。

渡邊記者
渡邊記者

なるほど。そうすると気になるのは、制度で支援の対象となる物資や技術が何になるのかというところですね。

「特定重要物資」の対象については、政府は年内にも政令で指定する方針で、現在選定の作業を進めています。

政府がこれまでに挙げている候補としては、半導体やレアアース、電気自動車などに使われる大容量の蓄電池、医薬品があります。

ただ、これらの物資だけでも、それぞれの部品や原材料を細かく分類すると、候補が膨大な数となり、内閣府や各省庁の間でも詳細にわたる議論が行われているということです。

一方、「官民重要技術の支援」で、政府が基金を通じて財政支援を行う対象となる「特定重要技術」については、「基本指針」の中で、AI=人工知能やバイオ技術、それに半導体技術や量子情報科学など、20の分野で調査研究を進め、今後順次、支援する具体的な技術を決めていくとしています。

渡邊記者
渡邊記者

対象の範囲がすごく広そうで、まだ実感がわかないですね。

今回、要件などを定めたものの、国が支援する上でポイントとなる「経済安全保障上の重要性」という観点が、どうしてもあいまいな部分があるため、いかに優先順位をつけ、迅速に絞り込んでいくかの「目利き」が鍵となります。

私たちの生活の安定につなげるためとはいえ、支援の財源は税金です。

後で振り返った時「効果がなかった」「むだづかいだった」とならないよう、選定のプロセス含めてしっかり見ていく必要があります。

渡邊記者
渡邊記者